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LOUD PARK 2023@幕張メッセ 2023.3.25

行ってまいりました。LOUDP ARK2023。ラウドパーク(ラウパ)としては6年ぶりの開催。

2017 LOUD PARK 2017
2018 休み
2019 Download Japan 2019
2020 休み
2021 休み
2022 Download Japan 2022
2023 LOUD PARK 2023

今年はKnotfestも開催(なんと来週!)されますから、2017年以来「日本で二つの大型メタルフェスがある年」になります。

去年のDownload japan 2022の時はライブ自体は素晴らしい出来だったものの、声も出せなかったしまだ人もやや少なめで「メタルライブ完全復活は未だか」と感じるところもありましたが(→関連記事)、それ以降ガンズ、KISS、レッチリ、メガデスとHR/HM系の大物の来日が続きメタルファンの熱量も挙がっているように感じます。今回のラウパも昨年のダウンロードに比べるとかなり客の入りが多い。

会場内レポ

会場も去年は幕張メッセのホール1-3だったのが今年は9-11に。そういえばDownload Japan2019も9-11だった記憶があります。9-11だけちょっと場所が離れているんですよね。去年と同じく1-3かなぁと思ってイベントホールに入ったら別のイベントをやっていて脳内が「???」に。ちょっと迷いましたが無事に会場に到着。メタラーっぽい人たちが増えてきて安心します。

入場列、11時半ごろついたので空いている
物販列も短くなっていたけれどまだまだ行列中
入場、これぞ懐かしのラウパ
基本的にみんな黒(時々赤)
ラインナップ
フォトブース

さて、今回の会場内マップはこちら。

見てもらうと分るようにGOLDエリアが広い! しかもステージ間の移動がGOLDエリアにさえぎられているんですよね。実際に会場で観てみたら予想以上にGOLDエリアが広かったのと、あとは車いすエリアに挟まれたところが高台になっているんですよ。GOLDチケットがかなり見やすい設置に。

タイムテーブル

今年のタイムテーブルを観ると、ほとんどステージ間の隙間がないんですね。矢継ぎ早。去年のDLJ2022は1ステージだったから転換が長かったんですが今年は2ステージに戻ったのでほぼ連続でライブがある。AMARANTHE以降の全バンドをしっかり見たかったのでGOLDチケット取っておけばよかったなぁ、と後悔。一般チケットだとステージ前の方に行くと移動が大変そうです。一般券をアップグレードさせてくれればいいのに。

…と、思っていたらアップグレード制度がありました! この制度前もあったかなぁ? GOLDチケット買おうと思ったのが初めてだったから今まで気づかなかったのか。すでにビールを飲んでいい気分だったこともありアップグレード敢行。久々のラウパで浮かれていたようです。

GOLDチケットエリア

高台(車いすに挟まれたエリア)に上ってみます。ここは見晴らしもいいしそこそこ空いている(後半になると混んできましたが)。後、音響がいい。PA卓の隣なのでたぶんバランスがいいんですね。今回、ステージ前の方はバンドによっては爆音すぎたり、かえって音がモコモコしたりしたので基本的にこの高台から観ることに決定。

カレー!

無事に陣取ったらお昼を過ぎていたので食事を探しに。おなじみのケバブやカレーがあります。今年はカレーをチョイス。

今年見かけた一番カッコいい(主観)バトルジャケット

会場レポは以上です。それではライブレポ行ってみましょう。

ライブレポ

Jason Richardson & Luke Holland、H.E.R.O.、OUTRAGE、Bleed From Within

前座二組は会場入り間に合わず。最初4組は体力温存のため会場内の調査をしながらざっと見ました。

JR&LH、USのテクニカルデスコアバンド、元Born Of OsirisのギタリストJason Richardsonが若手の凄腕ドラマー、Luke Hollandと組んだプログレッシブインストユニット。かなりテクニカルでした。軽くしか聞いていないけれど好みの系統。DjentyでテクニカルなインストメタルというとPolyphiaとかにも近いですね。実際に交流があるようで下記の曲はPolyphiaのTim Hensonがゲスト参加。

続いてはデンマークのH.E.R.O.。同名の「HERO」という日本のビジュアル系バンドもいて検索しづらいですがメロディアスハードロック的なバンドです。ヘヴィなa-haみたいな感じ。デンマークで3人組というとDizzy Mizz Lizzyを思い出しますがこちらはもうちょっと歌メロに浮遊感があります。

H.E.R.O.、やけに音が大きかったんですよね。トリオだから音の数が少なかった分音量を上げやすかったのかもしれませんが。ステージ前の方に行ってみたら音が大きすぎてかえって聞きづらい。これはまずいなと思って今回はGOLD用の高台で観ることを決意。今回のライブに限って言えばもうちょっと音量を抑えめにしてくれた方がよかった気がします。歌も上手くてパフォーマンスの完成度は高かった。

歌メロは良かったけれど、ギターの音のザクザク感が少なくて個人的にはやや物足りないかなぁ。ふと考えてみると今年のラウパはかなりメタル寄りでしたね。ハードロック的なバンドは少ない。いろいろなスタイルのバンドを一度に見れる多様性はフェスの醍醐味ですね。

そして日本からOutrage。こちらは音の塊。バンドが変わるとPAも変わるし、それぞれのバンドの特性が音響に現れて面白いですね。かなりハードコア的な音作りで、最初のうちはボーカルがあまり聞こえず。MCもあまり聞こえませんでした。

前の方で暴れて楽しむ感じのライブでした。普段ならOutrageも前に見に行くところですが今日はこの後が長いので我慢。ここで昼食へ。

昼食から戻ってきたらUKのテクニカルメタルコアバンド、Bleed From Withinのステージ。こちらは情報量が多い(プレイヤーも多くて音数も多い)わりにしっかり各楽器の音が聞こえてザクザク感もあった。ミキシングが向上したというか、最近のメタルフェスの音ですね。Download UKを思い出しました。今どきのモダンなメタルという感じ。

そういえば今回、会場は基本的にステージ両脇にしかスピーカーがなかった気がします。これだけのハコで前にしかスピーカーがないと会場の場所によって音にムラが出る。前の方は大きすぎるし、音が反響しておかしくなるところもあるし。Download UKだと屋外で広さが全然違うこともあるでしょうが、スピーカー塔がステージ前面だけでなく2重に作られていたんですよね。なのでけっこう広範囲で音場が一定だった。

Download UKの様子 右わきに見えるのがスピーカー塔
ステージ脇以外にも、ステージから離れたところに
複数スピーカー塔があり会場全体に音を広げている

今回はPAの脇に陣取ったのでずっと一定の音質で楽しめましたが、ステージ前とか音が聞き取りづらかったんじゃないでしょうか。メタルライブは大音量で迫力ある音を楽しむものですが、同時にテクニカルな超絶芸を楽しむものでもあり、細かい音のニュアンスも聞き取れる方がいい。音響の専門的なことはわかりませんが今回は場所によってはかなり過酷な音量と音響になっていた印象です。屋内会場というのは難しいのでしょうね。そんな中でもしっかり各楽器の音を際立たせていたBleed From Withinの音響、PAは流石。大会場にPA担当者が慣れている気もします。イメージ通りの音をいろんな会場で流せるスタッフチームを持てるのもバンド力。


Amaranthe

スウェーデンのAmaranthe。ここからが本番で目当てのバンド達。ここからはずっとフルライブ観戦しました。

男女ボーカルに加えてハーシュボーカル(グロウル担当)もいるトリプルボーカル体制。3人のボーカルは迫力がある! 同じようにボーカリストが複数いるHelloween Unitedを思い出しました。合唱の力、歌の力が凄い。北欧的な歌メロ・コード進行+男女ハーモニーということでABBA meets Metalみたいな感じ。DLJ2019でもちょっと観ましたが今回はより貫禄もあって迫力が増している感じ。それぞれボーカルも上手いんですよね。女性ボーカルのElize Rydの歌唱力が分かる曲はこちら。

男性ボーカルのNils MolinもDynaztyというバンドのリードボーカリストでもあり歌唱力は折り紙付き。北欧らしい透明感がありつつ力強さもあるボーカリスト。野太さが少ないけれどしっかりパワフルな声です。

あと、ハーシュボーカルは今回はゲスト参加で正確な名前が分からなかったのですが、髪が緑色だったのでおそらくLost SocietyのSamy Elbannaだと思います。ハーシュスタイルだけでなくしっかり歌えるボーカリスト。

それぞれリードボーカリストとしてフロントに立てる3人が集まったステージ、すさまじい歌の力。北欧メロディが好きなこともあり、何度も琴線に触れる瞬間がありました。前半~中盤はテンション爆上がり。

ただ、ちょっと惜しかったのがElizeの調子が悪かった?こと。ややパワー不足というか、後半になるとパワーダウンしたように感じました。ほか2人が絶好調だったので全体としては良かったのですが、後半にかけて盛り上がっていくところがちょっとクールダウンしてしまったように感じたのは惜しかった。とはいえ前回のライブよりスケール感も曲のバリエーションも増えていたので単独公演があれば行ってみたいバンドです。


Carcass

「リバプールの残虐王」ことUKのカーカス。元Napalm DeathのBill Steerがギターを務め、ベーシストのJeff Walkersと1985年に結成。もともとは学生バンドで、Bill SteerはNapalm Death参加前から組んでいたバンドです。Billはずっとスマートなルックスですね。

とにかくザクザクしたデスメタル。調整和音というか、いわゆる「メジャーコード」「マイナーコード」の枠を意図的にはみ出して予定調和を拒絶し続ける。調が取れないんですよ。無調音楽みたいな感じ。ひたすらストイックにリフを切り刻み、共感を排除するような潔さがあります。ブラックサバスがやったトライトーンの不穏な響きだけをひたすら抽出して煮詰めていったのかな。己の美学をたたきつけるような佇まい。ただ、最近の曲は掛け声があったり、ちょっとしたコールアンドレスポンスがあって参加しやすい形に。長年やっているし、アリーナクラスのバンドですからね。ただ、そこで「メロディの導入」に安易にいかないのはめちゃくちゃ硬派でカッコいい。かなりストイックなライブでしたが観客も盛り上がっていたし僕も心に確かな熱量が溜まりました。「すごいバンド」の特徴って演奏を通じてだんだん熱量が溜まっていく。心に残るものがあることだと思っています。Carcassはすごいバンド。

そして終盤、名曲「Heartwork」のメロディが燦然と響く。予定調和をひたすら拒絶してきたストイックな彼らが美麗なメロディを導入した「Heartwork」はそれゆえにメロディがひときわ輝き、「メロディックデスメタルの先駆け」とも呼ばれるアルバム・曲になったんだなぁと実感。

余談ですがゲストで「Mr.LOUD PARK」ことマイケルアモットが来る可能性が少しあるかなと思っていましたがさすがに来ず。今アチエネでヨーロッパツアー中なので物理的に無理だったのでしょう。アチエネでこないだ来日たばかりですしね。


Stratovarius

フィンランドの至宝、ストラトヴァリウス。考えてみると80年代から活動を続ける「北欧メタル」第一世代で一番現役感があるバンドかもしれません。ほかの第一世代といえばTNTEuropeTreatあたりか。北欧メタルと言えばある時期からメロデスやブラックメタルが多くなりましたがもともとは透き通ったコーラスやメロディが特徴だったんですよね。

最初に思ったのは「音が小さい!」ということ。Carcassに比べると明らかに音量が小さくなりました。何曲かやっているうちにだんだん音量が上がっていきましたが、それまでのバンドに比べると多分絶対的に音量は控えめ。で、ボーカルがよく聞こえました。ティモ・コティペルトって決してハイパーボーカリストではない。どちらかと言えば線が細くて透明感のある声です。その声を前面に出しているミキシング。結論としてこれがすごくよかった。美メロを堪能できたし、コティペルトの声に酔いしれることができました。ゴリゴリにバンドの音量を上げたら声が埋もれてしまう。あえてこのバランス、調整にしているんだろうなぁ。自分たちなりのスタイルをしっかり作り上げているベテランバンドの凄味を感じました。

また、線が細いといっても最初から最後までほとんどフェイクなく歌い切ったし音程も安定していた。正直、コティペルトのこんなに歌が上手いと思っていませんでした。ミキシングでボーカル中心にしたゆえに無理に声を張り上げなくてよいからかもしれない。きちんとメタルボーカルの熱量も込めつつ、繊細なコントロールが行き届いていました。Amarantheと同じく「歌の力」を感じるメタルライブ。

もちろん、他のメンバーも見せ場はしっかりありました。キーボードはイングウェイとも組んでいたイェンス・ヨハンソン。そしてギターのMatias Kupiainenもイングウェイばりのネオクラシカルなソロを決める。ティモトルキ時代の曲ながらネオクラシカル(というかまんまイングウェイ)なStratosphereを序盤で披露。キーボードソロもギターソロも華がある。ベースソロもあったし、各人の見せ場をしっかり作るステージ。ボーカルを休ませる意図もあるのでしょうが、ソロパートがあると80年代メタル的な感じがしますね。

全曲良かったですが個人的にはUnbreakableが良かった。スピードメタルの中でちょっとミディアムでメロディアスな曲があったので印象に残りました(下記の映像は2013年のLoud Park)。


Nightwish

続いてもフィンランドからNightwish。Stratovarious~NightwishはSuomi Feast(フィンランドのメタルバンドだけ集めたフェス)超豪華版ともいえる並びでしたね。北欧メタル好きにはたまらんラインナップ。今年はBeast In BlackAmorphisも来日するし、フィンランドメタル好きには最高の年。

さて、Nightwish。ライブを観るのは初。こちらはまた違う方向でハイパーボーカリストというか、本当にオペラボーカルでした。改めてライブで観ると発声法が本格的にオペラティック。サラ・ブライトマンとかに近い。メタルボーカルとしては異質。

バンドってそれぞれ骨格、核となる聴き所があると思います。ドラムとベース中心とかギターとボーカル中心とかボーカルグループ(ハーモニー中心)とか。それで言えばNightwishはキーボードとボーカルが骨格だと感じました。そこに各楽器が加わってオーケストレーションを盛り上げる。メタリックなオペラやミュージカルを観ているかのような印象。そうした骨格を持っている故かわかりやすいメタリックなギターリフや最近のモダンメタルにある「リズムの強さ」はあまり感じなかったものの、さすが欧州トップレベルのバンドだけあってどんどん心の中の熱量が上がっていきます。単純に「いい音楽と歌」の力。もちろん、メタル的なサウンドレイヤーの分厚さ、音の迫力がさらに感情に訴えてくる。今回の北欧組はどのバンドも歌心があっていいですね。歌の力とメロディに感動。北欧のメロディ進行、コード進行が好きなんです。

Nightwishで一番印象に残ったのは「Last Ride of the Day」かな。

あと、けっこう伝統楽器担当兼男性ボーカルのTroy Donockleyにもスポットが当たっていました。イリアンパイプや各種縦笛を駆使し、フォークメタル色というか、ドイツのFaunにも近いペイガンフォーク的な雰囲気も。トロイはUK生まれでケルティックフォークのバンドを組んだり、ソロアルバムをリリースしたりと個人でも実績のあるミュージシャン。さすがの存在感でした。トロイの縦笛が活躍する曲をどうぞ。


余談ですが、Nightwishのステージ準備中の時に下記の画像が流れていました。モニター接続中の珍しい風景。

モニターに572*760pxの文字が

おお、ステージ裏の巨大スクリーンの画像って572*760ピクセルが3枚なのか。意外と解像度低いんだなぁ。でも、よく見たらあのスクリーンってひとつひとつのドットがかなり大きいんですよね。だから近づくとギザギザして見えるけれど、ドット一つ一つがしっかり光るからステージライトに負けないはっきりした発色になるんですね。

バックスクリーンをよく見るとギザギザ
1ドットが一つのライトで構成されている
一モニターが572*670個のライトで作られているんですね


Kreator

そしてドイツからクリーター。ジャーマンスラッシュの雄。物販でTシャツが全部売切れていました。すごい人気。ジャケットのデザインがカッコいいんですよね。ロゴもカッコいいし。

Kreatorの特徴って演奏がめちゃくちゃカッチリしているんですよ。もともと80年代にデビューしたときはハチャメチャだったのに。ある時期から一皮むけて演奏もプロダクションも一流になりました。パワーメタル的な勇壮さも身に着け、UDO時代のAcceptにも通じるジャーマンメタルらしいミドルテンポでの重戦車が迫ってくるような重厚感のある曲も演奏できる。今回のライブも「初期のハチャメチャな曲(をかっちりした演奏で)」「パワーメタル的な盛り上がる曲」「重厚感のある曲」が織り交ぜられたジャーマンメタルファン大満足のライブ。

MCで「今日この日を待ちわびていた! ジャパニーズスタイルのウォールオブデスを見せてくれ!」と煽るとWODからのモッシュピットが。というかこのMCよほど気に入っていたのか3回煽っていました。「Pleasure To Kill」や「Flag Of Hate」といった疾走曲では毎回大型モッシュピットが。ただ、さすがに3回目になるとみんな疲れたのか走り回る速度が遅くなっていたのは面白かったです。

今回GOLDエリアがステージ前面にありましたが、これ、2019年のDownload Japan(この時はVIPエリアという呼び方だった)から急にエリアが広くなった記憶があります。昔からあったけれどLoud Park2017ではそこまで広くなかった。DLJ2019ではVIPエリアがステージ前面の半分ぐらいを占めるようになり、そうなるとVIPの方が人口密度が少ない(チケット枚数が少ないし、そもそも「激込みが嫌」な人が取るチケットでもあるので)=ステージ前方に隙間ができる、ということでけっこう不評だった記憶が。盛り上がっていないように見えてしまいますからね。ただ、今回はGOLDエリアはより広くなったもののステージ前方の人口密度は変わらず。むしろエリアが広い分大きなモッシュピットができていた気がします。最近のメタルライブはSS席があるのが普通になっているし、買う人が増えたのかも。

疾走曲ももちろん良かったけれどミドルテンポの曲が今回は魅力的に感じました。ジャーマンメタルらしい重厚感とノリが感じられる「Violent Revolution」が個人的にはハイライト。


Pantera

いよいよヘッドライナー。USからパンテラ。ザックワイルドをギターにAnthraxのチャーリーベナンテをドラムに迎えた編成。ライブが始まる前から会場は熱気に包まれパンテラ復活を待ちわびた層の熱気が伝わってきました。

以前、「日本で売れたメタルアルバム」を調べたことがあります(→関連記事)。Panteraの「For Beyond Driven(悩殺)」が日本ではゴールドディスク獲得。10万枚以上売れています。日本でHR/HM系で10万枚以上売れたアルバムがあるアーティストって30組ぐらいしかいないんですよ。パンテラって日本では凄い人気なんです。ちなみにほかのメタル系(ハードロックやグラムメタルはいったん除外)で10万枚以上売れたことがあるアーティストはイングウェイ・マルムスティーンメタリカスリップノットハロウィンジューダスプリーストドリームシアターパンテラメガデスオジー・オズボーンあたり。ここにパンテラが入っているんです。そりゃ人気だわ。

PANTERAのライブを観たのは初なのですが、ライブを観て感じたのは「ああ、Black Sabbath的なヘヴィなブルースを突き詰めたバンドなんだな」ということ。思った以上にBlack Sabbathっぽいというか、「リフが曲の骨格を作る」「途中でリズムチェンジがあり、曲構成の先が読めない」感じがまさにSabbath。

あと、フィルのボーカルは怒号というかかなり歪んだ声で、これはハードコア由来だろうとずっと思っていたのですが改めて聞くとブルースなんだな、と。そもそも「歪んだ声の歌」というのは大衆歌であり、伝統音楽では昔からありましたが中世~近代の欧州ではオペラティックな歌い方、ノイズが少ない”美声”が貴ばれた。それに対してブルースはまったく違うわけですよね。しわがれた声の美しさ、味わいというものが評価された。一例で言えばハウリングウルフ(ブルース)~ブラックフラッグ(USハードコア)~90年代パンテラの「歪んだ声」というのはつながっているんだなぁと感じました。

そもそも、ギターリフ+歪んだ声、という組み合わせ自体が「ブルース」ですよね。かつ、彼らはフィルアンセルモ以外はテキサス出身(フィルもルイジアナ州なので近い)。テキサスはメンフィス(ミシシッピ・デルタ)、シカゴに並ぶブルースの本場です。そういう感覚がもともとあったのでしょう。

ライブでこんな感覚を持ったのでパンテラのアルバムを聞き直してみました。

結果、Panteraは最初からそうしたブルース感覚を持っていたわけではない。フィル在籍前の3枚のアルバム、そしてフィルが加入して最初のアルバム4th「Power Metal(1988)」までが「なかったこと」にされているパンテラですが、初期はパワーメタルやスラッシュメタル、あるいはグラムメタルといった「その時々のメタルシーンの流行り」によりそったアルバムを出していたバンドです。ただ、初期においても「特異なリフとボーカルの絡み合い」という骨子はだんだんと芽生えていて、「Power Metal」に入っている「Over And Out」は次作で「ここからPanteraが始まった」とされる名盤Cowboy From Hell(1990)に入っていても違和感がないスラッシュメタルの名曲。

ただ、このころのフィルの歌い方はまだいわゆる「80年代メタルボーカリスト」っぽいですね。ロブハルフォードやジェイムスヘットフィールド、デイブムステインからの影響を感じる。歪んだ声というよりはハイトーンのスクリーム。80年代においていわゆる「歪んだ声(ハーシュボーカル、グロウル)」というのはメタルというよりはハードコアの表現手法だった。Motörheadがメタルからもハードコアからも愛されるのはレミーの声が歪んでいるからです。80年代以前は歪んだ声のボーカリストはメタル界にはほとんどいなかった。

で、Cowboy From Hellも今改めてアルバムを聞くと過渡期のアルバムで、スラッシュメタルっぽさもけっこうあるんですよね。グルーヴメタルというよりはスラッシュメタル感が強い。フィルのボーカルもまだまだジェイムスヘットフィールドの影響を感じます。ある意味「きちんとベースが聞こえるメタルジャスティス」みたいなアルバム。

正直、「Cowboy From Hell」と「Power Metal」はけっこう音楽的には連続しています。Metallicaで言えば「メタルジャスティス」と「ブラックアルバム」みたいな感じ。あの二枚もいうほど変化はない(その次のロードで大変化する)。パンテラの場合、音楽性よりビジュアル面の変化の方が大きい。Power Metalではグラムメタル系のロングヘアのビジュアルでしたからね、Cowboy From Hellからは短髪のビジュアルになっているので違和感が大きい。これ、ジャケット変えてあらためてPanteraのアルバムとしてきちんと評価していい内容だと思います。

そして次作、「Vulgar Display of Power ”俗悪”(1992)」で一気に変化する。ここでパンテラ流ヘヴィブルースが完成します。Walkとか完全にブルース。

あとは、1992年という時代性もあってグランジ・オルタナティブムーブメントにもしっかり影響を受けていますね。「This Love」のヴァース部分なんかは完全にグランジサウンド。この曲は正直「グランジっぽいのを作ろう」と思って作った感じがします。

その次、「Far Beyond Driven ”悩殺”(1994)」。これがリアルタイムでは商業的にはピークで全米1位を獲得、日本でも10万枚以上売り上げます。これはブラックサバス色が強まっていますね。サバスのカバー「Planet Caravan」が入っているのもわかりやすいし、「I’m Broken」はかなりサバス流ブルース。ストーナー的でもある。

今回のセットリストは下記の通り。

(SE) Regular People (Conceit)※
1.Mouth for War※
2.A New Level※
3.Strength Beyond Strength◎
4.Becoming◎
5.I'm Broken◎
6.Use My Third Arm◎
7.5 Minutes Alone◎
8.This Love※
9.Yesterday Don't Mean Shit★
10.Fucking Hostile※
(SE) Cemetery Gates■
11.Planet Caravan(Black Sabbath cover)◎
12.Walk※
13.Domination■ / Hollow※
14.Cowboys From Hell■

■ Cowboy from Hell(1990)収録曲 3曲(SE含む)
※ Vulgar Display of Power (1992) 収録曲 7曲(SE含む)
◎ Far Beyond Driven (1994) 収録曲 6曲
  The Great Southern Trendkill (1996) 収録曲 0曲
★ Reinventing the Steel (2003) 収録曲 1曲

ということで、ほぼほぼ”俗悪”と”悩殺”からの曲。この2枚のアルバムこそがパンテラなのでしょう。この2枚を振り返れば「パンテラ流ヘヴィブルース (+サバス風の奇想天外な曲構成とリフ)」こそが本質だったのだと僕は感じました。

正直、90年代リアルタイムではパンテラってあまりわからないバンドだったんですよね。特に”俗悪”を最初に聞いたから余計にそうだったのかも。カウボーイフロムヘルから聞いていればまた違ったのでしょうが。僕はもともと欧州メタル、コード展開があってメロディアスなものが好きだったから当時はそんなにブルースが好きではなかった。ブルースってそんなにコード展開もメロディ展開もしないですからね。リズムや声、演奏そのものを味わうもの。メタルもリフよりボーカルラインを聞く方だったので当時はパンテラはあまり理解できなかった。

その後趣味嗜好が広がっていき、ブルースも聴くようになった今だからこそ理解できるパンテラの良さがありました。再発見。

その他の感想。

・ザックワイルドは予想以上にザックワイルドだった。パンテラのライブを観るのは初めてなので昔と比較はできないけれど、ザックワイルドのライブは観たことがあるのでそれに比べると「いつものザックワイルド」という印象。リフのタイム感やギターソロは完全にザックワイルド。

・チャーリーベナンテもパンテラよりは軽やかで「自分なりの味(Anthraxらしさ)」があった気がする。考えてみるとチャーリーベナンテとザックワイルドはNYとニュージャージー出身。テキサスとは感覚が違うのだろう。過去のPANTERAのライブ音源と聞き比べるとやっぱりちょっと違う。今のラインナップの方がちょっと洗練された感じがする。オリジナルはもっと泥臭い。

・ただ、この二人はめちゃくちゃ適任だったと思う。Anthraxも音楽性を変えてきたバンドだし、スラッシュからスタートして様々な音楽性を取り入れてグランジにも適応した。Zakkもオジーとやっていたしブラックサバスのコピーバンドも組んでいるぐらいだから「サバス的(トニーアイオミ的)な感覚」がある。これ以上の人選はなかったと思う。

・フィルの声は年を経てナチュラルにブルージーな声になっていて昔よりむしろ曲に合っていた。若いうちはブルージーな声ってある程度作りものだから。年と経験を経て実にブルースに合う声になっていた。

以上! PANTERAが終わったのは22時近く。10時間にわたるメタルの祭典が終わりました。

撤収!

例年なら「祭りが終わった…」感があるのですが、今年は今週末がKnotfestという大盤振る舞い。土曜日だけ参戦予定ですが楽しみです。

おうちに帰るまでが遠足です

それでは良いメタルライフを。

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