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Eric Clapton Live At Budokan 2023@日本武道館 2023/4/21

観てきました、クラプトン日本公演。場所は武道館。なんだか最近武道館にライブを観に来ることが増えた気がします。クラプトンは4年前、2019年4月20日の公演にも来ていたので4年ぶり、2回目のクラプトン。前回は15,000円だったのが20,000円に。

開場時間の1時間ほど前に現地入り。物販に並びます。

物販列は1時間ちょっとでした。前回より列が長かった印象。ただ、メガデスよりは短めでしたね。連続公演なので、連日来ている人はすでに物販を買い終わっているのでしょう。欲しかったものは一部売り切れ。残っていたTシャツをゲット。

ソールドアウトではなかったと思いますが、武道館に入るとほぼ満席。年齢層は想定通り高めでしたが、予想よりは若者が多いかも。親子で来たりしたんですかね。考えてみると90年代にもクラプトンの商業的ピークがありましたから(アンプラグド~チェンジザワールド)、90年代ロックとしてクラプトンに触れる人もいるのかもしれません。最近、90年代ロックが「クラシックロック」として再評価されている印象。90年代ロックを語る上で「アンプラグド」シリーズ、そしてその代表作ともいえるクラプトンのアンプラグドは名盤としての存在感が増しているのかも。

この日は記念すべき武道館100回目公演。海外アーティストとしては前人未踏、だそう(ちなみに最多は矢沢永吉)。

来日メンバー

来日メンバーはヴォーカルとギターはもちろんクラプトン。バックバンドはネイザン・イースト(b,vo)、ソニー・エモリー(ds)、ドイル・ブラムホール II(g,vo)、クリス・ステイントン(key)、ポール・キャラック(og,vo)、ケイティ・キッスーン(vo)、シャロン・ホワイト(vo)の計8名編成。2019年の来日時と同じメンバーです。全員同じ、というのは付き合いが長いですね。ライブバンドとして相性が良いのでしょう。全員クラプトンと付き合いも長く、それぞれ錚々たるキャリアを持ったミュージシャン。60年代から活躍するメンバーも多く、多くのアルバムに参加しているため共演者を辿っていくとロック界の歴史を紐解けるようなバンドです。簡単に各メンバーについて。

ネイザン・イースト(b,vo)

Nathan East(ベース)

ネイザン・イースト(1955年12月8日~)はアメリカ人でロック・ジャズ界の凄腕プレイヤー。クラプトンとの付き合いは長くアンプラグド(1991)にも参加しており、フュージョン界のスーパーバンドであったフォープレイの創設メンバーでもあります。日本の小田和正とも親交が深く、ネイザンのソロアルバムに小田が楽曲提供したこともあります。参加したアルバムは非常に多く、2000枚以上とも。ジョージハリスンやロジャーウォーターズ、TOTOにも演奏参加しており、ダフトパンクのランダムアクセスメモリーズでもベースを担当。2014年のグラミー賞ではともに演奏しました。Daft Punkトリビュート的な「Daft Funk」という曲をソロで発表したりもしています(→Nathan East | Daft Funk)。

ソニー・エモリー(ds)

Sonny Emory(ドラム)

ソニー・エモリー(1962年12月23日~)はフィラデルフィア生まれのアメリカのドラマー。アースウィンドアンドファイアーのメンバーとして活動していた時期もあり、クラプトン以外にもスティーリーダンやB-52'sと活動。日本のドリカムのライブドラマー(2015年と2019年のドリカムワンダーランドでゲストドラマーだった様子)だったこともあります。クラプトンとの関係はクラプトンに誘われて2018年からライブバンドに参加。昔から親交はあったようで2013年にソニーのソロアルバムにクラプトンがギター&ボーカルで客演したりしています(→Truth'll Set U Free (feat. Eric Clapton) - Sonny Emory)。

ドイル・ブラムホール II(g,vo)

Doyle Bramhall II(ギター、ボーカル)

強烈なインパクトがあるギタリスト、ドイル・ブラムホール2世(1971年12月24日~)。何が強烈かというと左利きなのでギターを逆向きに持つんですが、弦の張り方は右手用、つまり1弦と6弦、細い弦と太い弦の位置が逆なんですよね。手の弾き方がほかのギタリストと逆。ジミヘンと同じですね。幼いころにジミヘンの写真を見て影響を受けた層。テキサス生まれのギタリストで父親も著名なギタリストであったドイル・ブラムホール。父がスティーヴィー・レイ・ヴォーンなどと共演しており本人も音楽の道へ。1992年にアーク・エンジェルス(Arc Angels)というバンドでデビューし、本人もソロ活動をしています。クラプトンとの共演歴も長く、2001年のReptileから参加。今やクラプトンの右腕と呼べるギタリストです。ドイルのソロアルバムにクラプトンが客演もしています(→Doyle Bramhall II “Everything You Need” feat. Eric Clapton)。

クリス・ステイントン(key)

Christopher Robert "Chris" Stainton(キーボード)

クリス・スティントン(1944年3月22日~)はイギリス、シェフィールド生まれで1960年代にジョー・コッカーのバックバンド「グリーズ・バンド」のメンバーとして活動。後に映画化もされた「マッド・ドッグス&イングリッシュメン」ツアーにも参加しました。クラプトンとの付き合いは長く、1979年の武道館公演の模様を収めたライブアルバムJust One Night(1980)にも参加。2002年以降はほぼクラプトンのライブメンバーとして参加しており、クラプトンとの付き合いが一番長いメンバーです。Cocaineのエンディングにおけるキーボードソロはクラプトンのライブのハイライトの一つ(→Eric Clapton - Cocaine (Royal Albert Hall 16th May 2009))。

ポール・キャラック(og,vo)

Paul Carrack(オルガン、ボーカル)

ポール・キャラック(1951年4月22日~)はイギリス、シェフィールド出身のシンガーソングライター、キーボーディスト、ボーカリストです。プログレッシブロック畑の出身であり、1970年代にプログレッシブロックバンドAceに参加。1977年にAceが解散後はニューウェーブバンドのSqueezに参加し「East Side Story」でキーボードとボーカルを担当しました。その後はジェネシスのマイク・ラザフォードが結成したマイク・アンド・ザ・メカニクス(Mike + The Mechanics)に加入。歌のうまさに定評があり、スクィーズの「Tempted」、マイクアンドメカニクスの「The Living Years」「Over My Shoulder」、ソロ曲の「Don't Shed a Tear」「Love Will Keep Us Alive」(イーグルスによってカバーされヒット)など、バンドのリードボーカリストとしてもソロアーティストとしてもヒット曲を持っています。クラプトンのライブではポールがメインボーカルを取る曲が1曲はありますね。クラプトンのライブでAce時代の代表曲である「How Long」をポールのボーカルで披露したこともあります。

ケイティ・キッスーン(vo)

katie kissoon(バッキングボーカル)

ケイティ・キッスーン(1951年3月11日~)は、イギリス出身のバックグラウンドシンガーで、多くの有名アーティストと共演しています。キッスーンは、1970年代初頭から音楽業界で活動を始め、彼女の姉マッキーと一緒に歌手デュオ「マック&ケイティ・キッスーン」を結成しました。彼らは、1970年代にポップスターとして成功を収め、いくつかのヒット曲がありました。その後、ケイティはバックグラウンドシンガーとしてのキャリアに焦点を当て、多くの著名アーティストと共演することになります。クラプトン以外にはジョージ・ハリソン、ピート・タウンゼント、ヴァン・モリソン、エルトン・ジョンなど。ロジャー・ウォーターズ(ピンク・フロイドの元メンバー)との長年にわたる共演で特に知られ、ウォーターズのソロアルバムやツアーでバックグラウンドボーカルを務めてきました(→ロジャーウォーターズのライブにおけるソロ歌唱)。

シャロン・ホワイト(vo)

Sharon White(バッキングボーカル)

シャロン・ホワイト(1953年12 月17日~)は、アメリカのバックグラウンドシンガーで、数多くの有名アーティストと共演しています。もともとブルーグラス/カントリー畑の出身で、家族で組んだファミリーバンド「The Whites」のメンバーであり、夫はカントリーミュージシャン界の超大物、リック・スキャッグスです(→夫婦共演 Ricky Skaggs and Sharon White sing "Love Can't Ever Get Better Than This")。彼女はクラプトンとの共演が長く、スタジオアルバムやライブツアーでバックグラウンドボーカルを担当しており、彼女の歌声はクラプトンの音楽に重要な役割を果たしています。また、ロジャー・ウォーターズ、スティーヴ・ウィンウッド、マイケル・マクドナルド、ドン・ヘンリーなど、他の著名なアーティストとも共演。けっこうクラプトンとウォーターズのバンドメンバーは共通していますね。

ライブレポ(というかライブを観て考えたこと)

この日のセットリストはこちら。

Electric Set I:
1.Blue Rainbow
2.Pretending
3.Key to the Highway(Charles Segar cover)
4.I'm Your Hoochie Coochie Man(Willie Dixon cover)
5.I Shot the Sheriff(The Wailers cover)

Acoustic Set:
6.Kind Hearted Woman Blues(Robert Johnson cover)
7.Nobody Knows You When You're Down and Out(Jimmy Cox cover)
8.Call Me the Breeze(J.J. Cale cover)
9.Sam Hall([traditional] cover)
10.Tears in Heaven
11.Kerry

Electric Set II:
12.Badge(Cream song)
13.Wonderful Tonight
14.Cross Road Blues(Robert Johnson cover)
15.Little Queen of Spades(Robert Johnson cover)
16.Cocaine(J.J. Cale cover)

Encore:
17.High Time We Went(Joe Cocker cover)

1曲目の「Blue Rainbow」は新曲のようです。ピンクフロイドのデヴィッド・ギルモアを思わせる雰囲気のあるギターインスト。インストで最初から弾きまくるクラプトンは珍しい。

全体を通じて、今回のライブはクラプトンの存在感が強めでした。前回の来日の時はけっこうメインボーカルをポールキャラックに譲ったり、ソロも控えめだったりとバックバンドの存在感が強めだった印象。今回は前回に比べるとクラプトン自身が前面に出ています。「ソロアーティスト」「ロックスター」感があった。

声もかなり出ています。78歳とは思えない、力強い声。

アコースティックセットではしっかり聞かせます。エレキの音も独特で太いですが、アコギの音色の柔らかさや音の美しさに個人的には聞き惚れました。

本編最後はCocaineで大盛り上がり。各メンバーのソロも多く、ラストはクリスのキーボードソロでド派手に盛り上がります。

アンコールのHigh Time We Wentはポール・キャラックのボーカル。やはり歌が上手いですね。ポールキャラックも70代なのですが張りがあって高い声。すごい。

ロックスターとしてのクラプトン

考えてみると、クラプトンってあまりロックスター然としたビジュアルをしていないので忘れがちなんですが本物のロックスターですよね。実績はもちろんそうだし、行動パターンもそう。ドラッグにはまるし、ジョージハリスンから略奪愛をするし、その上離婚してかなり年下の女性と結婚するし、過激なことも言う。1970年代にはステージ上で猛烈な人種差別発言を行い、当時ファシズムに傾倒していたボウイとともにロックアゲインストレイシズムの運動の標的にされたりもしています。その後完全に方向転換して穏当な発言をするようになりますが、もともとはゴシップが多かった。穏やかそうな外見なので忘れがちですがめちゃくちゃ過激な人。きちんと「60年代のロックスター」なんですよね。一般人とは思考回路が違う破天荒な生き方です。クラプトンの自伝はロックスターの自伝の中ではかなり売れた方ですが、そういう「ゴシップスター」として人々の耳目を集めてきたからでしょう。クラプトンの生き様に興味を持つ人が多い。そうした「生き様が注目された上で破天荒に生きる」ロックスターって今は減った気がします。ヒップホップやYouTuberがその地位をとってかわった気がする。かつてはロックスターがその役割を担っていたんですよね。

ただ、クラプトンはステージを観てもそれほど派手な感じはない。ボウイとかミックジャガーに比べると地味です。だからどうも「ロックスター感」がほかのスターに比べると薄く、「職人」とか「ギターヒーロー」的な感じがします。この絶妙な立ち位置がクラプトンの醍醐味なのかもしれない。

セットリストにしても半数以上(17曲中11曲)がカバー曲。本人は「作曲家、シンガーソングライター」よりも「ギタリスト」としてブルースの曲などを演奏することを優先しているように見えます。同年代、あるいは同規模で活躍しているロックスターの中で「カバー曲主体のライブ」をやるアーティストなんか他にはいません。自作自演が尊ばれるロック文化の中で異質な存在。

クラプトンの独特のセンス

クラプトンの歌メロって独特なんですよね。カバー曲はブルースが中心なので、そちらはオーソドックスでわかりやすいコード進行なのだけれど、クラプトンの作る曲はちょっと変わったコード進行をする。ギタリストがギターで作った曲という感じがします。ピアノとかベースで作るともっとコード進行が整然とする。その中で「既存のブルース曲と違うもの」を作ろうと試行錯誤してきたのでしょうか。オーソドックスなコード進行の曲はカバーすればいいから、クラプトンが自分で作るならちょっと変わった進行の曲を作ろう、としているのかもしれません。最近、新作アルバムにおいてはカバー曲の比率がどんどん増えていて、果てはクリスマスソングのカバーまでやっていますが、「新しさ」ということに対してそんなにネタが出なくなってきたのかも。その分「いい演奏、いい音」というところにこれまで以上に興味が向いているのかもしれません。

改めて不思議なクラプトン

今回の新曲「Blue Rainbow」を聞いて「インスト曲はクラプトンとしては珍しい」と思ったんですが、考えてみるとクラプトンって「ギタリスト」なんですよね。ボーカリストとしての評価も決して低くはないですが、クラプトンの第一印象で「ボーカリスト」や「作曲家」よりは「ギタリスト」がやはり出てくる。でも、彼の曲やライブってほとんどボーカルが入っているんですよね。これもちょっと不思議。まぁ、キャリアの始まりがギタリストで、その後自分でも歌うようになったという歴史のせいもあるでしょうが、ステージ上でこれだけ歌っているのに「ギタリスト」のイメージの方が強いのは面白い。

もともとカバー曲が多い人でしたが2000年代からはオリジナルアルバムでもどんどんカバー曲の比率が増えてきて、ロバートジョンソントリビュートやクリスマスソング集などカバー集が続いています。本人の曲が主体だったは「Back Home(2005)」までじゃないだろうか。それ以降はアルバムに2曲ぐらいしか新曲を入れていません。「作曲家」としての側面もだんだん薄れていて、「名曲を演奏するギタリスト」という立ち位置に収まっている。本人自身第一世代のロックスターで偉大な名曲を生み出しながら、同時に(動員数で考えれば)世界最大のトリビュートバンドのマスターでもあるという面白さ。いろいろな葛藤や選択の末に選んだスタイルなのでしょうが、結果として無理がなく継続できるモデルに落ち着いています。いまだに世界中で集客し続けているし、今回も武道館5公演ですからね。こういう不思議な立ち位置のアーティストが世界トップレベルの人気を保ち続けているのも考えてみると謎。地味なように見えて改めて考えればド派手な生き様だし、とはいえ実際のステージはかなり地味だし。

あと、今回の公演では「Layla」をやらなかったんですよね。100回公演なのに。Laylaの代わりにCocaine。連続で見に来ている人に向けてのサービスともとれるし、この日以外の公演にも人を呼ぶための策ともとれる。さすが老獪です。King Crimsonとかも商売上手なところがありますよね。ライブの曲もそうだし、アーカイブの出し方もそう。こういう「ファンの心をくすぐる」商売の仕方が上手い。アーティストには「出し惜しみなく全部やる」みたいなタイプと「もっと聴きたい!と思うあたりでうまく焦らす」タイプのアーティストがいますが、クラプトンは後者ですね。60年代、70年代の”ロックビジネス”の黎明期から生き抜いてきた強かさを感じます。

こうした不思議さは、積み上げてきた「ロック史」そのものなのかもしれません。どこかうさん臭く、商売っ気もありつつ、わかっていても乗ってしまう。考えてみてもどうもよく分からず、唯一無二の存在感がある。「他にないもの」「まだ世にないもの」を切り開いたのがロック第一世代(1960年代のアーティストたち)なんだなと実感しました。


なお、100回記念ということでアンコール前に花束贈呈のセレモニーがありました。

歴代ツアーのポスターをまとめたチラシ

ロックの歴史に立ち会えた素晴らしい夜でした。

それでは良いミュージックライフを。

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