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Thunder / All The Right Noises

英国の誇る伝統派HRバンド、Thunderの2021年作。Thunderは1989年に結成されたイギリスのバンドで、前身のTERRAPLANEというバンドのメンバーだったボーカルのダニー・ボウズとギターのルーク・モーリーによって結成され、1990年にデビュー。以降30年以上のキャリアを誇り、本作は13枚目のスタジオ・アルバム。デビューした90年代はUKヒットチャートに何曲もランクインさせるなど商業的成功を収めましたが2000年代はやや低迷、2009年に一度分裂し活動休止するも2011年に復活し、2010年代後半から再評価され、現在も活発に活動を続けています。アルバムも2015年のワンダーデイズ以降は傑作続き。そんなバンドの勢いが感じられる良作。一度スランプを乗り越えたベテランバンドは強い。暗い世相を吹き飛ばすように、(あくまで英国的に)明るめでエネルギーが強いアルバム。ジャケットはヒプノシスかな。

1 Last One Turn Off The Lights
ブギというか、ノリの良い曲。このバンドらしい少し湿り気のあるメロディがたまらないキラーチューン。英国ロックの佳曲。今作の掴みはOK。ちょっとビハインドスルージドアを思い出した。
★★★★★

2 Destruction
ヘヴィでスロウなブルース調の曲、リフがうねる感じ、音程が上下に行ったりきたりする。このうろつく感じはこのバンドらしいというか英国的というか。逡巡して煮え切らない感じがうまく出ている。そこから感情が高まるサビへ、じわじわと温度が上がっていく。こういうメロディがよく似合うボーカル。リフがかなり揺れる、ジャッジメントデイの頃の感じというか、このバンドらしい感じ、後半で女性コーラスが入ってきて雰囲気が変わる。
★★★★

3 The Smoking Gun
ギターのコードストロークから、風が吹いていく。カントリー調。カントリー調とうよりトラッドまたはケルティックというべきか。アコースティックだがアメリカのカントリーというよりは、ブリティッシュトラッド。よりルーツに近い感じか。Zeppのアコースティック曲にも通じる。途中からメロディが展開し、開放感が出てくる。きちんと展開するバラード。
★★★★

4 Going To Sin City
打って変わってホーンがはいるブラス・ロック。オールドスタイルなハードロック、ブギのリズム。思わず体が揺れるリズムで、コーラスもそのノリを強調するようなメロディ、ごきげんなナンバー。「罪の街へ行こう」というなかなかなタイトル。「全部忘れて楽しもうぜ」的な曲なのか、アウトローの悲哀を歌った歌なのか。
★★★★☆

5 Don't Forget Ti Live Before You Die
続いてもノリの良いナンバー、今作はパーティー感というか、明るく求心力の高い曲が多い。内省的だったり悲哀を感じさせるのもこのバンドの特徴ですが、そもそもちょっとロックパーティーというか、LAメタルとかとはまったくノリが違いますが、英国パブロック的な、酒場で盛り上がるようなミドルテンポでダンサブルなロックも持ち味。バックストリートシンフォニーなんかそういう曲が多いですよね。そうした持ち味が生きた、彼らならではのパーティチューン。
★★★★

6 I'll Be The One
ピアノバラード、エルトン・ジョンやフレディ・マーキュリーを少し彷彿させます。大仰に盛り上がる。ギターソロはサラッとしているけれどきちんと印象に残るメロディ。メインソングライターだし、ギターフレーズにも歌心がある。あと、このバンドけっこうベースが特徴的というか、前に出てくる。
★★★★

7 Young Man
こちらもハード・ブギ。体をノシノシと揺らすリズム。今回はロック色が強い、かなり開かれた、参加型のアルバム。聞いていて心地よい。コーラスの歌メロも印象的。ブルージーながらポップセンスもしっかりある、という。ゴットハードとかも系統は近いけれど、サンダーのほうが英国的というか、もっとひねくれている感じがして個人的には好み。ひねくれているのだけれどしっかりポップ、というのがサンダーの魅力というか、Freeもそうだよね、ポール・ロジャースとダニー・ボウズは比較されたりするが、そもそも音楽性が近い。途中から人を喰ったようなコーラスに。英国的なパーティといえばパブとサーカスで、この曲はサーカス感がある。お、ホーンセクションも入ってきた。面白い。これでタイトルが「若い男」か。最後はリフとホーンのユニゾン、女性コーラスも重なってきて祝祭感。遊び心のある曲。
★★★★☆

8 You're Gonna Be My Girl
ひねくれた、凝った曲からの青春ポップスのようなメロディ。いいねぇ。ドライブに合いそうな曲。海に行きたい。前曲からの対比が活きていて、開放感が強調される。ホンキートンクピアノが入ってきて、モータウンのようなコーラスも入ってくる。「カモンベイベー」の掛け声。「若い男」から「恋人になってくれ」か。フレッシュだなぁ。とはいえもちろん30年のキャリアがあるので大人の色気もある。
★★★★★


9 St George's Day
ちょっと落ち着きを取り戻して(?)、ミドルテンポのバラード。真夜中まではいかないけれど、夕暮れ、といった趣。真っ暗ではないけれど、少し暗め。とはいえメロディのところどころにメジャーコードも出てきて明るさもある。こういうさじ加減がうまいですね。途中、アラブ的な音階が出てくる、バイオリン的な音。キーボードだろうな。効果的。タイトルはセイントジョージズデイ、4月23日の聖ゲオルギウスの日、らしい。何か中東的なモチーフが出てくる故事でもあるのかな。
★★★★

10 Force Of Nature
ギターのリフ〜勢いよいカッティング、これはZeppっぽいな。ギターとボーカルがせめぎ合う。エレキが入ってくるがギターとボーカルのみ、パーカッションはカスタネット? なにかかすかなリズムが入るが基本はギターとボーカルでけっこう引っ張る。ベースが入ってくる。2番からバンドが入ってくる。ブルージーで勢いがある曲。全体的に今作はギターリフが凝っている。フュージョンのような間奏、ツインリードだがかなりテンションがかかった、かわった響きの和音になるツインリード。
★★★☆

11 She's A Millionairess
最後はまたノリが良い、フレッシュな曲。「彼女は億万長者」。なかなかポップできらびやかな響きです。パーティで楽しい感じ。こういう曲を若さや勢いに頼らず、さらっと余裕を持って説得力を持って鳴らせるというのはベテランの底力。勢いよく終曲。
★★★★☆


総合評価
★★★★☆
素晴らしいアルバム、じっくり聞ける大人のロック。かといって落ち着いているわけではなくポップでキャッチー、ノリもいい。正統派ブリティッシュ・ロックとしては派手さもあり、ここのところチャートアクションもよく、商業的成功を取り戻しているのも納得の出来。コンパクトな佳曲が多いが全体では50分弱と決して短くない、ボリュームのあるフルアルバム。もともと素晴らしいバンドだったけれど、ますます円熟味を増しています。

ヒアリング環境
昼・家・ヘッドホン

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