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Nine Treasures / Awakening from Dukkha

モンゴリアンメタルの旗手の一つ、Nine Treasures(九宝)の新譜。何度か過去に取り上げてきているバンドです。中央アジアのフォークメタル群の中ではS級バンドとして位置付けているバンド。全てにおいて完成度が高いんですよね。楽曲と言い演奏技術と言いライブパフォーマンスと言い。一流。本作に関するインタビューが日本語空間にありました。感謝。

1.Black Heart (Re-recorded) 03:41 ★★★★

いきなりの疾走リズム、スラッシーなスタート、かと思いきや伝統楽器によるメロディが入ってくる。高速民謡的な。ギターは刻みではなくコードを鳴らす。民族楽器のメロディと共に刻みに移り、ボーカルと絡み合う。途中から優美なバッキングに変わる。この音圧の抜け方が心地よい。お、途中からかなりヘヴィなリフになった。さまざまな要素を入れているのだが一つ一つに借り物感が少ないというか、音が本気度合いが高いのがこのバンドの特色。ちょっと高速メロコア感がある。メタルというよりメロコアの抜けの良さがあって、そのあたりがモンゴルの大草原の感じがある。あんまりうちにこもったり、歯を食いしばって地下室で、、、みたいな音像ではない。やはり大草原、大自然。

途中テンポチェンジしてオーソドックスなハードロック、ビンテージなハードロック的なパートを経て再び疾走民謡に。巻き舌ボーカルが心地よい。歯切れのよいメロディが次々と展開されていく。

2.Arvan Ald Guulin Honshoor (Re-recorded) 03:59 ★★★★☆

メロコア的というかハードロック的なギターリフから伝統楽器(弓で弾く弦楽器と思われる)のメロディが入ってくる。馬頭琴とバラライカがいるんだよなこのバンド。

馬頭琴

バラライカ(ロシアの楽器)

この辺りの楽器の音とディストーションギターとの絡み合いが面白い。今回のアルバムは再録版なのか、この曲は聴きおぼえがある。グレードアップしています。

3.Fable of Mangas (Re-recorded) 04:57  ★★★★☆

少しミドルテンポでじっくり攻めてくる曲に。ボーカルの歯切れがいいのが魅力。歌メロがペンタトニックというか伝統的なのだけれど現代的なポップさもあるのはこのリズムの歯切れの良さ、思い切りの良さもあるんだろうなと思う。ウランバートルで伝統音楽のライブを観たことがあるが、音楽ライブだけでなく舞踏もあって、それがもの凄いスピード感で驚いた記憶がある。とにかく展開が早い。やはり騎馬民族というか高速を重んじるんだなぁと。曲の展開が目まぐるしく、かといってメロディは土着的でシンプル、なので歌メロは覚えやすいけれど曲の展開は予想がつかないという面白さがある。これはモンゴリアンメタル全般に言える。元祖たるEgoFallのそうした「ごった煮感」を一番色濃く残しているのがこのNine Treasuresだと思う。

この曲も間奏が凝っているなぁ。これ、アレンジは前と変わっている気がする。この曲自体は聞き覚えがあるがここまで間奏部分が複雑な展開だったかなぁ。アレンジ自体も手が加わっている気がする。

4.Nomin Dalai (Re-recorded) 02:47 ★★★★☆

ノリノリなメロディ、バイキングメタル的、パーティーメタル的なメロディだがあくまでそのセンスはモンゴリアン、モンゴル的パーティーロック。飲む酒はラムではなく馬乳酒。これはワールドミュージックファンにも訴求できる良曲、メロディがいい。そもそもこのバンド、あまり極端な攻撃性は無い。先述したように借り物要素はあまり感じず、きちんとヘヴィ・ロックの語法も自分のものにしているが、攻撃性とか暴虐性を前面に出しているというよりあくまでダイナミズム、音楽的快楽を増すためのふり幅としてドラムやディストーションギターがある感じで、ベースはモンゴル音楽、きちんと歌と楽器のメロディというところが芯が通っている。

5.Tes River's Hymn (Re-recorded) 03:52 ★★★★☆

うねるようなベース、独特なドラムの回し。そこからスコーピオンズ的な、ジャーマンパワーメタル的な横揺れのリフが入っていく。からまた伝統楽器が入ってきて世界観が変わる。さまざまな要素がレイヤーで挟み込まれたハンバーガーのようだ。ボーカルが入ってくる、巻き舌がいいね。だいたいモンゴルのバンドはホーメイ(喉笛)を使うので自分はあえて使わない、とこのボーカルがインタビューで語っていてなるほどなぁと。その分巻き舌とか、やはり別の倍音は入っているのだけれど。そもそも声の要素に倍音が多い歌い方ではある。ややつぶれた声を作っているが、グロウル系というよりはやはり喉笛、倍音を増幅させる歌い方。またベースリフへ。世界観が目まぐるしく変わる。ハードコア~モンゴル(中央アジア)音楽~パワーメタル~メロコア、さまざまなシーンが取っ散らからず、自然な感じで一曲の中に納まっている。

そう、ハードコア感があるのがこのバンドの特徴だしかっこいいところだな。

6.Ten Years (Re-recorded) 04:44 ★★★★☆

スローテンポでじっくり来る曲、歌メロが耳に残る。バラード調だが哀切というよりは力強いメロディ。力強さや決意を感じさせるテンポというか。とはいえ力任せな感じではなく揺蕩う、揺らめく感じもある。どの曲も名曲感があるなぁ。個人的なツボにぐいぐい来る。途中、全楽器がユニゾンでリズムを刻み、一度音が止まってまたスタートするのはMetallica的なオマージュなのだろうか。なんかこの曲はドラマーがラーズを意識している気がするなぁ。あそこまで浮き上がっては聞こえないけれど、このバンドにしてはだいぶタメている。基本、ドラムはオンタイムだし、曲全体としては前のめりのバンドなので。

7.The Dream About Ancient City (Re-recorded) 03:54 ★★★☆

アルペジオからスタート。そこに伝統楽器(バラライカ)の音が入ってくる。そして馬頭琴の流れるようなフレーズ。バラライカと馬頭琴がユニゾンでメロディを奏で、ギターはバッキングでリフっぽいものを奏でる。この曲はインスト。

8.Praise For Fine Horse (Re-recorded) 03:55 ★★★★

独特なリズムで押してくる曲、ボーカル入り。かなり早口で言葉をマシンガンのように打ち出す。合いの手のコーラスも入る、ハードコア的なボーカル、だけれどブリッジやコーラスでは民謡的なメロディが出てくる。かっこよさと親しみやすさの融合。バラライカのカッティングにエレキギターのカッティングが重なり、AC/DC的なリフに展開していく。その上を馬頭琴がスペーシーに舞う。リズムはツッタタツッタタと馬駆けリズム。こういうリズムをやらせたらモンゴリアンバンドは一流。何しろだいたい幼いころから乗馬はできるから、リズムが染みついている。

9.The End Of The World (Re-recorded) 04:47 ★★★☆

ちょっとラウドロック的な展開、ギターは轟音でコードを鳴らしつつ、そこに伝統楽器がメロディを足す。ボーカルが入ってくるとギターがなくなり、伝統楽器とボーカルだけに。こういう音像に急に変わるのが混乱するというか「予測不能な感じ」「他にない感じ」で面白い。お、コーラスはかなりメロディアス。今のC-POP、C-Rockというか、中華圏のヒット曲になるポテンシャルがある歌メロ。逆に言えば民謡感は薄い。彼らはモンゴリアンバンドだが中国の内モンゴル自治区出身。なので、モンゴル出身のThe HUとは立場が違う。国籍には中国のバンド。中国国内のライブフェスにも出たりしている(メインステージで演奏しているので中国国内での人気も高い様子)。この曲は九宝っぽくはないけれどいい曲。

10.Wisdom Eyes (Re-recorded) 03:22 ★★★★☆

民族色が強いというか、一度聞くと耳に残る曲。口ではじいてミヨンミヨンと音が出る楽器(あれなんていうんだろう、うちにあるのだけれど名前が分からないなぁ)を使ったリフ。ああ、口琴か。おそらくこんな感じのもの。

面白い音がするんですよ。その音が効果的に使われている。で、民謡色が強いボーカルメロディが入ってくる。お、間奏はかなりかっこいいメタル色の強いアレンジに。これはもともとこんなパートはなかったな。もっとアコースティック、伝統楽器の色が強かった。間奏部分とかアレンジはガラッと変えている様子。

11.The Stubborn (Re-recorded) 04:43 ★★★★

この曲はハードコア、メロコア的。コーラスの雄たけびで曲が展開する。ボーカルもやや歪みの強い声。ただ、伝統楽器、馬頭琴の奏でる優美なメロディが乗るパートが混じっているのが面白い。ラウドロックのアレンジだな。メタルコアというか。間奏部分がかっこいい、パワーメタル的なアレンジに伝統楽器が乗るというか、きちんとリフの絡み合いが発生している、メタリカとまではいかないが、各学期が違うテンポで強調してそれらが絡み合って複雑なリズム、ポリリズムを生み出している。

12.Three Years Old Warrior (Re-recorded) 04:44 ★★★☆

ミドルテンポで音階の展開が大きいリフがボーカルと絡み合う。勇壮な進軍、といった感じだがどこか歌メロには開放感、おおらかさもある。メロディの民謡感がどこか懐かしい、昔語りのような感覚を覚える。馬頭琴の響きが歴史と大地の雄大さを想起させる。途中、音が通り過ぎていき、バラライカのカッティングが入ってくる。このバラライカの音が面白い。ギターとウクレレの中間というか、軽くて乾いた音。それなりの箱鳴りもしている。そこから経文的なボーカルフレーズに。そしてリフに回帰する。

総合評価 ★★★★☆

素晴らしい、個人的にはツボにストライク。もともといい曲が多かったが、それらの曲を再録して、アレンジはけっこう変わっている。ちょっとMetallica的になったというか、リフなどの要素が多層的に絡み合う展開に。単純な個々の演奏力で押すのではなくアンサンブルで複雑さを増してくる間奏部分。これは魅力が増している。

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