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64.北欧メタルを掘り下げる①:ノルウェー編 = COMMUNIC

北欧メタルとはフィンランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、アイスランド出身のメタルバンドの総称です。特に現在「北欧メタル」として盛り上がっているのがフィンランド、スウェーデン、ノルウェーの3国。これから3回連載で、この3国のメタルシーンを各国の推しバンドと共に紹介し、聴き比べていこうと思います。第1回目はノルウェー編です。

なお、スマホでいろいろ音楽系noteを読んでいると「音楽を聴きながら記事を読みたい」というニーズを感じるのですが、動画を埋め込むとスマホは動画が全画面になり「読みながら聞きづらい」と気付きました。なので今日取り上げる曲プレイリストのYoutubeリンクも張っておきます。こちらのリンクからだとYoutubeでバックグラウンド再生しながら記事を読めます。

さて、本編スタートです。

今日の一組目、COMMUNICの紹介です。2020年10月29日に5thアルバム「Hiding From The World」がリリースされたばかりなのですが、これが素晴らしい出来。2003年結成、2005年デビューの中堅バンドですが、一般知名度で言えば「知る人ぞ知る」という立ち位置で日本ではあまり知名度が高くないと思います。北欧、ノルウェーらしい泣きメロと、「プログレ・メタル」に分類されていますが、どちらかといえばDream Theaterなどのテクニカルなメタルよりデンマークの大先輩であるMercyful Fate(King Diamond)の影響や、Raibowなどの様式美バンドからの影響を感じます。曲展開はあるもののテクニカルというよりは泣きのメロディー主体で物語が展開していく印象。あまり見た目が派手なバンドではないのでMVは華には欠けますが、個人的には今年のヒット作です。

ノルウェーによく行く知人から聞いた話だと「ノルウェーとフィンランドは辺境的で田舎、スウェーデンは(その3国の中では)都会で洗練されている」とのこと。確かに、音楽的にもそんな印象があります。フィンランドとノルウェーは方向性は違うものの泣きのメロディというか、どこか垢抜けきれない、それゆえに猛烈な煽情性や独自のカリスマ性を持ったバンドが誕生し、時々そのメロディセンスの特異性ゆえに突き抜けた存在が生まれる。スウェーデンはどちらかと言えばその二国とドイツ(ジャーマンパワー/スラッシュメタル)の中間ぐらいで、もっと洗練されているし曲作りもカッチリしているが、その分泣きの煽情性はやや薄いというか、土着的である意味演歌的ともいえる猛烈なクサメロが薄い。個人的にはそんな印象を持っています。個人的な嗜好度から言えばフィンランド>スウェーデン≧ノルウェーかな。ノルウェーはブラックメタルの印象が強いんですよね。ノルウェジアン・ブラックについては後述しますが、個人的にはフィンランド、スウェーデンの北欧メロデスの方が好みです。ただ、今回改めてそこも掘り下げて聞いてみようかなという。

一曲目のCOMMUNIC、この曲は何気に9分半あります。起伏、展開が激しいのであまり長く感じないというか、「気が付いたら他の曲になっていたような感覚」がありますが、これだけの長尺曲を聴かせるというのは大したもの。正直、このバンドを見つけて「ああ、ノルウェーっぽい泣きメロってこういうものなのかもなぁ、フィンランドとは違うけどこれはこれでいいなぁ」と思ったので今回の企画を思いつきました。こういう掘り出しバンドを見つけると新譜を漁るのが楽しくなります。

さて、2バンド目は大御所ENSLAVEDです。

ENSLAVEDは1991年結成1994年デビュー、もともとはブラックメタル的な音像で「ノルウェイジアンブラックメタル」の一つに数えられるバンドでしたが活動の中で音楽性の幅を広げ、より表現力豊かな音世界を構築しています。スウェーデンのOpethなどとも比較される存在ですね。それほど変拍子や超絶テクニックがあるわけではありませんが、コンセプチュアルなアルバム作成や曲展開の巧みさからこちらも今やプログレの範疇でもとらえられるバンドです。こちらの曲は2020年のアルバム「Utgard」から。北欧的、というか、ノルウェー的なメロディが堪能できます。

続いてKVELERTOK(クヴァラータク)。

KVELERTOKは2007年結成、2010年デビュー。ノルウェイ本国のナショナルチャートでは1位を取るほどの人気バンドです。この曲はメロウなスタートでメロディアスな曲ですが、基本的にはカオス気味に暴走するロックンロールバンド、北欧にはこうした暴走ロックンロール系のバンドの系譜もあります(たとえばスウェーデンのヘラコプターズなど)。そういう暴走気味、ゆがみまくった一歩間違えればノイズ、混沌の中から立ち上がってくるクサメロが美醜のコントラストで強烈に印象に残る、というバンドがノルウェーにはけっこう存在しますね。ノルウェジアン・ブラックメタルはまさにそんなジャンルです。この曲はクサメロまでは行かず、暴走系、ロックンロール系なのでやや爽快な展開ですがやはりマイナー調というか、哀愁を感じるフレーズ、メロディが出てきます。お国柄で、メロディの好みというものはあるのだなぁと感じます。フィンランドのバンドはどこかすっとぼけたユーモアみたいなもの(本気か冗談か分からない)を感じることが多いのですが、ノルウェーにはメロディーに人懐っこさ(日本人にはなじみのある哀愁感)は感じるものの、今のところあまり笑いの要素はありませんね。

続いてはConceptionです。

Conception(コンセプション)は1989年から1998年にかけて4枚のアルバムを出した後、ボーカルのロイ・カーンがUSのメタルバンド「キャメロット」に引き抜かれて解散。その後ロイ・カーンが戻ってきて2018年から活動再開、こちらは2020年に出た13年ぶりの5thアルバム「State of Deception」からのナンバー。かなり複雑なメロディを卓越したボーカル力で歌いこなしています。とはいえノルウェー的な哀愁というか、連続してノルウェーのアーティストだけ聞いてくるとなにか通底する雰囲気がありますね。こういう音階とか哀愁はおそらくノルウェーの土着の伝統音楽から来ているのでしょう。バイキング文化なので、ケルトとかあのあたりとも近いとは思いますが、そのうち北欧3国の伝統音楽も掘り下げるとより理解が深まりそうです。とはいえUKフォークやケルト音楽とも違うし、スウェーデンやフィンランドとも微妙に違う(似てはいるけれど)のは面白いところです。

続いてはブラックメタルの大御所Darkthroneです。

Darkthrone(ダークスローン)は1987年結成、1991年デビューのノルウェイジアンブラックメタルの一員。1991年当時、このDarkthroneや後で紹介するメイヘム、エンペラー、バーズムらと共に(ブラックメタル・)インナーサークルというシーンを結成していました。最初は音楽仲間同士のコミュニティだったようですが、その中で抗争が起き死人が出る騒ぎに。ギャングスタラップなどではそもそもマフィアの一員や麻薬の売人がラッパーになることもあるので抗争で死人が出るケースが複数あるようですが、メタル界ではなかなか珍しい過激な事件です。インナーサークルについて興味がある方はWikiの記事をどうぞ。ただ、Darkthrone自体は長いキャリアの中で少しづつ音楽性を変えておりパワーメタル、伝統派メタルへの接近も見られます。この曲はかなりリフや曲構成が正統派メタルっぽいですね。好き嫌いはありますが個人的には好きな方向性です。こちらは2016年リリースの「Arctic Thunder」からのナンバー。ライブは行わず録音物のみの活動ですが今でも現役で活発に活動しています。

続いても激烈なバンドを。Cadaverです。

Cadaver(カダヴァー)もベテランで1988年結成、1993年に解散、その後も結成と解散を繰り返し、2019年に再度始動、2020年に5thアルバム「Edder & Bile」をリリース、そこからのナンバーです。激烈な疾走感がありながらきちんとメロディもあり、さすがの作曲能力です。ちなみに少し紛らわしいですがドイツに「KADAVAR(カダヴァー)」というバンドがあり、こちらは70年代的なビンテージなハードロックを奏でています。混同すると混乱するのでご注意ください。

少し耳を休めましょう。leprousです。

leprous(レェプラス)は2001年結成、2009年デビュー。いわゆるプログレメタルというかニューメタルというか、アルバムごとにかなり音楽性を拡張、変化させてきたバンドです。リンキンパークやブリングミーザホライズン(BMTH)的な大幅な変化で、2020年の最新作「Pitfalls」ではエレクトロニカ、トリップポップなどメタルからはかなりかけ離れた音像になりました。こちらは2015年リリースの4thアルバム「The Congregation 」からのナンバー。

続けてもう1曲爽やかな曲を。北欧メタルと言えばこのバンドを連想する人もいるでしょう。TNTです。

TNTは1982年結成、1983年デビューの初期北欧メタルの看板バンドのひとつ。スウェーデンのEuropeと並んでこの爽やかながらどこか哀愁があるメロディを「北欧メタル」のイメージとして持っている方もいるでしょう。看板ボーカルだったトニー・ハーネルは脱退してしまいましたがスペイン人の新ボーカリスト、バオール・バルドー・バルサラを迎えて今も現役で活躍中。こちらは2018年リリースの13thアルバム「XIII」からのナンバーです。メロハーの殿堂、イタリアのフロンティアレーベルからのリリース。今も変わらぬ透明感ある歌メロを聴かせてくれます。

続いてTrollfest。こちらはユーモラスですね。ちょっとフィンランド的。

Trollfest(トロールフェスト)は2003年結成、2005年デビューのフォークメタルバンドです。こちらの曲「Der Jegermeister」はイェーガーマイスターというお酒をたたえる歌ですね。同じテーマの曲がフィンランドのフォークメタルバンド、Korpiklaani(コルピクラーニ)にもありましたね。北欧フォークメタルバンドにとってイェーガーマイスターは避けて通れないテーマなのでしょうか。様々なイロモノ、、、もとい実力派バンドがそろったNapalm Recordと契約し、現在はニューアルバムの準備中と思われます。こちらは2020年10月にリリースされた新曲。パーティー感満載で新譜が楽しみです。

さて、ブラックメタルの世界に戻りましょう。DIMMU BORGIRです。

DIMMU BORGIR(ディム・ボルギル)は1993年結成、1995年デビューのシンフォニック・ブラックメタルバンドです。ノルウェーのナショナルチャートで1位を取るほどの人気バンドで、このジャンルでは最もビッグなバンドの一つ。現在のノルウェーのメタルシーンの中で最も商業的に成功しているバンドかもしれません。ブラックメタル的な世界観はあるもののリフはパワーメタル的でかっちりしており、メロディも豊富です。この曲は途中にフォークメタル的な要素も出てきますね。ノルウェーのメタルの特長を抽出し、統合・洗練したような音楽。人気バンドだけあり攻撃性や暗黒面だけでなく娯楽性が高く音像も心地よい完成度です。

だんだんと攻撃性を上げていきましょう。Gorgorothです。

Gorgoroth(ゴルゴロス)は1992年結成、1994年デビューのベテランです。今回は基本的に「ノルウェーのメタルシーンを代表するバンド(かつ、今も活動中のバンド)」を選んでいるのですが、比較的ブラックメタルの人たちは息が長く活動しているんですよね。なのでベテランが多くなりました。そもそも商業的な成功を目的にスタートしているわけではなく、最初はとにかく闇雲にフラストレーションの発散、自分たちなりの表現方法として特殊な音像が生まれ、そこにコアなファン層と、先のインナーサークルなどに代表される暗黒的な逸話が混じって伝説となり、結果としてアンダーグランドなシーンが人々の注目を浴びて受け入られ、続いているのでしょう。最初から商業的な成功を目指したシーンではないからこそ「人からどう思われようが俺はこれをやるんだ」という気概があり、バンドもファンも根強いのかもしれません。とはいえ、ひとつ前のディム・ボルギルはノルウェー国王の前で演奏したこともあるそうで、もともとは社会からはみ出していたブラックメタルでしたが今やある程度の認知と愛好をされているようです(まぁ、「皆に愛されるブラックメタル」というのもどうなのかという気はしますが、、、)。

続いてはSatyriconです。

Satyricon(サテリコン)は1990年結成、1994年デビュー。ノルウェジアン・ブラックメタルの黎明期から活動するバンドのひとつで、インナーサークルの一員と目されています。当初からブラックメタルにトラッド(フォークメタル)的な要素を加えた音楽性で、長い歴史の中でだんだんとシンフォニックさやパワーメタルへの接近を行っています、こちらは2017年リリースの7thアルバム「Deep Calleth upon Deep 」からのナンバー。この曲もブラストビートで疾走するブラックメタル的な激走、激烈感よりはメロディアスで耽美的な暗黒的な世界観です。メンバーは2名で、ドラム以外をすべて手掛けるサティアーとドラムのフロスト。スタジオ盤(録音)だとサティアーがすべての楽器を演奏しているいわゆる宅録系ブラックメタル(後述のBurzumもそう)ですが、こちらはライブ活動も行っておりライブ時にはサポートメンバーが付きます。インナーサークルに関与しながら事件とは関与がなく逮捕者も出ていません。ブラックメタル勢の中では最初にメジャーレーベル(EMI)と契約したバンドでもあります。音楽性は暗黒的ですが悪魔崇拝(サタニズム)とは一定の距離を置き、初期から音楽的な追及をしていたバンドです。

続いて、こちらもノルウェイジアンブラックメタルを語るうえで外せないバンド、MAYHEMです。

MAYHEM(メイヘム)は1983年結成、1986年デビュー。リーダーであったギター/ボーカルのユーロニモスが1993年にBurzumのヴァルグ・ヴィーケネスによって殺害されるという事件があり活動を停止しますが、1994年にドラムのヘルハマーを中心に活動再開。その後もいろいろとメンバーチェンジなどはあるものの現在まで活動を続けており、こちらは2019年リリースの6thアルバム「Daemon」からのナンバー。ノルウェイジアン・ブラックメタルの源流たる矜持を感じさせる完成度です。この辺りの狂気、極端な美醜、暗黒性はノルウェジアン・ブラックメタルの特色ですね。

続いてIhsahn(emperor)です。

Ihsahn(イーサーン)はEmperor(エンペラー)のボーカル/ギターで中心人物。エンペラーも現在まで活動はしているのですが新譜の発表がなくライブ活動のみ。イーサーンはソロでは活発に新曲を出しているのでソロ活動から。2020年にリリースされたEP「Telemark」からのナンバーです。Emperorは1991年結成、1992年デビューでノルウェジアン・ブラックメタルの中心的な位置にいたバンドですが、インナーサークルの事件でイーサーン以外の3名のメンバーが逮捕・懲役となってしまい活動が不安定に。その後、出所してきたメンバーと活動を再開しますが2001年、4thアルバム「Prometheus: The Discipline of Fire and Demise」リリース後に解散、その後2014年のWackenでライブ活動を再開、今に至るまで活動を続けています。Emperorは独自の気品と凄味がある音を出すバンドで、2017年のラウドパークでも来日。完成されたライブを披露していました。

さて、長いノルウェーメタルの旅もいよいよ最終章。この方を避けて通れない、Burzumことヴァルグ・ヴィーケネス (Varg Vikernes)です。

Burzum(バーズム)は1988年結成、1992年デビュー。当初は完全なブラックメタルでメイヘムのユーロニモスが主宰していたデスライク・サイレンス・プロダクションからリリース。その後関係が悪化し、1993年に刺殺事件を起こしてしまいます。獄中からもリリースを続け、15年にわたる服役の後2009年に釈放。その後はブラックメタルからは大きく路線を変えたダークアンビエント的な作品をリリースしています。こちらは2020年リリースの12thアルバム「Thulêan Mysteries」からのナンバー。もともとブラックメタルというのは一人で宅録するというか、パーソナルでDIY精神の発露による音楽でもあり、初期のノルウェジアン・ブラックメタルはこういうバンドが多いです。Burzumも基本的には一人プロジェクトであり、ライブは行われたことがありません。彼の成長や人生の変化に伴い、激烈な音像から静謐な音像へと心象風景の表現方法が変化していったのでしょう。Burzumは知っていても、ダークアンビエント期の音源を聞いたことがないメタラーの方も多いでしょう(私もそうでした)。こうして聞くとあまり本質は変わっていませんね。同じ人なので当然ですが、暗黒的な世界観はある程度維持されています。今回のプレイリストの最後にふさわしい曲かなと思って選びました。

さて、以上15曲、15バンドを紹介しました。こうしてノルウェーのバンドばかり聞くと何か共通するものだったり、あるいはもちろんシーンの多面性だったり、新しく気が付くことがありますね。あと、思ったよりノルウェーのバンドを聴いていたことにも気付きました。ENSLAVEDやConceptionは最新作のアルバムレビューをしていますし、Emperorもライブを見たことがあります。「北欧メタルではフィンランドメタルが好き」という自己認識でしたが、ノルウェーメタルも負けないぐらい好きだったことに気が付きました。今回調べたことを基に自分でももっと掘り下げていこうと思います。

あと、最初は「聴きながら読む」ためにノルウェーの(自分で思う)代表的なバンドの最新曲のプレイリストを作ってみましたが、案外プレイリストとしても聴きごたえがありますね。プレイリストマガジンの方にも追加しておきます。

またしばらくしたらスウェーデン編、フィンランド編を書きます。こちらも新しい発見が楽しみです。それでは良いミュージックライフを。

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