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大人のためのメタル話⑦ 現在(2022)のメタルシーンを見渡す75曲 ~5.(20)10年代デビュー組編~

70年代からスタートした当連載もいよいよ最後の年代、2010年代です。すでに2020年代に入っていますが、10年代以降ということでまとめて紹介。

振り返ると、1990年代に主流となったNuMetal(≒ミクスチャー)の大きな流れがロックおよびメタル/ハードロックに多大な影響を与え、「それまでに存在していた音楽スタイルを組み合わせる」ことで新しい音像を産む、というスタイルがより一般化していきます。もちろん、あらゆる創作(というか人間活動)は過去の累積の上に成り立っているので、いわば「巨人の肩に乗る」ことで新しいものが生まれているわけですが、70年代、80年代は過去を振り返るより、「新しさ」を訴求することが多かった。

自作自演・楽器進化など、1960-80sは音楽文化の爆発的発明期

実際、60年代には若者文化とも言える「ロック」が生まれ、70年代は「巨大化したロックの否定」であるパンクが生まれ、80年代はシンセサイザーに代表される楽器の進化によって「それまでになかった音」が次々と生み出されます。音楽史上における「一大発明期」であった6080年代を越えて90年代以降は「リバイバル」と「ミクスチャー」がどんどん主流化してくる。

音楽の聴かれ方が一気に変わった2010年代

並行して、2010年代は音楽の聴かれ方がフィジカル(CDやLP)からストリーミングサービスが主流となる。これによって旧譜へのアクセスが容易になり、さらに旧譜やベテランアーティストが聞かれるようになります。それによって新世代が過去の音源にアクセスし、さらに膨大な元ネタからミクスチャーサウンドを生み出すようになる。10年代は「従来では想像もつかなかったものが結びつく音楽」が次々と生まれてきています。00年代には欧州伝統音楽(メディーバル=中世音楽)とロック、メタルが融合したシーンが隆興しましたが、同じ流れが世界各地で起き始める。世界各地に存在してきたあらゆる音楽形態、ビート、楽器、演奏方法、声楽などが並列にロックやメタルの文法に組み込まれていきます。過去に例がないほど世界中で過去の音楽が聴かれ、音楽の境界がなくなっていく。その中でそれぞれのアーティストが「自分ならでは(自分のルーツとなる音楽文化を含む)の音像」を模索しています。

そんな時代にどんなメタルバンドが生まれてきたか。2010年代の10曲を見てみましょう。

2010年代デビュー組 ~越境していくメタルシーン~

66.Battle Beast(2011年デビュー、フィンランド)/Master Of Illusion(2021)

欧州メタルシーンにおいて最重要とも言えるメタルフェス、ヴァッケンオープンエアは世界各地からオーディションにより勝ち抜いたバンドが上がれるステージ枠があります。その枠を巡って争うヴァッケンメタルバトル2010で勝ち抜き、見事ヴァッケンのステージに立ったのがフィンランドのバトルビースト。デビュー前から「話題のバンド」であり、デビュー作はフィンランド国内チャートでいきなり7位。その後欧州大手のメタルレーベルであるニュークリアブラストと契約し、欧州全土にアルバムリリース、知名度を高めていきます。その後、ボーカルの脱退、そしてメインコンポーザーであったギタリストのアントンカバネンのという大激震を乗り越え、人気が下がるどころかますます人気が高まっている不撓不屈のバンド。二代目ボーカリストのノーラ・ロウヒモは非常にパワフルかつ迫力のあるボーカリストで、ハイトーンシャウトが心を震わせます。最近は北欧ではグロウルボイスを取り入れるバンドが多い中、王道のハイトーンボーカルで攻めるメロディアスなパワーメタル。型が完成し、マンネリ化したと思われていたメロスピやメロディアスパワーメタルの新世代の扉を開いたバンド。80年代の華やかでメロディアスなメタルファンの心をつかみつつ、音圧や曲構成の巧みさはしっかり2010年代という現代パワーメタルの最前線にいるバンドです。


67.Beast In Black (2011年、Battle Beastとしてデビュー。フィンランド)/Moonlight Rendezvous(2021)

バトルビーストの中心人物であったアントンカバネンが古巣を離脱し、新たに組んだバンドがビーストインブラック。古巣との違いは男声ボーカルであることですが、このボーカリストがまた超絶ボーカリストで女性に負けない高音域を持っています。デビュー時にはよりアグレッシブでエッジの立ったパワーメタルでしたが、アルバムを重ねるごとに北欧ポップス、ABBAであったり、ディスコサウンドを取り入れるようになり、3枚目となった「Dark Connection(2021)」ではかなり電子色が強くなっています。こうしたディスコサウンドとの融合は2021年ごろからの北欧(フィンランド、スウェーデン)の一大トレンドだと感じます。商業的にも成功の規模が大きくなっており、古巣であるバトルビーストと共にフィンランドでは大人気。

ベルセルクをモチーフにしたMVも制作

来日公演も行っており日本での人気も上昇中。もともとアントンカバネンは日本のアニメや漫画が大好きで、Beast In Blackはベルセルクから。MVにも日本語や日本のアニメ、エイトビットで描かれたゲームなどのモチーフが散りばめられています。80年代メタル(特にNWOBHMや北欧メタル)が好きな人に「最近のおススメバンドは?」と問われたら最初におススメしているバンド。


68.Amaranthe(2011年デビュー、スウェーデン)/PvP(2021)

スウェーデンから現れたメタルコアバンド、アマランス。とにかく歌メロがキャッチーで、曲によってはレディーガガmeetsメタルコア的なマッシュアップ感を感じます。ハイテンションなダンスポップの歌メロに、かなりゴリゴリとしたギターサウンドが絡み合う。ベースはメタルコアですが時々北欧パワーメタル感のあるギターリフなどが入ってくるのも好印象。ダンサブルな曲では目立ちませんがバラード曲などを歌い上げるボーカルの力量もかなり高く、超ハイトーンやスクリームもお手の物。娯楽度が高いバンドです。こういうポップ路線のバンドは曲の良し悪し、歌メロの良し悪しがクオリティに直結するので、北欧ポップ的な歌メロがアルバムを通して聞くとややマンネリ感を感じるところもありますが、現時点の最新曲PvPは新機軸を感じさせる楽曲。このままより巨大な存在になっていってほしいバンド。


69.Electric Callboy(2012年デビュー、ドイツ)/PUMP IT(2021)

ドイツの新世代エレクトロコアバンド、エレクトリックコールボーイ。もともとはエスキモーコールボーイというバンド名でしたがエスキモーに失礼だということで改名。基本的にかなりお下劣な歌詞とテーマで、ひたすらパーティー色が強い、コミックバンド的なテーマを扱いつつ曲はゴリゴリでメロディもポップ。ラムシュテインらが築き上げたドイツならではのインダストリアルシーンをメタ的に茶化しつつ、エイルストームやタンカードなどの「酒飲み(パーティ)メタル」のテーマを組み合わせた煽情性の高い音。フェスだとブチ上がる観客が目に浮かびます。また、歌メロもフックがあって耳に残る。欧州ダンスポップとメタルの融合、というのが今の欧州メタルシーンの一大トレンドな気がしています。


70.Babymetal(2014年デビュー、日本)/BxMxC(2020)

2010年代のメタルシーンに多大な衝撃と足跡を残したベビーメタル。日本発で、日本国内ではアイドルシーンも巻き込んで一大ブームを引き起こしましたが、グローバルなメタル市場で見ても2010年代デビュー組としてはトップレベルの成功を収めています。ミクスチャーで領域をどんどん広げていたメタルシーンの中でも完全に想定外、領域外から現れた特異な音像で2010年代におけるメタル界の境界を完全にぶち壊してしまったバンド。この曲もフォーマットだけで言えばラップ+メタルコアなのですが、それが日本語のアイドルラップになるだけで異様すぎる音世界になっています。「ここまでやっていいのか!」と目から鱗、パラダイムシフトを世界中で起こしたメタルユニット。


71.Jinjer(2014年デビュー、ウクライナ)/Disclosure!(2021)

東欧、ウクライナから現れたジンジャー。強烈なスクリームとハスキーなボーカルが魅力。出身地は戦火に巻き込まれているドネツクで、戦火をテーマにした曲もリリースしています。ロシアウクライナ戦争でより一層注目を集めていますが、その前から確かな実力で東欧メタルシーンの中では頭一つ抜ける存在感を示しつつあったバンド。メタルコアサウンドですが攻撃性と抒情性のバランスが良く、曲構成が巧み。クリーントーンパートも安易にメロディアスにするのではなく曲全体としての駆け引き、緩急が見事です。メタル、メタルコア、ハードコアといったエクストリームミュージックの影響が前面に出ていますが、R&Bやジャズ、ヒップホップ、ファンクなど多様な音像が溶け込んでいるのが魅力。旧ソ連の中心国の一つであり、共産圏のど真ん中で生まれ育ったメンバーからすると、西欧の音楽はさまざまなものが並列に溶け合っているのかもしれません。


72.Slaughter to Prevail(2017年デビュー、ロシア)/Baba Yaga(2021)

ロシア人のボーカリストにUKのギタリストを擁する多国籍バンド、スロータートゥプリヴェイル。音像的にはデスコアバンドです。デスコア、グラインドコアと呼ばれるシーンは、簡単に言えばメタルコアよりさらに手数が多く、攻撃性が高い。ハードコア由来の成分が増えます。ジャンル名から「メタル」が消えていることから分かるように、実のところ「メタル」からは離れている気もしますね。ギターリフを軸に曲が作られているわけではないし、歌メロも希薄だし、従来の「メタル耳」とは違う聴き処が必要なジャンル。このシーンを代表するバンドとしてはUSのWhitechapelSuicide Silenceなどが挙げられますが、このままの音楽性で巨大な成功を収めたバンドはいまだ存在しません。UKのBMTHは初期はデスコアでしたが音楽性を拡張して成功を収めました。ただ、メタル史という視点で見れば無視できない規模のムーブメントだと思うので、デスコアシーンを代表するバンドとしてこのバンドを入れました。ロシア出身というところも、世界各地でメタルバンドが生まれている2010年代という流れを表していると思います。

ロシアに多いのはペイガン/フォークメタルバンドという印象

この曲はロシアの民話に出てくる精霊「バーバヤーガ」をテーマにした楽曲。なお、ロシアは実際にはスラブ伝統音楽を取り入れたフォークメタルやブラックメタルが盛んなのですが、まだロシア国内、東欧圏で人気が閉じている印象。


73.The HU(2019年デビュー、モンゴル)/This Is Mongol(2022)

モンゴルから現れたThe HUザ・フー。カタカナ表記するとUKのThe Whoと紛らわしいのでローマ字で表記しましょう。AC/DCを彷彿させる力強いリズムとビートながら、一聴してわかる強烈な個性。ミドルテンポで繰り広げられる壮大なモンゴリアンメタル。もともとこうしたモンゴルや中央アジア(主にトゥバ共和国)の音楽をメタルに取り入れた先駆者としては中国(内モンゴル自治区)のTengger CavalryNine Treasureらがいましたが、The HUはグロウルやディストーションなどエクストリームメタルの語法を敢えて控えめに、ミドルテンポかつ伝統楽器の比重を増やしたことでメタラー以外の層にまで到達。音そのもので聴くとそんなに歪み成分が強くないのですが、全体として「モンゴリアンメタル!」を感じさせる重厚な音像になっています。この「ルーツに根差した部分」の大きさに、味付け程度に電化したヘヴィネスを加えるという絶妙な匙加減が成功の秘訣なのでしょう。やはり長年培われた伝統音楽というのは聞いていて心地よい。世界中で「伝統音楽のモダナイズ(たとえば日本でも和楽器バンドはそう)」に挑戦するムーブメントが起きていますが、その中でも最大規模の成功を収めたバンド。

モンゴル文化を世界に広めた、という功績でモンゴル最高の栄誉である「チンギスハン勲章」も受勲。MVも含めて「モンゴル文化」を伝えているのも世界中で興味を持たれている特長かもしれません。モンゴル帝国って欧州世界には大きな影響を与えていますが、今や距離が遠いですからね。


74.Spiritbox(2021年デビュー、カナダ)/Rotoscope(2022)

新人ながらデビューアルバムをビルボード13位にいきなり送り込むという快挙を成し遂げたカナダのスピリットボックス。中心人物は30代前半の夫婦で、コールセンターの仕事をしながらバンド活動を続けていたらいきなりブレイク。もともと別のバンドをしていたそうですが、メンバーチェンジなどでうまくいかず夫婦デュオを核に新たにバンドを組んで活動をしていたらついにチャンスをつかんだ、という苦労人です。まぁ、メタルミュージックで食べていけるアーティストはほんの一握りですからね。たいてい昼の仕事を持っています。ビルボードのホットチャート(新人向けチャート)で「Holy Roller」がスマッシュヒットし、それがそのままアルバムのヒットに繋がったようです。事前には誰も予期していなかった規模の成功を収め、2010年代デビュー組としてはメタルコア界最大の成功と言える快挙。Download UK2022にも出演しており、会場でTシャツやパーカーを着ている人を見かけました。UKでも少しづつ浸透している様子。カナダのバンドらしく、USに近いながらもちょっと離れてシーンを見ている、うまく要素を取り入れてそれらを総括するような曲作りの巧みさがあります。


75.Bloodywood(2022年デビュー、インド)/Gaddaar(2021)

ネット上でメタル界の話題をさらい続け、ついに2022年にデビューアルバムをリリースし全貌を表したインドのブラッディウッド。ボリウッド音楽+メタルコアという「伝統音楽のモダナイズ」にとどまらない、巨大な音楽市場ながら閉ざされた「ボリウッドサウンド」を手にメタル界に殴り込み。これは「J-POP」を持ってメタル界に殴り込んだベビーメタル以来の衝撃でしょう。メタルの自由度を高める素晴らしい発明。ただ、これは言うほど簡単なことではなく、アルバム収録曲の最初の1曲がリリースされてからアルバムが完成するまでに4年の月日がかかっています。かなり練りこまれた形跡があり、それだけあって1曲1曲に込められたアイデアの密度が濃い。アルバムをリリースしたことで「ボリウッドメタルコア」とでも言うべき独自のサウンドを確立したと言えるでしょう。

驚いたのがThe HUブラッディウッドが今年のフジロックに参戦が決まったこと。ダウンロードジャパンに来てほしかったですが、フジロックもこの2組を呼ぶというのは先見の明があります。ヘヴィメタル/ハードロックの系譜をより積極的に取り込もうという意図もあるのかもしれませんし、同時にこの二組が従来の「メタルシーン」にとどまらない、境界を越えた存在でもあるからでしょう。2010年代の「越境するメタル」を象徴するアーティスト


メタルという音楽の自由度を一気に増やしたベビーメタル

2010年代以降はメタルの自由度、音楽としての娯楽性が高まっている印象を受けます。パワーメタルならパワーメタルで、メタルとしても曲の質を高めつつ欧州ダンスポップEDMのアッパーな感じを取り入れている。世界各地の伝統音楽だけでなく、J-POPボリウッドなど「現在の(US、UKとは違う)ヒット市場」の方程式をメタル界に持ち込む。さまざまな音楽文化を並列に並べ、キメラのように組み合わせながら新しいものを作り上げ、その完成度を高めるという手法が一気に高度化し、聞いたことがなく、且つ心地よい(これが重要)音楽が次々と生まれてきます。

まだまだ2010年代デビュー組は市場の評価が固まっているとは言い難く、これで見落としているアーティストも多くいるでしょう。「USUKからのアーティストが一組もいない」というのは、意図したわけではなかったのですが単純に思いつかなかったのですよね。ただ、個人的な感覚から言うと明らかにメタルの辺境(とされていた国々)が面白い。USUKの方は00年代デビュー組がこのあたりのムーブメントに刺激されてまた面白い進化を遂げているという印象ですが、2010年代以降、まったく新しいアーティストはまだこれからでしょうか。どちらかといえばUS、UKはハードコア/パンク界隈の方が最近は盛り上がっていますね。USはSoul GloTurnstile、ややメタル寄りのCode Orange、UKではIdlesFRANK CARTER& THE RATTLESNAKESWargasmなど。個人的に好きなバンドは多いですが今回の「メタルシーンを代表するようなバンド」というコンセプトで選ぶべきバンドが思いつきませんでした。ヒップホップとのミクスチャーだとFever333Nova Twinsも面白いですね。この辺りはまた別途取り上げたいと思います。

Judas Priestの「50 Heavy metal Years」は素晴らしいキャッチコピー

さて、5回にわたり50年間、75曲のアーティストを選んできました。新譜を出していないアーティストもいるので「メタル界の大物すべてを網羅」はもちろんできていませんが、2020年代のメタルシーン、ひいては「現代のメタル」というものがどういう音像か、これを聞いていただければわかると思います。次回、総括とプレイリストをまとめて最終回としたいと思います。

それでは良いミュージックライフを。

おまけ

こうした「越境メタル」でいろいろと面白いバンドを集めた記事はこちら。

Babymetalがメタルシーンに与えた影響や世界からの評価をまとめた記事はこちら。


本記事では軽く触れたデスコア系ですが、この方がデスコア系を色々紹介しています。

激烈メタルを紹介することで著名だったブログ「あさってからでもいいかな」もどうぞ(最近更新少なめ)。

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