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CHVRCHΞS / Screen Violence

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CHVRCHES(チャーチズ、VはUのもじり、正式にはCHVRCHΞS)はスコットランド、グラスゴーで2011年に結成されたUKのエレクトリック・ポップトリオです。本作は4作目。ゴシックのアイコン、ザ・キュアーのボーカリストであるロバート・スミスもゲスト参加しています。

本作はザ・キュアーやデペッシュ・モード、ニュー・オーダーなど80年代のゴシックでダークな雰囲気をまとったニューウェーブ、シンセポップとの共通点があるようです。タイトルの「Screen Violence」は80年代のホラー映画にインスパイアされたそうで、もともとはバンド名の候補でもあったとか。80年代ホラームービーの雰囲気を生かしたコンセプトアートも公開されています。

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本作はパンデミック前の2020年2月に制作がスタート。アルバムコンセプトについてリードシンガーのローレン・メイベリーはインタビューでこう語っています。

「狩るか狩られるか。私にとってこのジャケットは、〈あなたは誰かを見てるけど、あなたも誰かに見られている〉ということを表現したもので、それは、〈スクリーン・ヴァイオレンス〉というコンセプトが持つコンテンポラリーな意味。いまの時代、みんな常に誰かを観察して批判しているわよね。どこかで誰かに見られ、どこでも誰かを見ている。ホラー映画の絶叫クイーンやファイナル・ガール(物語中で最後まで生き残る女性)のアイデアを参考にしつつ、それにひねりを加えて自分たちの世界に落とし込んでいる」。

本作は「女性であること」にも触れられており、「He Said She Said」はメイベリーが「実際に男性から言われたことを皮肉にしたり別の言葉に置き換えたり」して書かれたそうです。

「曲にするのにたった10年しかかからなかった(笑)。私がそのことを語るから、チャーチズをフェミニスト・バンドだと思っている人々は多い。音楽のことに触れず、そこにばかり焦点を当てるメディアにがっかりしたこともあった。私たちの曲はパーソナルなことを内容にしてきたからいままで書いてこなかったけど、それだって自分の生活の一部だと思ったし、32、33歳になって、そんなこと気にしなくなって、爆発しちゃったのかもしれない(笑)。だからこそ、私にはホラー映画がエキサイティングに感じられるんだと思う。女性なら誰もが、 見られている、追われている、支配されている、という感覚にある程度は繋がりを感じると思う。逃げようとして、あらゆる困難に立ち向かいながら、自分の安全のために切り抜けようとするホラー映画のファイナル・ガールのアイデアに引き込まれる理由の一つだと思うのよね。映画だけじゃなく、それは現実の生活にも当てはまると思うから。フェミニストなチャーチズの曲はこれまでに何度も書こうと試みた。でも、なぜかしっくりこなくて、いつもボツにしていた。でも書いてどうなるかなんて誰にもわからないし、そろそろ書いてもいいかなと思ったのね。すべてはタイミング。今回は書いてもいいと思えた」。出典

それでは聞いていきましょう。

活動国:UK
ジャンル:シンセポップ、インディートロニカ
活動年:2011-現在
リリース日:2021年8月27日
メンバー:
 Lauren Mayberry – vocals, drums, percussion, additional synthesizers
 Iain Cook – synthesizers, piano, guitars, bass, backing vocals
 Martin Doherty – synthesizers, samplers, piano, guitars, backing and lead vocals

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総合評価 ★★★★★

娯楽性が高い。「洋楽への入り口」としても機能しそうなアルバム。とにかく全曲ポップで口ずさめる、中毒性があるメロディラインを持ちつつ、それぞれの曲の個性もある。そしてボーカルの声質が良い。切り込んでくるような、注意を惹く声をしている。個人的にはいくつかの曲でシンディローパーを思い出した。音響的にも単なるポップスではなくそれぞれの楽器隊がこだわりを持ってアイデアを入れ込んでおり、流れていくポップスではなくビートやサウンドレイヤーで引っ掛かりがある。全体としてインディーロックな感覚・耳障りを感じるシンセポップス。ベタだが、全曲これほどのクオリティのアルバムはなかなか出ない。何気に実験性もあるし、聞いていて単純にカッコいい。「歌もの」としてもかなり高品質なアルバム。

1. "Asking for a Friend" 5:05 ★★★★

揺らぐ、差し込んでくる朝日のようなゆったりとした導入部分。声が入ってくる。ポップで弾むけれど少し憂いがある。80年代ポップ的、INXSとかロクセットとか。ただ、ビートやサウンドはエレクトロニカ的。心地よいけれどどこか棘というか突き刺さる感じがあるポップス。この「棘」の感覚、「刺さる感じ」があるのは面白い。和音が展開していき、メジャーとマイナーを往復する。

2. "He Said She Said" 3:09 ★★★★★

光が差し込んでくるようなサウンドから弾むような弾力のあるビートが入ってくる。柔らかいシンセのメロディに続いてシンディローパーのような弾ける声のボーカルが入ってくる。エレクロニカを通過した細かいビート。ハウスミュージックのように細かいリズムがテンションを上げるけれど、4つ打ちではなく余白があるビッグビート。ボーカルコーラスが多層に重なり、波のようにサウンドを形作る。レトロで新しい音像。

3. "California" 4:08 ★★★★☆

くるくる回るような、酩酊するイントロ。ポップなボーカルが入ってくる。メロディはポップでなめらかなのだけれどビートはけっこう引っ掛かりがある。素直に流れないというか、タメと突っかかりがあって、それが単なる「ポップで心地よい」だけでなくどこか違和感と緊迫感を生んでいる。メンバーの担当楽器のところにボーカルとドラム担当、とあるが、生でたたいている部分もあるのだろうか。妙にバンドサウンド感がある。この曲はギターもけっこう前に出てくる。

4. "Violent Delights" 5:20 ★★★★☆

雄大なシンセの和音進行、ビートが打ち鳴らされる。やや暗め、幽玄さのあるボーカルが入ってくる。コーラスで響きが明るくなるというか、音の焦点がくっきりして、ボーカルが切り込んでくる。ここまで聞いてきて、このアルバムはまずメロディがいいな。ど真ん中のポップスとして、メロディが良い。そこにけっこう実験的なビートやサウンドレイヤーが重なっている。刺激的。

5. "How Not to Drown" (with Robert Smith) 5:31 ★★★★☆

ザ・キュアーのロバートスミス参加曲。ビートの音が違う。より80年代的。ただ、キーボードの音の細かい区切り方は2020年代的。残響音をカットしたり細かいことをしている。ゴシック的なコード進行だが、ボーカルが歯切れよくポップで弾む、2番でスミスが出てくる。流石の存在感。コーラスではスミスの声はかなり加工されて、溶け込んでいる。

6. "Final Girl" 4:30 ★★★★★

ギターのフィードバックノイズが響く中、シンセのメロディがリフとして展開していく。そのサウンドにややキッチュなボーカルが乗る。ややダークさとアンニュイさがあるヴァースから、解放感というか青春的なハキハキしたコーラスへ。ギターポップのように音像が明るくなる。これはホラー映画で最後まで生き残る女性(ファイナルガール)の歌か。サバイバー。ドラムは機械的だがバンドサウンド感が強い、ベースがしなやかにコードを展開していく。

7. "Good Girls" 3:19 ★★★★☆

シンセサイザーのアルぺジエイターがバックを埋め、その上をボーカルメロディが駆けていく。開放感のあるコーラス。メロディがどの曲もよい。ボーカルの歯切れのよい発音とハキハキした性質が心地よい。いわゆるUSポップス、UKポップスのメロディではあるのだがどの曲もメジャーとマイナーの行き来がうまく、ポップでありがちというか昔っぽい感じなのだけれど曲のクオリティが高くて耳に残る。口ずさみたくなる中毒性がある。

8. "Lullabies" 3:45 ★★★★

シンプルなビートの上にピアノのアルぺジオが鳴る、やや静謐なサウンドながらボーカルが空気をポップに変えている。かけるような、加速感のあるボーカル。ポップスの魔法を感じる。かといって音は軽すぎず、音響的にも適度に中低音が効いているし、各楽器隊もそれぞれ主張している。

9. "Nightmares" 4:34 ★★★★

やや北欧ポップスのような歌い方、メロディアスなボーカルライン。ABBAを彷彿させる。と思ったらコーラスではそこそこギターサウンド的なものが出てくる。エヴァネッセンスみたいな感じもある。ヴァースではビートはややヒップホップ的。ブリッジではビートが間断なく打ち鳴らされ、コーラスではロック的な音像に変わる。途中、エクソシストのようなミニマルな反復。「ナイトメア(悪夢)」というタイトル通り、ホラー映画的なものも感じるサウンド。

10. "Better If You Don't" 3:32 ★★★★

オルタナ的なややゆがんだギター音、そのアルペジオに乗ってボーカルが進む。バラード。2番からビートが入ってくる。引っ掛かりがなく、シンプルかつミニマルなエイトビート。コーラスに向かう、ドラムが4つ打ちに変わる。

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