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Anderson .Paak / Malibu

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現代USシーンで注目を集めるSSWにしてマルチミュージシャンの一人、アンダーソン・パーク。米軍兵士であったアフリカ系アメリカ人の父親と,、朝鮮戦争のさなかに生まれた韓国人の母親の間に生まれたパークは、韓国人(母方)の祖父母に育てられ、その後孤児院に。そしてロサンゼルスに住むアメリカ人の夫婦に養子縁組されました。波乱の少年時代。

高校生の頃から作曲を始め、家族の教会でドラマーとして演奏。ミュージシャンとして成功する前はマリファナ農場で働いたり、2011年ごろには妻子を連れてホームレスになるなど苦労が続きます。

その後、US音楽界の重鎮にして実業家であるDr. Dreに才能を認められ、彼の2015年のアルバムに6曲でゲスト参加。話題となります。自身のソロ活動も2014年にデビューアルバム「ヴェニス」、そして2016年に本作「マリブ」をリリース。本作はグラミー賞のベストアーバンコンテンポラリー部門にもノミネートされます。

その後もアルバムをリリースし、着実に評価をつけていった彼は2021年にブルーノ・マーズとのコラボレーションプロジェクト、シルク・ソニックを結成。リリースされたデビュー曲「Leave the Door Open」は全米1位を獲得しついに商業的ブレイクを迎えます。

そんな彼の2016年リリースの本作を聞いてみたいと思います。

活動国:US
ジャンル:R&B、ヒップホップ、ネオソウル
活動年:2009-現在
リリース日:2016年1月15日

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総合評価 ★★★★☆

R&B、ネオソウルにアイランドレゲエ、ラテン音楽とアフリカ音楽のビートをうまく混ぜ合わせている。ベースやドラムのビートがかなり強く、アルバム全体から混沌とした生命力を感じる。いろいろな感情の渦巻きをうまくメロウに、美しいメロディに乗せているけれど、渦巻くリズムや力強さがそれらの底に渦巻いていて単純な明るさや美しさ、ポジティブなものとは違う、”いろいろな葛藤の末にポジティブであることを選んだ感じ”がする。

レゲエとかダブの影響が強いのはカリフォルニアだからだろうか。太平洋(ハワイとか)のアイランドレゲエ、それからラテン界を席巻するレゲトン(カリフォルニアはラテン文化のUSに対する最大の発信地であるメキシコに接している)の影響が強い。そのあたりのビートやベースラインが特異性、複雑さをうまく生み出して音楽に魅力と深みを与えているように思う。ブルーノマーズもハワイ州出身なのでアイランドレゲエの影響は感じるところがあるから、そこで共鳴してコンビを組んだのかもしれない。時代が経つにつれて名盤と呼ばれるであろう1枚。

1 The Bird ★★★★

響くギター音、ドラム、ミニマルなスタート。ベースが違うリズムで入ってくる。けっこうカオスな音像ながらボーカルはスムーズなR&B。ベースだけポストパンクみたいな暴れ方をしている。他の音源はいわゆるブラックコンテンポラリー、アーバンな感じ。ベースはジャズなのか。コーラスに入るとやや落ち着いてジャジーな響きになった。低音のブーム、波が強い。面白い音像、全体としてスムーズな音像なのだがベースが暴れることでリミックス感もある。

2 Heart Don't Stand A Chance ★★★★

「シャンパン、フォーリングダウン」のコーラスと共に思い切りパーティな風景からスタート。これはいかにもなR&B、イマドキのソウル。フランクオーシャンとか。やはりベースは強め。全体的に演奏は気合が入っているというか気迫を感じる。途中からややスペーシー、コスモ・ファンク的な音像に。それを経て再び「シャンパン、フォーリングダウン」の掛け声へ。

3 The Waters ★★★☆

語りから女性ハミング。ダブ的なベース。ヒップホップスタイルのボーカル。拍手などのSEが入る、語りの曲。オーガニックなヒップホップ。ちょっと古いけどジュラシック5とか(あまりヒップホップは知らない)。これもベースがダブ的。低音、ベースサウンドへの拘りが強い。

4 The Season/ Carry Me ★★★★☆

スケール感がある、スロウに、だんだん時間が遅れていくようなビート。やはりレゲエ、ダブ的。ホワイトノイズが入る。肩にかついだラジカセから流れてくる音だろうか。海岸的。ハーモニーも入る、ビーチボーイズ的、ゴスペルやデュワップというべきか。後ろにはオーガスタパブロのようなピアニカ的なキーボード音とダブリズム。途中からビートがチェンジする。ああ、2曲メドレーなのか。ベースがうねりまくる。西海岸だがレゲエ、カリブ海音楽の影響を感じる。まぁ、ハワイ含めてアイランドレゲエの影響はあるからな。そちらかもしれない。島とか海に合う空気なのだろう。ハワイも街中でかかっているのはリゾートは旧来のハワイアンもかかるが全体的にはアイランドレゲエが多い。ブルーノマーズもハワイ出身だからアイランドレゲエの影響を感じる。そのあたりのルーツが近いからコンビ結成となったのかな。昔のソウル・ファンクのエッセンス、スタイルを踏襲しつつダブ、レゲエの影響が強い。レゲトンの感覚でラテンファンにも訴求しているのだろうか。

5 Put Me Thru ★★★★★

カーティスメイフィールドを彷彿させる歌いだし。ただ、ベースのリズムは違う。やはりもっと低音がうねっている。歌メロが魅力的な曲。コーラスが加速感がある。ああ、ブルーノマーズに近い感覚があるな。というかブルーノマーズってアイランドレゲエの感覚をR&B、今のネオソウルに持ち込んだのが新しいのだろうか。シルクソニックの新譜が出たらきちんと聞いてみよう。

6 Am I Wrong ★★★★★

前の曲から引き続いて、連続した曲。アーバンでスムーズ、ジャミロクワイやインコグニートのような強めで洗練された、流線形で夜を進むビートとベース。フューチャーベース。そういえば宇多田のトラヴェリングにもこんな感覚があったな。人力テクノというか、なんだろう。ただ、こちらは歯切れは良いもののだいぶ粘り気のあるベース。反復するブラス隊のフレーズ。これは生楽器だろうか、シンセだろうか。5~6の流れは文句なしにカッコいい。

7 Without You ★★★☆

雰囲気が変わりメロウな雰囲気に、ボーカルラインはプリンスのようなちょっと変態的なファンクネスだがベースはダブ、レゲエ的。西海岸でもアイランドレゲエって聞かれているのかな。ボーカルはヒップホップスタイル。

8 Parking Lot ★★★★☆

ギターが鳴り、ベースが入る、ジャングルポップ的なスタート。ただ、リズムは少しトライバル。雰囲気が変わり、ポップで耳に残るメロディラインが出てきて性急に反復する。やはりベースは暴れ、ビートもタイトでミニマルながら目まぐるしく変化していく。さまざまなパートが組み合わされ、噛み合っていく。

9 Lite Weight ★★★★

SEが曲間をつなぎ、そのまま次の曲へ。4つ打ちのビートの上でボーカルが踊る。ダンス、クラブ的だがクールな熱狂。落ち着いたクールな情景。ボーカルが落ち着いている。どこかたどたどしく反復される呪術的なキーボード。このキーボードフレーズはフェラクティ的かも。ビートにはアフロビート感はないのだけれど。

10 Room In Here ★★★☆

ヒップホップリズム、ブレイクビート。メロディアスなボーカル。いかにもなアーバンR&Bだけれどベースが効いていてハードボイルドな印象。ラップが入る。ゲストボーカルだな。ベースやサウンドがだんだん綻んでいき、崩れていくようにして曲が終わる。

11 Water Fall (Interluuube) ★★★

メロウで夕暮れ。インタールードではなくインタールーブなんだな。どんな意味なんだろう。間奏曲的、ということだろうか。造語のようだ。短めの曲。

12 Your Prime ★★★★

語り、そしてアジテーションというか暴動のような声、それらが穏やかな、コズミックファンク的なキーボードに紛れていく。スペーシーな音空間にコーラスが響く。明るい雰囲気に変わりヴァースへ。どこかコミカルで演劇的な音像が続く。ウキウキして町を歩くようなイメージが浮かぶ。

13 Come Down ★★★★☆

マイナー調のメロディ、ちょっと音頭的なイントロ。ビートもどこか和風。太平洋が原型なのだろうけれど。ミクロネシア、ハワイだろう。こういうのもあるんだろうな。このビートは面白い。ビートの合間に古めかしいメロディが立ち上がってくる。ちょっとモーラム的でもあるメロディ。クルアンビンとかがこの後出てくるが通じるものがある。

14 Silicon Valley ★★★★☆

だいぶスロウな、後ろに遅れていくような、引っ張られていくようなリズム。ムーンウォーク、逆向きの浮遊感。無重力なのにどこにも行けない、みたいな。そう考えるとあのダンスは凄いな。表現としても。それでタイトルが「シリコンバレー」と来るのはなかなか意味が深い。勝手に言っているだけだけれど。ただ、深く重い、沈み込むようなリズムとメロディアスな世界。この音世界はどうも人を引き込もうとする力がありつつボーカルは性急で展開していく。まるで時間の流れから抜け出そうともがくように。目まぐるしさ、スピード感を表しているのかもしれないけれど。最後唐突にカリプソ。ラテン音楽。

15 Celebrate ★★★★

3連4回繰り返し、337拍子かと思ったが3333拍子だった。そこからモータウン的なサウンド。ジャクソン5というべきか。古き良き時代を感じさせるサウンド。ベースも控えめでミニマル。最後、雑踏の中のインタビュー。こういう生活音、環境音がところどころにさしはさまれるのはうまくアルバムに解放感を出している。ナレーションとかは使いすぎると野暮ったくなるが、バランスが良い。

16 The Dreamer ★★★★★

ループするキーボードによる和音の循環、ハーモニーが反復し、遠くから入ってくる。そこにメインボーカルが入り、リズムが入ってくる。突っかかりのあるリズム。これはサンプリングのビートかな。広がりと解放感がある大団円感がある曲。


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