B’zが歌う「NATIVE DANCE」の隠された謎に迫る。

僕は昭和53年生まれなので、音楽の目覚めと言えばB’zだったんですよ。小学校の友達が「Easy Come, Easy Go!」のシングルを見せてくれたのが初めてだったかな。

それで最近「なぜB’zはここまで長く、受け入れられ続けたのだろうか」と思っておりまして。B’zについて考えることで時代の流れを読み解くことができるのではないかと考えていました。そんなとき、同級生の@hnymht さんがこんなツイートをしていて。

それを受けてこんな返信をしていました。(おっさんが何を話してるんだという話ですが、むしろおっさんだから同世代の話をするんです。)

ここで疑問に思ってしまったんですが、「NATIVE DANCE」が収録されているアルバム『RUN』発売1992年10月時点で、稲葉さんが借りた「さっぱりわからない恋愛小説」って何なんだろう。どの小説だろうか。そう考えてしまったら気になって。ちょっと考察してみました。ぜひ「NATIVE DANCE」の歌詞を見ながら、実際に聴きながら読んでください。

1992年頃、どんな本が流行していたのか

前作の『IN THE LIFE』が1991年11月発売なので(アルバム出すペースが早いな)まずはその頃だと予想してみます。やっぱり貸すならベストセラーですよね。

ちょっとこちらのサイトにまとまっていたので参考にさせてもらうと、1990年の1位は『愛される理由』。

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1991年の1位は『Santa Fe』。

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1992年の1位は『それいけ×ココロジー』と並んでいますが、どの年もベスト30に恋愛小説と呼べるものは並んでないんですよ。

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強いて恋愛小説を探すと、1992年10位の村上春樹「国境の南、太陽の西」があります。1992年10月発売と『RUN』と発売日も近いので、この本がそのまま「借りてた恋愛小説」ではないですが、当時「ノルウエィの森」がブームだったんですよね。村上春樹を貸したがる人というのが多かった時代なんです。村上春樹の世界観がわかるかどうかで、人がジャッジされていたような気がします。今考えると、リア充に対する本好きの逆襲ですよね。

当時、ハルキストという言葉が流行しているくらいのブームが到来していました。ちょっと前の、スタバでマックブックエアー開いている男子みたいなノリで流行っていました。「本を読む人がカッコいい」という空気が少しだけ醸成されていました。

その時、「ノルウエィの森」を面白いと言う人とそうでない人というのが明確にわかれていましてですね。そこには分断が起こっていたんです。ちょっと前の、「エヴァンゲリオンがわかるか、わからないか」と似た空気ですね。

「NATIVE DANCE」が伝えたかったこと

「NATIVE DANCE」の話に戻ります。歌詞に「むしろ難解なゲイジュツ論 続ける方が危なかった」とあるように、稲葉さんは恋愛小説について「わからないまま」言葉を交わすことに不安を感じていた。わかってしまったら友達になってしまう危険性があった。恋人になれずですね。

だから「そうじゃない、”ちゃんと見て僕の最高のステージ”」だと言うんですよ。想像上のやりとりではなく、現実世界で踊ろうぜって伝えるんです。ちゃんと付き合いたいんです。
そうなると「飾りすぎてたみたい」とか「あなたの喜ぶ顔だけを 見たがってたアオい自分」みたいな言葉が理解できますね。

本好きな女の子に気に入られたくて「ノルウエィの森、面白いよね」って言ってしまった僕が「ありのままを見てほしい」と伝えるシチュエーション。これはあるあるですよね。わかります稲葉さん。俺たちの稲葉さん。

それから「譲ってくれたビデオ いかしてる」とあるので、本では分かり合えなかったんだけど、音楽では通じ合えた部分があったんだと思うのです。でもそれはベストセラーではなくマイナーな音楽だったかも。洋楽だったイメージですね。それも、ボンジョビみたいなメジャーどころではなく。

ギターを弾いたらモテると思っていた男子の皆さん

というわけでB’zの「NATIVE DANCE」は、好きな人に気に入られるために相手に合わせて会話してたんだけど、もう野生に戻ろうぜ裸の声に導かれようぜ(意味深)って伝える歌ですね。書を捨て街に出ようみたいな話です。

想像してくださいよ、当時男子だった皆さん。クラスにちょっと気になる人がいて。おとなしくて、教室で静かに本を読んでいたようなあの子ですよ。やっと少し話せるようになったと思ったら村上春樹とか貸されてしまうんですよ。仲良くなりたいから読むじゃないですか。でも面白いとは思えなくて。

そうなると、やっぱり「俺のギターを聴きに来い!」という気持ちになると思うんですよ。同世代の僕らは皆、ギターが弾けたらモテるようになるはずだと思っていたから。今思えば、そんなわけないだろと思いますけどね。馬鹿だなあと思いますが、その気持ちが音楽シーンを発展させたこともまた事実かと。

1990年初期の空気を思い出す

1990年代初期ってこんな雰囲気だったんですよ。湾岸戦争があって冷戦が終わって、バブルが崩壊したけど狂乱の時代が続いていた頃の、男子高校生の日常。ちなみに後世で「ありのまま」という言葉が流行するんですが、僕の中ではここが初めて出会った言葉です。

最後に「あなたへの努力は いつまでも惜しむつもりはないよ」と言えるのが、稲葉さんのカッコいいところですよね。これを言えるか言えないかが、モテるかどうかの境目ですね。もちろん当時の僕は言えなかっただろうなあ。

それはともかく、この曲は20代後半だった稲葉さんの「高校生男子へのメッセージ」です。後輩想いですね。これからいろいろあってZEROになって、恋心を学ぶんだけど上手くいかなくて。「やっぱり男の友情だぜ!」って荒野をRUNするんだぜって。

そしてこの後「さよならなんかは言わせない」たちに繋がっていくんです。きっと稲葉さんは付き合うことはできたんでしょうね。でも大学進学で別れてしまう。

僕らは「また必ず会えるから」と言いながらも、離れ離れになってしまう。もしかしたら本当に好きだったのは「この子」かもしれないなんて思い出しながら、今も踊り続けているのです。


※文末になりますが、稲葉さん、松本さん、B’zファンの皆さん。サブスク解禁おめでとうございます。

※ちなみに僕は図書委員を8年ほど歴任した本好きで、村上春樹で言うと『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』の流れは本当に大好き。『ノルウエィの森』よりも短編「蛍」が好きです。

※ちなみに(その2)進学で離れてしまう僕らが残してきた想いというのは、シンエヴァの終わりに通じるところがありまして。これも誰も言ってないので書きます。

※ちなみに(その3)細かいところを微調整しました。書いてなかったけど、この時期の高校生男子の内面を掘り下げた歌が「YOU&I」で、大学行ってだいぶたってからよりを戻す世界線の話が「Warp」です。これがオリジナルの香りです。需要があれば解説します。

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