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2022年 HR/HM/プログレ系 年間ベストアルバム25

年間ベストアルバムの季節ですね。ベストアルバムを選ぶ作業は1年を振り返る気がして好きです。いろいろな人の年間ベストを読むのも頭の中をのぞくようで面白い。そんなわけで僕も年間ベストアルバムを選びました。毎年ランキングは企画を考えていて、去年はベストヘヴィメタルアルバムベストワールドミュージックアルバムを「各国1枚」づつ選ぶ、という企画で世界の音楽を広く紹介しましたが、今年はいわゆる王道の順位をつけるランキング形式です。

コンセプトとして「幅広くおススメできるもの」という基準で選んでいます。「個人的には好きだけれどマニアックだよなぁ」と思うものは今回のベストからは除外しました。なので、ハードロック(HR)/ヘヴィメタル(HM)/プログレッシブ・アートロック(プログレ)に興味があるけれどあまり聞いたことがない方への最新版入門おススメリストとしても機能するように選んでいます。

音の方向性で3つのカテゴリーに分けました。

1.ベストヘヴィメタルアルバム
2.ベストモダンメタル/ニューメタルアルバム
3.ベストプログレッシブ/アートロックアルバム

1.は「ギターリフとボーカルメロディが絡み合うメタル」です。基本的にメロディアス。グラムメタル系やメロハー(メロディックハードロック)も含む。欧州が多め。70年代~80年代に黄金期を迎えた「HR/HM」

2.はグルーヴに中心をおいていたり、ギターサウンドが明確でないもの。オルタナティヴ・グランジムーブメント(91年~94年)以降のメタル。USが多め。

3.は最近復調気味だと感じているプログレッシブ/アートロックのアルバム群。プログレッシブ「ロック」です。いわゆるプログレッシブ「メタル」は含みません(それは1か2に分類)。アートロックと呼ばれるバンド群やジャムバンド系も含みます。

全体的に、僕はメロディアスなものが好きです。また、メロディの嗜好としては基本的に欧州音楽(の影響下にあるもの)が好きです。そればかりでは飽きるので、スパイスとして非欧州的なもの(インドとかアジアの微分音階とか)も聞きます。あまりメロディがないもの、グルーヴが主体なものも聞いてはいますがどうしてもマニアックになるので今回のベストには入れていません。

選定方法として、今年一年間に記事(プレイリストやアルバムレビュー、頒布会)で取り上げてきた中から印象に残っているアルバムを聞き直しました。アルバムを通して聞くだけでなく各ジャンルで候補となるアルバムをそれぞれプレイリスト化してシャッフルで聴き、「ほかのアーティストに比べて明らかにテンションが下がる曲がないか」もチェックしています。テンションが下がると感じた曲が入っているアルバムは泣く泣く選外にしたので音質(迫力)、音量などのプロダクションや、アルバム収録曲それぞれのクオリティが高いアルバムだけを選別したつもりです。結果的に個人的な嗜好で強くフィルタリングされていると思うので、一般的に似た括りにされていなくても、通底する感覚があるアルバム群だと思います。各ジャンルで好きなアルバムがある方は他のアルバムも試してもらえると嬉しいです。

それではどうぞ。

ベストヘヴィメタルアルバム

7.Candlemass / Sweet Evil Sun

7.Sabaton / The War to End All Wars

7位は同率二枚。甲乙つけがたいものは同率です。1枚目はスウェーデンのドゥームメタル、キャンドルマスの新譜。キャンドルマスは1984年に結成され、何度かのメンバーチェンジはあったものの現在のメンバーは1980年代から活動を共にしている初期メンバー。ベテランならではの息の合った演奏と魔法があります。キャンドルマスは巨漢ボーカル(メサイア・マーコリン)の印象が強いですが、現在のボーカルはメサイア以前に在籍していた初代ボーカリストのヨハン・ランゲスト。1986年だけ在籍し、そのあと32年を経て2018年から復帰。こういう復帰劇はなかなか珍しいですね。ドゥームメタルの魔術的な要素を強く感じる音像。やや弱めの曲もありますが音そのものから発される凄味が強い。今回のアルバムはどれも「音の強度」が強いと感じたものを選んでいます。

2枚目は同じくスウェーデンのサバトン。1999年から活動を開始したグランジ・オルタナティブ以降のアーティストであり、「北欧メタル」を再構築した世代のアーティストです。彼らの魅力はドラマティックなパワーメタルを短い尺(3分台や4分台)の中に凝縮したこと。冗長性を排し、徹底的にソリッドなパワーメタルを作り出しました。スウェーデンの音楽史上最も成功したメタルバンドの一つであり、自国ではサバトンを冠したフェスを開催するほど。「戦争」をテーマにし続けており、勇壮さ、悲惨さ、極限状況での選択が描かれます。作を追うごとに彼ら特有の”コンパクトかつドラマティック”は完成度を高めており、1914年の英独戦における「クリスマス休戦」を描いた「Christmas Truce」はMVも含めて出色の出来。


6.Thunder / Dopamine

6位はUKハードロックの王道を歩き続けるサンダーの新譜。1989年に結成され、1990年にデビュー。デビュー当時はUKハードロック新世代として話題を呼ぶもUSのグランジ・オルタナティブムーブメントとUKのブリットポップムーブメントで変化していくハードロック市場の中で2000年代は低迷。しかし(ドラマー以外)不動のメンバーで活動を続け、2010年代からは再評価。ここ5作は連続でUKチャート10位以内、本作はスイスとドイツでも10位以内にチャートインするなど実力に見合った評価を得ています。そうした苦難の時代を経た故の凄みか、2010年代以降のサンダーのアルバムはどれも充実策。また、これだけのベテランでありながら多作なことも特徴で、本作も前作「All the Right Noises(2021)」からわずか1年でのリリース。USのアーティストはある程度成功すると新譜の間隔があいていきますが、UKのアーティストはコンスタントに新譜を出しますね。そしてインターバルが短いにも関わらずクオリティが下がらない。特にサンダーの近作は曲とかメロディの出来うんぬんより、演奏とか音そのものの魅力がどんどん増してきている気がします。僕の個人的な嗜好にとてもマッチした音。


3.Stratovarius / Survive

3.Amorphis / Halo

3.Ghost / Impera

3位は同率3枚。今年は北欧メタルの盛り上がりが凄かったですね。いわゆる「王道ヘヴィメタル」の中心地は完全に北欧に移った印象。大御所(1970~80年代デビュー組)がUK、中堅(1980~1990年代デビュー組)がドイツ、若手(2000年代以降デビュー組)は北欧が強い。

まず1枚目は北欧メタルの中でもキャンドルマスと並んで1985年(前身バンドを含めれば1984年)から活動する老舗、ストラトヴァリウスの新譜。TNTやヨーロッパとも同じ北欧メタルの第一世代とも呼べるバンドです。北欧メタルの中心地たるスウェーデンではなくフィンランドのバンド。ギターのティモ・トルキ(大ティモ)が強いリーダーシップをとって1985年から2000年代まで引っ張っていたもののいろいろあり2008年に脱退。そこからバンドが再構築され、ボーカルのティモ・コティペルト(小ティモ)とキーボーディストのイェンス・ヨハンソンを中心にした体制となってすでに5枚目のアルバム。前作「Eternal(2015)」から7年という彼らとしては過去最高のインターバルを置いて作られた本作はその長い空白を埋めるかのような素晴らしい作品でした。現在進行形の音でありながら北欧メタル第一世代を総括するかのような完成度。

なお、この世代ではTREAT(スウェーデン、1983年結成)の新譜「Endgame」も気を吐いていましたね。惜しくも選外にしましたが、今年のフロンティアレコードから出た一群のメロディックハードロックのアルバムの中ではかなり良い出来でした。北欧メタル好きな方はこちらもどうぞ。

同率3位の2枚目は真に”メロディアス”なデスメタルバンドであったフィンランド、アモルフィスの新譜。1990年代に「メロディックデスメタルバンド」と呼ばれるバンド群が北欧から出てきましたが、その中で異質だったのが1990年に結成されたアモルフィス。セカンドアルバム「TALES FROM THE THOUSAND LAKES(1994)」はスウェーデンのイェテボリのメロデスシーン(アットザゲイツやインフレイムズ、ダークトランキュリティら)とは一線を画し、アラビックな音階も取り入れたむしろイスラエルのOrphand Landにも共鳴するような独自のサウンドを築き上げます。スウェーデンのバンド達は90年代半ば以降はモダンなメタルに接近し、「デスメタル色」が薄れていき、アモルフィスも一時期は同様の方向に舵を切りますが特異な泣きメロの感覚は通底、心に切り込んでくるような凄味を増しています。本作も素晴らしいメロディの奔流。

Amorphisについては詳しい記事も書いていますので興味のある方はどうぞ。

同率3位、最後の1枚はゴーストのインペラ。スウェーデンで2006年に活動開始したゴーストは現在の北欧メタルシーンの中でもっとも世界的な成功を収めているバンドでしょう。本作は自国スウェーデンはもちろん、フィンランド、ドイツという欧州メタル主要国で軒並み1位。USとUKでも2位という近年のメタルシーンにおいて最高レベルの大成功を収めています。2022年の新譜で言えばUSでは一番売れたメタルアルバムなんじゃないでしょうか。本作はどこかELO(エレクトリックライトオーケストラ)やBostonも思わせる「USプログレッシブハードロック」的な洗練された音像を取り入れつつも、北欧メタルらしい耽美なメロディセンスを持ち、アイアンメイデン的な欧州メタル構築美を持った大曲"
Call Me Little Sunshine"も収録。アルバム全体としても「聴きやすいし、聴き込んでも飽きない」完成度。前々作「メリオラ(2015)」前作「プリクエル(2018)」に続いて本作と完成度が高く、商業的成功を収めるアルバム(3作連続でUSビルボード10位以内)を出し続けることで一線級メタルバンドとしての評価を確固たるものにしています。メタル系メディア以外でも評価されておりロック系の年間ベストなどで見かける印象。


2.Ozzy Osbourne / Patient No.9

ヘヴィメタルの創設者ブラックサバスのオリジナルボーカリストにしてメタル界のアイコン、オジーオズボーンの新譜。オリジナルブラックサバスの活動を経て、オジーのソロとしては劇的なカムバック作となった前作「オーディナリーマン(2020)」から2年。前作に引き続いてアンドリュー・ワットとタッグを組み、パーキンソン病との闘病を続けつつ出された本作は帝王の健在を印象付けるものでした。半生を振り返りつつも新機軸を打ち出した前作に比べると本作はコンセプト色は薄いものの、その分「いつものオジー」が帰還した印象。その中にも新機軸が織り込まれており、前作のエルトンジョンに続いて本作ではジェフベックやエリッククラプトンとのコラボがあり「UKロックという大きな文脈にヘヴィメタルを位置づけようとする意志」も感じます。一聴するとマンネリ感もあるのですが、この感覚を出せるアーティストはオジーの他にいない。ジェフベックの剃刀ギターが耳に切り込んでくる「Patient Number 9」は2022年を代表するギターリフ。「ギターリフとボーカルメロディが絡み合うメタル」のオリジネイターによる達人芸。

なお、本作はオジーのソロ史上初めてトニーアイオミが2曲参加しており、中でもトニーアイオミが作曲で参加した「No Escape From Now」が一番モダンメタル(たとえばMastodonとか、「Load」「Reload」期のメタリカにあったストーナーな感覚)に感覚的に接近しているのが面白い。アイオミは枯れていませんね。


1.Megadeth / The Sick, the Dying... and the Dead!

今年の1位はこれ、メガデスの新譜です。気が付いたら一番聞いていました。考えてみると前作「Dystpia(2016)」以降、デイブムステインの癌があり、デイブエフレソンの脱退がありで、メガデスは解散してもおかしくなかった。かなり危機的な状況を迎えます。そこからよみがえり、「宝の持ち腐れ」と言われていた元アングラのキコルーレイロ(Gt)も作曲時点から本格的に参加した本作で戻ってきた。アルバムから切られたリードシングルが「ファンがメガデスに求めるもの」を体現したようなザクザクしたスラッシーな佳曲「We’ll Be Back」だった時点でこれはもう力作の予感がしたわけです。

そしてリリースされたアルバムは、「疾走感の追求」というよりは比較的落ち着いたミドルテンポの曲が多めではありつつも、メガデスにしか出しえないソリッドなギターリフとボーカルの絡み合いがより研ぎ澄まされた形で具現化。意外とサラッと聞けつつ、気が付くとリピートしてしまう中毒性のあるアルバムになっていました。印象的なギターリフがたくさん詰まった今年一番聞いたメタルアルバム。USメタルにおけるリフマスターはデイブムステインとアナイアレイターのジェフウォーターズだと思っています。タイトル曲「The Sick, The Dying… And The Dead!」のコードが展開していくリフなんかはデイブムステインのお家芸、シグニチャーサウンド感があります。

「破滅へのカウントダウン」時代を彷彿させる曲もあり、「過去のメガデスの強みを再発見した」的なアルバム。MVも連作のドラマ仕立ての凝った作りになっており、ラトルヘッド(骸骨のキャラクター)が大活躍しています。メタリカが短編SF映画っぽいMVを作っていたのでそれに対抗意識を燃やしたのでしょうか。この辺りの”ひねくれた素直さ”が大佐の魅力。しかしこのシリーズ、チャプター5まで続くとは(しかもまだ続編がある様子)。


以上、ベストヘヴィメタルアルバムは8枚。なお、アルバムの完成度で総合的に観るとこのラインナップに入れるのはまだ厳しいので惜しくも選外としましたが入れるか迷ったのはUKから現れた新人のFellowship。ヘヴィメタル部門の新人賞は彼らです。ひたすら陽性でブリティッシュトラッドも感じさせるメロディセンスを持った新星。


ベストモダンメタル/ニューメタルアルバム

6.Rammstein / Zeit

6.Korn / Requiem

6.Shinedown / Planet Zero

続いてモダンメタル、ニューメタルのベストアルバム。同率6位が3枚です。1枚目はドイツのインダストリアルメタル(というか「ラムシュタイン」という独自ジャンルを築き上げたともいえる)バンド、ラムシュタインの新譜。前作「Untitled Album(2019)」が10年ぶりだったのに本作は3年のインターバルでのリリース。3年は別に短くないのですが、印象として「すぐ新譜が出たな」と感じました。本作は前作に比べるとちょっと肩の力が抜けたというか、「できた曲を入れた」という感覚。10年ぶりに作るアルバムと、3年後に出すアルバムではプレッシャーも違うのでしょう。その分聴く側も気楽に聞ける気がします。唯一無二の世界観は健在で、MVも凝った作り。メタル界で今一番面白い(訴えてくる意味がありつつ映像としてもカッコいい)MVを作るのはラムシュタインだと個人的に思っています。

6位2枚目、USニューメタルシーンを代表するKornの新譜。長年引っ張ったLimp Bizkitの新譜ががなりヒップホップに寄せた内容だったのに比べ、こちらは従来の「ニューメタル」路線を深化させた内容。Kornは今年の6月にUKのダウンロードフェスで観たのですがめちゃくちゃカッコよかったです。グルーヴがとにかく強靭。

正直、録音された音源だとライブの楽しさの半分も伝わってこないのですが、それでも「いいバンドだなぁ」と気づいたのでアルバムも聞いていました。来年のKnotfes二日目で来日するようですね。Knotfesは1日目だけ行く予定なので二日目をどうするか思案中。歌詞ではない奇妙な掛け声が耳に残る「Wors Is On Its Way」がライブでもハイライトを作っており、このアルバムからのベストトラック。

6位3枚目、こちらもダウンロードで観て気に入ったUS、オルタナティブメタルの大物シャインダウンの新譜。US5位、UK4位と商業的にも成功。日本での知名度はあまりないですが英米では大物です。

USのメインストリームで勝負しているだけあってメロディにフックがあり耳に残ります。バラードもいいんですよね。歌も上手いし、今のUSの「メインストリームのハードロック、ヘヴィメタル」というのはこういうところなんだろうなと実感。Burrn!を筆頭とする日本のメタルメディアはUSで00年代に商業的成功を収めたニューメタル、オルタナティブメタルバンド(CreedやShinedownやDisturbedなど)をそこまで大きく扱わないし、最近の欧米メタルメディアはもっと先鋭的なアーティストを取り上げることが多いのでこれらのバンドがあまり日本で紹介されていない気がします。メインストリームがちょっと断絶しているというか、リンキンパーク以降の2000年代が空白でいきなりBring Me The Horizon(2010年代のUKメタルコア)に飛んでいる印象。この辺りを聞き直すとわかりやすくてテンションがあがる魅力的なバンド群だと最近気づきました。


5.Freshwater / We're Not Here to Be Loved

5位はUSから2020年にデビューした男女ツインボーカルを擁する4人組バンド、フレッシュウォーターのファーストアルバム。新人らしからぬ完成度だなぁと思っていたら主要人物2人はハードコアバンドVein.fmで2013年から活躍しているメンバーで本バンドはサイドプロジェクトということのよう。なるほど、完成度が高いのはそうした下地があるからですね。「グランジサウンド」という言葉からイメージされる音像そのままながら、こちらはボストンのバンド。グランジの中心地であるシアトルとボストンはどちらもカナダ国境近くの北部の都市ながら、シアトルは西海岸近く、ボストンは東海岸近くと北西と北東に大陸を隔てています。全然別のシーン。そのボストンからこういうバンドが出てきたのが面白い。アメリカの中でも最古の部類に入る歴史あるボストンからグランジサウンドのバンドが出てきたということはグランジももはやUS音楽史の歴史なんだろうなとふと思ったり。まぁ、こじつけですがこういう”見立て”も面白いものです。今聞くと懐かしくも鮮烈なサウンド。

モダンメタル/ニューメタル部門のベスト新人はこのバンド。


2.Nickelback / Get Rollin'

2.Coheed And Cambria / Vaxis – Act II: A Window of the Waking Mind

2.Disturbed / Divisive

2位は同率3枚。まずはカナダのニッケルバック。「似たようなアルバムばかり出している」と揶揄されたりしていましたが、なかなかどうして、本作はバラエティに富んだ良質のアリーナハードロックアルバムです。むしろ80年代王道的なアルバムかもしれない。ちょっとレイドバックしたジャケットがカントリーかサイケデリックロック的ですが中身はエッジの効いたハードロック。デフレパードっぽい曲「Skinny Little Missy」もあったり(正直、デフレパードの新譜より楽しめました)、USならではの壮大な草原を感じさせつつもその中で暮らす人々のアットホームさを感じさせるようなバラード(キャンプファイアーに合いそう)もあったり、王道ゆえの力強さがあるアルバム。

80年代グラムメタルのバンド群を思わせるバラードも染みます。

続いての2位2枚目はUSはNYのプログレッシブメタルバンド、コヒードアンドカンブリアのニューアルバム。このバンドは面白くてプログレッシブな曲構成を持ちながらメロコアや(メインストリームでヒットした)90年代オルタナティブロックみたいなわかりやすい歌メロがあるんですよね。ちょっと80年代後半~90年代前半のRush的かもしれない。だけれどアルバムはコンセプトアルバムで、アメコミ的な架空の世界をテーマにした連作(Amory Warsシリーズ)を出している、という情報量がてんこ盛りでマニア心をくすぐるバンド。商業的にも成功しており2000年代から2010年代初頭にかけて5枚のアルバムを全米トップ10に送り込んでいます。本作も23位にチャートイン。USに人気が限定されていますが面白いバンドです。メロコア的な「The Liars Club」をどうぞ。アニメで描かれているのが本作の物語の一シーン。

コンセプトアルバムなのに1曲1曲はコンパクトでポップ、というのはサバトンにも近い感覚なのかもしれません。ただ、アルバムを通して聞くときちんと一つの流れとドラマがあるコンセプトアルバムなんですよね。アルバム最後は8分を超える大曲「Window of the Waking Mind」で締めくくります。この曲はRush的。

2位、最後の1枚はオジーオズボーンが「メタルの未来」と評したディスターブドの新譜。2002年から2015年まで5作連続で全米1位にアルバムを送り込み、USメタル界の頂点に立っていたバンド。前作「Evolution(2018)」がやや実験的な内容で全米4位と1位連続記録が途絶え、本作は原点回帰というか「Disturbedに求められるもの」に回帰しつつも進化した意欲作。チャートアクションは13位とさらに下降してしまったものの、これからライブツアーでどこまで盛り返せるか、というところでしょう。やはりこういうバンドはライブでみてなんぼ。旧来の80年代的なメタルバンドに比べるとグルーヴが強く、本作もかなりヒップホップ由来のビートが使われています。ただ、ドラムのパターンはヒップホップ的ながらメタル的なかっちりしたリズムになっているのが特徴。曲の中でかなりリズムが細かく変わっており聞き飽きません。

そもそもMetallicaもそうですが、USのメタルバンドはギターとボーカルの絡み合いというよりドラム、ビートとボーカル(あるいはギター)の絡み合いが聴きどころというバンドが多い気がします。上記の「Bad Man」もビートに注意して聞いていくと一定のビートがあるようでかなり細かくパターンが変化していきます。ボーカルの譜割も細かく変化していく。ハートのアンウィルソンをゲストに迎えたバラード「Don't Tell Me」にしても静かな始まりからだんだんと盛り上がり、リズムパターンが複雑化していきます。ギターリフとボーカルの絡み合い、というより、バンド全体が有機的に絡み合ってグルーヴを作っていく、USメタルの王道を行くバンド。


1.Bloodywood / Rakshak

そして1位、ついに出た! インドの新星ブラッディウッドのデビューアルバムです。当ブログでは常連のブラッディウッド。そもそもこの音楽ブログを書き始めるきっかけになったバンドであり、「まだメタルには新しい可能性があるのだ」と確信させてくれたバンドです。収録曲の大半がすでにシングルとして発表されていたにも関わらずアルバム全体としてみると「ブラッディウッドというコンセプト」がより分かりやすく、明確な形で示されていました。ボリウッドサウンドとメタルを組み合わせた独自のサウンドながら、そこから「インドのメタルバンド」というアイデンティティを確立。非西洋圏から出てきたバンド、旧宗主国であるUKで生まれたヘヴィメタルという音楽をインドの血肉として表現しきっています。彼らの現時点でのコンセプトが結実した曲と言える「Gaddar」をどうぞ。インド音階、伝統楽器の音を入れながらニューメタル的な高揚感、歪みの感覚があり、そしてボリウッド映画音楽的な爽快感や開放感もあります。

より詳しくはこちらの記事もどうぞ。

以上、8枚がベストモダンメタル/ニューメタルのアルバムです。


ベストプログレッシブ/アートロックアルバム

「プログレッシブロック」という形態は1970年代に頂点を迎え、80年代以降は影を潜めていましたが、2020年代になって再度盛り返しを見せているように思います。「プログレッシブロック」や「アートロック」と呼ばれるポップミュージックやロックミュージックのフォーマットを逸脱しよう、クラシック的な組曲や大曲的な音楽を作ろうというアーティストが増えてきました。そうしたバンドは一定数常にいましたがそれらが「話題になることが増えてきた」と言ってもいいかもしれません。僕なりの視点で「これはプログレの文脈で語れるな」と思うバンド、アルバム群を選んでみました。

7.Black Midi / Hellfire

7.Devin Townsend / Lightwork

7.Richard Dawson / The Ruby Cord

7位は同率3枚。1枚目はUK、サウスロンドンシーンから出てきたブラックミディ。MIDI音源で複雑すぎる曲を作ると打ち込みデータが多すぎて画面が真っ黒に見えることから「複雑な曲」というスラングの「Black MIDI」をバンド名に関する彼らは欧米のメディアでは「プログレッシブロック」や「ブルータルプログ」というサブジャンルにも分類されています。確かに、後期(ヌーヴォ・メタルを標榜していた)キングクリムゾンにも通じる質感。UKロックの歴史の一つとしてプログレは確固たる存在感があるわけで、それも踏まえてのポストパンク、ニューウェーブなのでしょう。高速反復フレーズからのジャズロックとの融合を魅せる「Sugar/Tzu」をどうぞ。イタリアンプログレのAreaとかにも近いかも。

7位2枚目、現代プログレシーンの才人デヴィンタウンゼントの新作。なかば集大成的な前作「Empath(2019)」から3年。間に2枚のアンビエントアルバムを挟んでの本作はよりパーソナルで自己の内面に鳴っている音世界に忠実に深化した作品という印象。普遍的な求心力では前作に劣るような気がしますが、デヴィンタウンゼンドのメロディセンスや音世界の純度はこちらが高め。かつて彼の音世界を最初に世界に提示し、「アンビエントメタル」とでもいえる唯一無二の音像で度肝を抜いた「Ocean Machine: Biomech(1997)」から25年を経てアップデートしたかのような音像。「おもわず口ずさむ歌メロ」があるポップな佳曲「Call Of The Void」は今年の私的ベストトラックの一つ。

7位の3枚目はUKのオルタナティブフォークの才人、リチャードドーソンの7枚目のアルバム。「プログレッシブフォーク」と分類されています。2枚組のアルバムながら1枚目は41分の1曲という変則的な作り。2枚目は小曲集(といいつつ10分越えの曲もありますが)なので、2枚目から聞いた方がとっつきやすい。ブリティッシュトラッド(アイリッシュではない)の伝統に沿った曲作りながら神経が研ぎ澄まされた芸術作品の風格がある作品。全体としての完成度が高いのですが、個人的に特に面白かったのはアイアンメイデンとの類似性を感じさせる「The Tip of an Arrow」。まぁ、メイデンはUKの国民的なバンドなので(日本だとサザンみたいな知名度と人気がある)当然知ってはいるでしょうが、メイデンを意識したというよりスティーブハリスが2000年代以降顕著に出しているブリティッシュトラッド的なメロディが通底しているというところなのでしょう。フォーク的な音像を取り入れたプログレが好きな方に刺さるであろう1枚。


6.Red Hot Chilli Peppers / Return of the Dream Canteen

6位はレッチリ。なかなかプログレの文脈で語られることはないと思いますが、このアルバム群に入れると不思議としっくり来たので入れました。2022年に2枚出したアルバムの2枚目。やや変拍子も駆使したドラムにうねりまくるベース、やや哀愁を帯びてきたボーカル、その上に浮遊するギター。ゴリゴリと動きまくるベースがちょっと(YESの)クリス・スクワイア的に感じたのかもしれません。気が付くとレッチリはサイケデリックでプログレッシブなバンドになっているんだなぁと気づいた1枚。かなり変拍子でプログレ的(Zappa的)な展開を魅せる「Fake As Fu@k」をどうぞ。


4.Elder / Innate Passage

4.King Gizzard & The Lizard Wizard / Ice, Death, Planets, Lungs, Mushrooms and Lava

4位は2枚。まずはドイツ、ベルリンのエルダーの6枚目の作品。プログメディアでは1位に押しているところもあり、納得の出来。いわゆる2022年の「プログレ/現代プログ」の文脈では1位になりうる作品だと思います。アルバム全体を通してドラマが進行していく、全5曲53分。5つのパートに分かれた組曲的な作り。1曲目のスタートはクラウトロックお家芸のミニマルな反復。そこからストーナー的な酩酊感あるパートに移行します。ずっと聞いていられるアルバム。YES的なギターハーモニーとボーカルが絡み合うパートもあり、プログレッシブロックの醍醐味が詰まった優れた作品。プロダクションが良好なのも高評価。聞いていると酩酊感が出てきて引き込まれるとても良いアルバムで実は1位にしようか迷ったのですが、「Elderならでは」の特徴というか、シグネチャーサウンドがまだ感じられないなぁと思って4位にしました。アルバム全体がyoutubeで配信されているのでどうぞ。

もう1枚はオーストラリアのキングギザードアンドリザードウィザードのアルバム。めちゃくちゃ多作なバンドで今年だけで5作品リリースしています(ちなみに2021年も2作品リリース)。Phishやグレイトフルデッドにも近いジャムバンド的な側面もあるゆえに多作なのでしょうが、今年リリースされたアルバムの中でも本作が一番アルバムとしてまとまっていた気がします。ちょっとファンキーで幸福感がある明るいサウンドのプログレ。聞いていて楽しい気持ちになれる一枚(だけれどしっかりスリリングな演奏が楽しめます)。こちらは逆に最初は(「プログレ/アートロック」という観点だと)もっと低い順位を考えていたのですが、聴いているうちにどんどん心の中に残ってきてこの順位に浮上。ちょっと探偵ドラマの主題歌みたいな、ダンディズムを感じるファンクなナンバー(でも10分以上ある)「Ice V」をどうぞ。(フェラクティのように呪術的ではなくフェミクティとかアンティバラスとかの比較的整理された)アフロビート meets UKジャズロックみたいな曲。


2.Banco Del Mutuo Soccorso / Orlando: Le Forme dell'Amore

2.Marillion / An Hour Before It's Dark

2位は2枚。どちらも「このバンドの個性」が確立した大御所の作品です。1枚目はプログレッシブロック黄金期である1970年代初頭から活躍するイタリアンプログレ第一世代のバンコ・デル・ムトゥオ・ソッコルソの新譜。バンドのアイコンであった巨漢ボーカル、フランチェスコ・ディ・ジャコモを2014年に喪った後、タレント発掘番組「The X-Factor」のイタリア版で注目を集めたハードロックボーカリスト Tony D'Alessioが加入。バンドが活力を取り戻します。本作はデビュー50周年を記念するアルバムで、キャリアにふさわしくかなり落ち着いた職人芸を感じるプロダクションですが、演奏は枯れ切った感じはなくまだまだ攻めています。イタリアンプログレ凄い。これだけの新作が出せるということに畏敬の念を感じます。

バイオリンとバンドのせめぎあいがスリリングな曲をもう1曲。ボーカルが生々しくて迫力があります。

そしてもう1枚は英国プログレ界第二世代(ネオプログレ、ポンプロック)を代表するバンド、マリリオンの新譜。2010年代後半から80年代の再評価が起こっており、デュランデュランやティアーズ・フォー・フィアーズがUKトップ10にアルバムを送り込んだりしていますが実はマリリオンもその流れか再評価されており、本作はなんとUKチャート2位を獲得。アークティックモンキーズとチャートアクションだけなら同じ成績です。というか、アクモンが最近目指している「アダルトロック路線」ってちょっとマリリオンに近いものも感じたり。マリリオンはもともとマニアックなバンドではなく、80年代の最盛期には全英1位をとったりしていますから再評価されればこれぐらいの順位になるのは納得なんですけれどね。フィッシュ脱退後、スティーブホガース時代としては過去最高の全盛期、ということになるでしょう。第二の商業的黄金期をマリリオンが迎えつつあるというのはあまり日本では知られていない気がします。アルバムの内容もそうした「大ヒットするアルバム」にふさわしい充実した内容。フィッシュ期のマリリオンがジェネシスと共通するものがあったとすればスティーブホガース期のマリリオンはピンクフロイド(デイヴィッドギルモア)に近いものがあるかもしれません。浮遊感がありつつ実は歌メロがしっかりしている。本作は曲数が多い(18曲)ものの大曲をパートごとに分けてトラッキングしているからで実質は7曲入り。複数曲に分かれた大曲が4曲とプログレファン垂涎の内容。トラックを細かく分けたのはストリーミングでの再生回数を増やすためなんでしょうかね。マリリオンらしさあふれる「Murder Machines」をどうぞ。

こうして聞くと、TheXXやAlt-Jとか、Arctic Monkeysの近作とか「浮遊感のあるUKロック」にマリリオンが与えた影響ってけっこう大きいのかもしれません。オリジネイターというよりはベテランながらそうしたシーンときちんと連動して音像を変化させ続けてきた、とも言えますが。いずれにせよ「今のUKロックシーンの最前線で活躍中のロックバンド」であることは確か。もう1曲、アルバムのオープニングトラックにして10分弱の大曲で「これぞマリリオン」と言える盛り上がりを見せる「Be Hard On Yourself」。


1.Black Country, New Road / Ants from Up There

1位はUKサウスロンドン出身の男女混合バンド、ブラックカントリーニューロードのセカンドアルバム。1位は迷いましたがこのアルバムにしました。1曲目から郷愁を誘うジャズロックの響き。強くUKを感じるとともにカンタベリー系に通じるサウンドだと思うんですよね。ベテランに比べるとまだ個性が熟しきっていない感じもしますが、バンドの過渡期としてのスナップショットとしての意味合いも含め2022年を代表するアルバムだと思います。

本作をリリース後、中心人物(ボーカル・ソングライター)が脱退してしまいツアーを延期。ただ、残ったメンバーで改めてサウンドを再構築し、新曲を作って再始動。その時のスタジオライブの模様がこちら。進化の過程。

あとは、ブラックカントリー(バーミンガムを中心とした重工業地帯)で生まれたヘヴィメタルミュージックを中心としたプレイリストで、最後が「ブラックカントリー、ニューロード」というのも収まりがいい。正直、なんでブラックカントリーという名を冠しているのか分かりませんが(サウスロンドンのバンドだし)、多層的な意味を投影できる良いバンド名だと思います。こういう「様々なものの投影のしやすさ」があるのはこのバンドの魅力なのかもしれない。彼ら自身には音楽を超えるエゴが(イメージとして)感じられず、そこに音楽と意味がおかれていて解釈はゆだねられている。そうしたありかたが2022年のアートロックだったと嘯いて本記事、そして2022年を終わりたいと思います。

それでは良いお年をお迎えください。

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