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新しい音楽頒布会 Vol.19 Enslaved、Lordi、Sortilège、HMLTD、Altın Gün、Gorod、Ὁπλίτης、Bell Witch

久しぶりの頒布会。BabymetalMetallicaと大型新譜が続いたので他の新譜をあまり聞いていませんでした。今年残るメタルの大型新譜はAvenged Sevenfoldぐらいか。

まだ聞けていない気になる新譜も多いですが、現時点でおススメしたい新譜を8枚紹介します。ノルウェー、フィンランド、フランス2枚、UK、トルコ+オランダ、中国、US。今回は国際色豊か。どのアルバムも聴いているとどこかへ連れていかれるアルバムです。

Enslaved / Heimdal

ノルウェー、ブラックメタルシーンの大御所Enslavedの新作。MayhemBurzumなどの「ブラックメタル・インナーサークル」よりは下の世代であり、ユーロニモスの死(1993年)の1年後の1994年にデビュー。「ブラックメタル」というジャンルが精神性、音楽性ともに深化・拡張していく過程を担ったバンドです。初期から大曲志向が強く(1stアルバムはほとんどが10分超え)、ドラマティックな音像を最初から志向。初期から一貫して北欧神話をテーマにした楽曲を作成しています。Mayhemはじめインナーサークルの面々は最初はなかばギミックとして「反キリスト」を掲げ、やがてカルト化していきますが、Enslavedは「反キリスト」よりも「土着信仰の再発見」「北欧神話の再発見」に重きを置いた。ペイガン(異教徒)フォークと呼ばれるジャンルに近い精神性を感じます。ペイガンというのはローマ時代に「未開な」とか「田舎の住人」という意味で使われた言葉(そうしたところはキリスト教以外が盛んだったので意味が転じて”異教徒”という意味となった)。なので、ローマ文化(≒キリスト文化)以外の文化、神話体系を再発見するのがペイガンです。ブラックメタルの悪魔崇拝も、キリスト教においては異教の神々を「悪魔」としてきた系譜があるので(たとえばベルゼブブはもともと異教の神)、北欧の神々も悪魔とされた時期がある(とはいえ、北欧の人たちはそれを真に受けなかったので広まりませんでしたが)。ブラックメタルの根源的コンセプトには「北欧神話、元来の自分たちの文化を取り戻す活動」という側面があります。Enslavedはそれをクローズアップし続けているバンド。彼らは自分たちの音楽をヴァイキング・メタルと位置付けています。

なお、北欧神話と言ってもフィンランドはまた別の神話体系であり、フィンランドのカレワラ(神話)を取り上げ続けているバンドにはAmorphisがいます。あと、ロシアはそもそも西欧的価値観に懐疑的なのでペイガンフォークを取り入れたフォークメタルが盛ん。そうした一連の流れの源流に近い場所にEnslavedは位置しています。

一応「ブラックメタル」には分類されるものの現在はブラックメタル的要素はだいぶ薄れていて、プログレッシブメタル的な要素が強まっています。ボーカルもクリーントーンも多め。とはいえ静と動のコントラストで激しいパートはしっかりと激烈。あくまで物語性、ドラマが主体、全体としては熟練の吟遊詩人というか、本作でも「北欧神話の語り手」として音楽という手段を十全に使いこなしている印象です。そこまで難解でもなく、適度に分かりやすいドラマがあるのも好印象。マーベルシネマティックユニバースのおかげでソーとかロキとか北欧神話の神々もだいぶ世界的知名度を得ましたからね。あの描き方がいいかどうかは別にして、多くの人々が神話の知識を得たのは確かでしょう。物語としてはともかく、神々の人間関係とか神としての設定や権能は正しいですから。文化や神話を伝えていくのにエンターテイメントの力は強い。Enslavedもその長いキャリアの中でエンターテイメント性を強めてきています。


Lordi / Screem Writers Guild

フィンランドのモンスターバンド、Lordi。コロナ禍中の2021年に「1975年から1995年の架空のバックカタログを作る」というコンセプトで一気に7枚同時発売を行いました(→関連記事)。このセンスがフィンランドジョークなのか。本作はそれ以来のニューアルバム。というか、1年ちょっとしか経っていないのにもうニューアルバムを出すのか。多作。一時期のThe WildheartsGinger)を思わせる多作&佳作量産っぷりです。

本作は「2023年の新譜」ということでホラー&北欧ポップ&パワーメタルの「いつものLordi」節が。曲間に「架空のラジオ局」のMCやジングルが入るのもいつも通り。ただ、マンネリズムではなく、1970年代から90年代までシミュレーションして得られた多様な曲作りが血肉となり、その上で従来のLordiらしさがさらにバラエティをもってアルバムとして成立しています。ディスコ調とかハードロックテイストとかの取り入れ方が一歩深まっている。そりゃあ「1975年のアルバム」とか「1979年のアルバム」とかを真面目に作りきったバンドって他にいませんからね。少なくとも僕は知らない。それって1970年代以降のロックミュージックについて深く研究と実証をしたわけであってその成果が反映されている。

こういうメロディアスなメタルって類似のアルバムも多く出ているので曲の良さがないと飽きてしまいがちなんですが最後まで飽きずに聞き通せます。すべてのセンスがいい。ダミ声ですがメロディアスなヘヴィメタルが聴きたい方にお勧め。なお、バンドメンバーがしっかり固定されているパーマネントなバンドですがリーダーのMr.Lordiが基本的に作曲しており、MVの監督もしています。マキシマムザホルモンの亮君みたいな「個人の偏執的な美意識」で貫かれた世界観を持った素晴らしいバンド。前作まではドイツのAFMレコードからのリリースでしたが、本作は元Nuclear Blastから分裂したAtmic Fireからのリリース。Atomic Fireもいいアーティストが揃ってきましたね。


Sortilège / Apocalypso

1981年に結成されたフランスメタル界の黎明期から活動するソルティレージ。1984年リリースのデビューアルバムMétamorphoseは非英語圏の名盤。デフレパードのフランス公演の前座を務めたり、英語版をリリースしたりと活動規模を拡げようとしますが運に恵まれず1986年に一度解散。33年の時を経て2019年に復活し、本作は復活二作目となるアルバムです。

音楽的にはパワーメタルなんですが、特筆すべきはフランス語であること。やはり非英語のメタルって節回しも変わるし、聞いていて新鮮です。同じく80年台から活躍するロシアのAria(Ария)に近い感覚も。今回はチュニジアのオリエンタルメタルバンドMyrathが三曲目にゲスト参加。MyrathのプロデューサーであるKevin Codfertもゲスト参加していますね。Codfertはフランスのアーティストなのでそのつながりでしょう。荘厳かつ重厚な楽曲に仕上がっています。ボーカルはややダミ声系。いわゆるグロウル、デスボイスではありませんがワイルドな掠れ声です。早めの曲、ミドルテンポの曲、ヘヴィな曲までリズムにバラエティがありオーソドックスで王道のパワーメタルという印象。ベテランだけあって演奏にも歌にも味があります。楽曲的に特に新機軸はありませんがフランス語だけで新鮮ですよね。変わらず続けることの凄みとフランス語の響きが楽しめるパワーメタル。


HMLTD / The Worm

アカペラコーラスからスタートする本作。HMLTD(もともとはHappy Meal Limited.というバンド)はUKのアートパンクバンドで、最近のポストパンクムーブメントの中から出てきたバンドと言えるでしょう。2015年結成。2016年のブレクジット(2016年に国民投票、2020年に離脱完了)あたりからUKではバンドサウンド、特にポストパンクサウンドが前面に出てきている気がします。ShameBlack MidiSquidDry Cleaning、(Black Country, New Roadもここに括られることも)などなど。このあたりが「ポストパンク」とくくられています。より具体的にはサウスロンドン、ブリクストンのウィンドミル(The Windmill)というライブハウスが震源地の様子。HMLTDもウィンドミルでライブを行っていました。グラムロック的なルックスであり、ビジュアル的にも特異。

HMLTD

Black Midiもそうですけれど、プログレッシブロックへの接近も見られます。というか、最近プログレがUKで再燃している気がします。Marillionが最新作で1位を取ったし、ジェスロタルも数十年ぶりにベスト10に入るかどうか、と今騒がれているところ。2024年にはピーターガブリエルも新譜を出すようだし(本当か)、考えてみると最近のメタル界で売れているアルバムってプログレ的な要素が強いですよね。プログレというものを「長尺でポップスのクリシェ(ヴァース~ブリッジ~コーラスの反復)に収まらないもの」と形式的に定義した場合です。Metallicaの新譜だってToolの新譜だってIron Maidenの新譜だってプログレ。拡張していくロック音楽の最前線に再びプログレが躍り出ている気がします。ハードロック~プログレ~パンク~ニューウェーブ(NWOBHMを含む)~グランジオルタナ(+シューゲイズ)~ダンスロック~インディーロック(フォーク寄り)~プログレ(一巡してイマココ)みたいな。一筋縄ではいかない、先の展開が読めない曲が再び盛り上がっている気がします。

本作はアカペラの後、ポストパンク的なバンドサウンドとピアノが絡み合う音像に。そこからめくるめく展開が押し寄せます。ロックオペラ仕立てというか、「物語としてのオペラ」というだけでなく音楽装置としてのオペラ、声楽的な要素も多い。過去のプログレで言えば目まぐるしく展開する箱庭人形劇感と、ちょっとゴシックでダークファンタジーな感じが初期ジェネシスVan Der Graaf Generatorに近いか。ただ、プログレ的なのは曲構成だけで演奏はそれほど難解ではない。だからアートパンク。ナレーションやSE的なパートも含まれているのでだいぶドラマティックに感じますが長さも9曲41分とコンパクト。個人的にはバンドサウンドとピアノの融合で80年代の筋肉少女帯をちょっと連想したり。どこかディフォルメされたファンタジー映画のサントラ的でもあります。そういえばスマッシングパンプキンズも「Atum」でロックオペラを展開中ですね(あまり評判は良くないようですが、個人的にはいい曲も何曲かあるなぁと思っています)。あとは日本のGezanも新作で奇しくもコーラス隊とアルバムを作ったけれど構成が似ているかも。そういう時代の空気なのかもしれない。表現したいものを大仰に伝えたい、それだけ現実がドラマティックで予期できぬものになりつつある、とアーティスト達が感じているのかも。


Altın Gün / Aşk

トルコ+オランダのサイケデリックロックバンド、アルタン・ギュンのニューアルバム。最近多作ですね。コロナ禍でツアーに出れなかったのでアルバムを2枚だしましたが、それに次ぐ新作。実験的にエレクトリック、ディスコサウンドに接近した前作も踏まえてバンドサウンドに回帰。新世代アナドルロックの旗手として気を吐いています。

まずボーカルの音程が微分音階を強く感じさせる。西洋音階とは違う微妙な音階、節回しが強烈です。バックの演奏は比較的西洋音階に沿っていますが、12音階では収まらない響きをうまく使いつつも西洋的な洗練を成し遂げている。この辺りはトルコのローカルバンドではなく、オランダを拠点に活躍するグローバルなバンドだからでしょう。男女二人のボーカルはトルコ人で、ベースはオランダ人。ドラムも西欧の人ですね。完全トルコのバンドよりはクセが弱め。クルアンビンなどでサイケデリックかつエキゾチックな音楽が再評価されていますが、個人的にはこういう分野だとアルタン・ギュンガイ・ス・アクヨルがお気に入り。つまりトルコが好きなんですね。トルコ料理を食べ、トルコビールを飲みながら聞きたい。なお、トルコ料理は世界三大料理の一つでおいしいんですよ。イタリアン(ピザとか)に近いけれどちょっと独特なものがある。コンスタンチノーブル(イスタンブール)は長らく東ローマ帝国の首都でしたからね。イタリア(ローマ)文化の流れを汲んでいるのでしょう。あと、トルコ語って日本語と母音がほぼ同じ。なので、日本語的発音(カタカナ読み)がほぼそのまま通じる面白い国です。歴史的にも親日国家。というか、アメリカと一定の距離がある国って親日国が多いんですよね。世界に広げよう友達の輪。

今作は1曲目のイントロで勝ったと思う。素晴らしい出だし。日本の演歌や歌謡曲にも近い感覚があります。リズム感もなんだか音頭的でもある。実際の音楽構成としてはそこまで近いわけではないんですが、なぜか西洋音楽より自分のルーツに近いように感じます。


Gorod / The Orb

フランスのテクニカルデスメタルバンド、ゴーロッドの5年ぶり7作目となるアルバム。前身のGorgasmを含めれば1997年結成で25年に渡る活動歴があります。テクニカルデスといえばUSが強いですが、このバンドもベテランだけあって高品質。かつ、フランスらしいというかどこか有機的で音が柔らかい。同じくフランスのGojiraもそうですけれど、何か有機的で生々しい感じがする。ギターの音が柔らかいせいかも。ドラムの音もちょっともこもこというか、丸みを帯びています。あと、至る所にメロディアスなギターパートが出てくるんですがメロディセンスが独特。USとは違うし、北欧やドイツともやはり違います。メロディアスだけれど泣きメロではない。どこかしゃれっ気とユーモアがある。先述したGojira以外だとアンゴラ公国のPersefoneに近いメロディ感覚かも。ザクザクとしたパートが勢いよく続くんですが、USのテクデスバンドほどゴリゴリのままで攻めてこない。歯切れの良さとぬくもりが同居している不思議な感覚。「フランス」という国家の個人的イメージに引っ張られているところもあるでしょうが、そういう気分って大事じゃないですか。音楽って個人的な体験とイメージだし、国の情報って音楽に紐づくものだと思うんですよね。アーティストのビジュアルとかバイオと一緒に国情報も音世界を広げてくれる大事なフレーバー。


Ὁπλίτης / Τρωθησομένη

前作(→関連記事)が評価された中国の一人ブラックメタルバンド、ホプリタイの新譜。前作の評価が当人のやる気を燃え上がらせたのか前作からかなり短いインターバルでリリースされました。今作もRYMで高評価。シンガポールのWormrot、日本の明日の叙景、中国のὉπλίτηςとアジア圏から続々と(この界隈では)話題のアーティストが生まれてきています。英国(Venom)で生まれ北欧(BathoryMayhem)で独自の成長を遂げ、東欧、ロシアに広まっていきアジアに広まってきたという時系列でしょうか。その過程で欧州、ロシアではペイガンフォーク、各地の民族音楽と結びついてフォークメタル的な音像になりましたが、比較的純粋な「ブラックメタル的表現」を深化・進化させているのがアジア圏のバンドというのは面白い事実です。

前作を聞いても思いましたが、リズムの作り方がうまいですよね。ビートへの強い拘りを感じる。緩急がしっかりとつけられていて物語性があります。ブラックメタルらしいトレモロリフや、パワーコードを使ったオーソドックスなリフ、ドラムも乱打一辺倒ではなくミドルテンポに変わったり、ビートもツービートとエイトビート、16ビートを行き来する。前作以上に練り込まれて成長を感じさせるアルバムです。全部ひとりでやっているからか、すべての楽器が「楽曲のために」鳴らされている。ベースが前に出てくるところもギターが前に出てくるところもドラムが前に出てくるところもしっかりある。アンサンブルが練り上げられています。声は控えめですが、そもそも人の耳は人の声に注意を惹かれるようになっていますからね。そういう意味では声の使い方も上手い。控えめに声が入ってくることで声を聞き取ろうとして音全体への注意がひきつけられます。前作同様、40分未満(約38分)というボリュームも潔くて良い。

ハードコア的な表情もあり、キャッチーな(≒ライブで盛り上がりそうな)感覚も出てきました。不思議とジャパニーズハードコアとも近い感覚があります(随所に出てくるが、例えば10曲目とか顕著)。ボーカルは線が細いのですがそれを感じさせないというか、ボーカルの弱さを活かした作り。ボーカルが弱い分演奏の力強さが際立つ。パンクとは「自分の弱さを強さに変えることだ」みたいなインタビューを読んだことがあって、これは正しくパンク精神の宿ったDIYアルバム。一人宅禄プロジェクトでおそらくライブを未経験だと思いますがライブ活動を見据えているのか。これはもっともっと化けるかも。


Bell Witch / FUTURE'S SHADOW PART 1 THE CLANDESTINE GATE

US、シアトルのドゥーム・ドローンメタルバンド、ベルウィッチの4thアルバム。1曲で1時間23分。「アルバム」とか「シングル」とかいう概念を突き抜けて「1曲で1時間超え」。このジャンルにはこういうバンドが多いですね。ドローンの名の通り、うち半分ぐらいはドローン(持続音)。ホラー映画のサントラみたいな感じ、と言えばいいだろうか。ただ、ドローン音ってすごく古い歴史があり、インド古典音楽とかでは欠かせない要素。ドローン音がないと歌えないという歌手もいて、呪術的な要素があるとも言われています。

音楽文化というのは多様なもので、現代ヒットチャートで主流のポップスやロックは中世~近世の西洋音楽、純音楽(オーケストラなど)をもとに発展してきていますがそれはほんの一部。リズム・メロディ・ハーモニーを三要素とする音楽ばかりではありません。ドローンというのは古来から親しまれてきた音楽形態であり、近代的なポップスやロックとは相いれないものだけれどそもそもその枠内で音楽を聴く方が人類史的には特異な状況。録音技術によって世界中の音楽が記録され、ストリーミングによって幅広く接することができるようになった今こそ、ここ100年ほどの「西洋音楽の枠内で発展してきた大衆音楽」が再び多様性を持ちつつあるような気がします。「ロック音楽」に「ドローン」を取り入れようとする現段階でもっとも先鋭的な取り組みの一つ。

最初はひたすら不穏な雰囲気のドローン音が続きます。20分ぐらい。だんだんと重苦しさが増していく。そして表情が変わっていき何かしら解放というかカタルシスが出てくる。83分という時間を通して描かれる音による物語。その時間を「耐える」ことによって生まれるカタルシスと余韻が確かにあります。



以上、今回のおススメは8枚でした。それでは良いミュージックを。


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