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新しい音楽頒布会 Vol.7 ポップ、ポストロック、ラテン、USパワーメタル、J-POP

今週は個人的に突出して刺さったアルバムはありませんでしたが、多くの良盤に出会えました。メタル系の大型リリースが9月は続きましたが、10月はロック/ポップ系の大型リリースが続きましたね。今週のおススメは7枚。最初5枚は秋の夜長に合うアルバムだと思います。

おススメ1:Taylor Swift/Midnight

"USの社会現象であり続けている”テイラースウィフトのニューアルバム。一聴すると内省的でややとっつきづらい、ドリームポップやエレクトロニカに接近した内容でありながらSpotifyの2022年最大のストリーミングを記録し、世界的大ヒットとなりつつある作品。アーティストパワーが凄いですね。Reputation(2017)、Lover(2019)でややクリエイティブの方向性に迷いや後戻りが見られたもののコロナ禍に突入してからのfolkrore(2020)、Nevermore(2020)と「音楽的冒険を行うアーティスト」のイメージを確立、本作もまた前作から音像を変えてきています。全盛期のマドンナのようですね。アルバムごとに明確なサウンドコンセプトがあり変化している。ただ、メロディラインと声そのものは不変であり、しっかりとコードが展開していくカントリーポップ的なメロディセンスは健在です。個人的には今作で初めてテイラースウィフトの良さが理解できたというか、今までのアルバムは高品質ですごいなとは思ってもどこか漂白されすぎていて刺さらなかったんですよね。だけれど、本作を聞いて逆にどんな音像になってもテイラースウィフトらしさを喪わないっていうのは凄いことだなと思いました。本作もけっこう音像・音響的には冒険しているのに優等生的で聞きやすいんですよね。これはもうアーティストパワーなんだなと。タイトルの通り夜に聞くと染みるアルバム。


おススメ2:Arctic Monkeys/The Car

先週のThe 1975に続き、現在のUKロックシーンを代表するアークティックモンキーズの新作。デビュー当時にくらべてすっかり落ち着きましたね。パンクの流れででてきたのにいつのまにかオーケストラと共演したり、すっかり「大人のソングライター」に変化していったエルヴィスコステロを連想させたり。本作はコード進行やメロディ進行もジャジーでアーバンな雰囲気になっています。音響的にも不思議な響き、黒人音楽(ソウルなど)を取り入れつつ、そこはUKらしくやはりUSとは違う”独自解釈”した響きに。イギリス人がブルースやロックンロールをやるとビートルズやローリングストーンズになりますからね。独自の味が出る。メロディアスなんだと思います。ボーカルの音程移動が激しく曲の表情の変化も激しい。ちょっと箱庭、紙芝居的。歌い方もちょっと芝居がかっています。しっかりとUKロックやブルーアイドソウル(今はSmooth Soulというらしい)の系譜につながる作品。


おススメ3:Dry Cleaning/Stumpwork

サウスロンドンのポストパンクシーンの中から頭角を現したドライクリーニングのセカンドアルバム。ポエトリーリーディングという特異なボーカルスタイルながら全英4位に輝いた前作New Long Leg(2020)以来2枚目のアルバムで、前作は目新しくはあったもののやや一本調子というかバリエーションに欠ける感じがありましたが本作はバリエーションは取り入れつつポエトリーリーディングスタイルは頑なに守り抜くという離れ業を見せています。前作よりも曲全体の表情とエネルギーが増しており、ポストパンクの名盤と言える出来。聞き始めると心地よくて止められなくなる不思議な魅力があります。ずっと聞いていられる。反復が多いバッキングとポエトリーリーディングの組み合わせがどうしてここまで快楽性を生むのだろう。ロックというフォーマットの本質的な魅力をむき出しにするようなアルバム。オルタナティブロック史の流れにしっかりと残るバンド、アルバムだと思います。


おススメ4:Niños del Cerro/Suave pendiente

2010年代半ば、チリの首都サンティアゴで結成されたニーニョス・デル・セロはチリの音楽シーンの存在感を増しつつあるバンドです。ブラジル音楽的なサヴタージ(独自の哀愁)を持ちつつ、ラテンポップスのわかりやすさも兼ね備えている。チリはスペイン語圏なのでポルトガル語圏のブラジルとは違いますが、音楽的には隣国。ブラジル音楽ほど特異なハーモニー(コード進行が独特)は持っておらず、複雑な中にも素朴な親しみやすさがあります。このバランスがちょうど良いかも。音楽ファンの人気が高くRYMのチャートでは本記事執筆時点で2022年の9位にランクイン。RYMにいる人たちはよく世界中の音楽を見つけてきますね。バンド名はチルドレンオブザヒル(丘の子供たち)という意味だそう。90年代ネオアコやネオサイケデリカの波に乗っています。そういえばこのどこか温かみのあるメロディラインと雰囲気どこかで聞いたなぁ、、、と思ったらアルゼンチンのプログレバンドPABLO EL ENTERRADORですね。ラテンなのだけれど情熱的すぎずどこか軽やかでブラジルに通じる哀愁がある。チリ、アルゼンチンのあたりはこうしたメロディセンスを持ったバンドが生まれてくるようです。アルゼンチン・チリのロックシーンも掘ってみたい。


おススメ5:Mägo de Oz/Love and Oz Vol 2

泣きの大名盤! スパニッシュメタルの大御所マゴデオズのバラードを集めたコンピレーションアルバム第二弾です。本作はパワーバラードばかり集めたという性質上メタル色は薄く、大仰で泣きまくるラテンポップス、ラテンロックアルバムになっています。ゲイリームーアの「パリの散歩道」バリに泣きむせぶ曲たち。もともとマイナー調で大仰な曲をやらせたらラテン音楽の右に出る音楽ジャンルはなかなかないですからね。アコースティックバラードから泣きのバラードまで全曲名曲名演。これ、好きな人には堪らないアルバムだと思います。メタルバンドのパワーバラードはただでさえ大仰ですが、その上ラテンというてんこ盛り。盛り上がり続けるサンタナか。マゴデオズは今は9名の大所帯でボーカル、ツインギター、ベース、ドラムのバンド5人に加えてバッキングコーラス、バイオリン、各種民族楽器(横笛、バグパイプ、ガリシア ガイタ、カスティリアン ホイッスル、アイリッシュ ホイッスル、ボードラン)、キーボードを加えた大編成。ビッグバンド的な音の迫力で迫ってきます。マゴデオズは1988年結成1994年デビューで20枚以上のアルバムを出している結成35年近い大ベテラン。グローバルメタルのレジェンドバンドです。


おススメ6:Stryper/The Final Battle

クリスチャンメタルのパイオニア、ストライパーの新譜。ギターボーカルのマイケルスィートとドラムのロバートスィートのスィート兄弟によって1983年に結成され、今年結成40年を迎える大ベテランバンド。本作は14作目のスタジオアルバムです。メタルというのは反キリストというか悪魔的なイメージがあったのでクリスチャンメタルというのは珍しいという文脈で日本では語られることが多いように思いますが、USではCCM(クリスチャンコンテンポラリーミュージック)というジャンルが確立されており、キリスト教的なテーマを扱うバンドって多いんですよね。たとえばハードコアでも先日取り上げたThe Devil Wears Pradaはキリストをテーマにしていますし、ゴシックメタルの大物エヴァネッセンスもデビュー当時はCCMに分類されていました(エイミーリーがCCMに分類されるのを嫌がってそのあとイメージ展開していきましたが)。そもそも、悪魔的、黒魔術的なイメージを出したブラックサバスにしても決して反キリストだったわけではないんですよね。キリスト教の中の悪魔をテーマにしているので。北欧ブラックメタルとかはそもそもの土着の神々(北欧神話の神々)がキリスト教により「異教の神=悪魔」に貶められたことに対する怒りがあったわけで、それはケルトも近い。UKやUSのメタルはそうした本質的な「反キリスト教(異教徒)」ではなく、あくまでキリスト教の中の「悪魔」をテーマにしていたわけで、「キリスト教という神話をテーマにしているバンド」としては同根です。だから正統派パワーメタルバンドなんですよね。で、なんとなくメロディックハードなバンドのイメージがあったんですが本作は1曲目がかなりスラッシーで驚きました。メロハーの殿堂、イタリアのフロンティアレコードからのリリースなのにかなりアグレッシブ。そのあと、曲が進むにつれて彼ら特有と言えるゴスペル的なメロディが多用されていきます。途中までUSパワーメタルで進み、コーラスでいきなりゴスペル的になるのが面白い。2曲目の「See No Evil,Hear No Evil」なんかはアラビック音階も入ってきて面白い。あと、マイケルスィートがかなり超音波スクリームを使っています。US音楽とメタルが好きならマッシュアップ感覚が楽しめる良盤。展開が予想を裏切り続けてくれるんですよね。この曲なんかまさに出だしがパワーメタルでコーラスがゴスペル。ブラックサバスは「悪魔の音階」とされたトライトーン(減5度)を使うことで悪魔的なイメージを出しましたが、逆にストライパーはゴスペル的なメロディ進行を使うことで「(メタル界の中で)ほかにない音像」を生み出したと言えます。


おススメ7:大森靖子/超天獄

めちゃくちゃ好き嫌いが分かれる大森靖子。聞く人を選ぶ歌い方です。高音の線が細い分、独特の歌い方を編み出したのが強烈。Phewや戸川純に連なる「聞く人を選ぶ」系譜なのかも。しかし華原朋美ってこの系譜なのによく売れましたよね。小室パワー恐るべし。その分、ハマったときにはほかにない感動を生むわけですが、ふと我に返って赤面したり。なんというか思春期ならいざ知らずある程度齢を重ねてくると酔っぱらって感極まったときに聞くとめちゃくちゃ効くし、素面のときにはなかなか入り込みづらい音像でもあります。そうはいっても本作はここしばらく固定化されていたバックバンド「シンガイアズ」を離れ、新しいバンドを結成。その分フレッシュというかアクが弱まっています。1曲目がかなり癖が強いのでその印象が強いですが、アルバム全体としてはストレートなバンドサウンドになっている。ここ数作は、全員が演奏技術が高いシンガイアズの影響もありかなりプログレ的になっていましたから、本作はかなりストレート。また、歌い方も前々作「Kintsugi(2020)」と提供曲のセルフカバーアルバム「Persona#1(2021)」で前面に出てきた「スクリームではなく、線が細いままで高音を出す歌い方」を多用。ある意味声優的な「声の演技力」が上がっています。今週のアルバムの中では1枚だけ異質な音響、音像ですが、大森靖子もRYMでは(レビューは少ないものの)評価は高いんですよね。海外の音楽ファンのDIG力は凄いなぁ。大森靖子がAvex所属というのも凄い。ある意味、今のアイドルシーンのぶっ飛び方のショーケースとして機能しています。アイドルシーンは「アイドル」という枠があれば何でもあり、みたいになっていますからね。エネルギーがある。ボカロとアイドルシーンは80年代後半~90年代のバンドシーンのようなマグマを感じます。Babymetalはまさにここから世界に出ていった先駆者。大森靖子も全米ツアーとかやらないかなぁ。


以上、今週のおススメアルバムでした。それでは良いミュージックライフを。

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