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新しい音楽頒布会Vol.15 インドのハードロック、アナドルロック、コリアンシューゲイズ、15歳のUSミクスチャー、ギリシャのメロディックブラックメタル

今回はジャンルも国籍も多様なラインナップを5枚。通底しているのはメロディアスでそこそこ音に勢いがあります。最近、非英語圏のメタルアルバムをずっと掘っているのであまり新譜を聞いていないのですがそういうモードだから世界各地の音楽がより意識に残ったのかもしれません。それぞれ背景(おかれた状況や音楽シーン)がまったく違いそうなアルバムを5枚どうぞ。

Girlish & The Chronicles / Back On Earth

ギリッシュアンドクロニクルズ(GATC)はボーカリストのギリッシュ・プラダンを中心に2009年にインドはシッキム州ガントムで結成されたハードロックバンド。ガントムは東ヒマラヤ山脈にある人口10万人ほどの都市です。シッキム州は1947年のインドの大英帝国からの独立時に独自の君主国であることを選び、1975年までは別の国でした。1975年にインドに合併。そんなわけでちょっと独自の文化圏がある土地です。音楽的にはめちゃくちゃレベルの高いハードロック。最盛期のスキッドロウやガンズを思い起こさせます。ボーカルが超ハイパーなんですよね。ただ、インドっぽさ(カルナティック音楽やヒンドゥスターニー音楽)は皆無。そのあたりはシッキム州の独立性(まぁ、ざっくりいえば田舎なので他から影響をあまり受けない)もあるのかも。なお、現在はインド第三の大都会(人口800万人)バンガロールを拠点に活動中です。

こちらはデビューアルバム(2014リリース)を再録したアルバム。ボーカルだけは2曲(Loaded、Angel)以外はそのままですが、他の楽器はすべて再録。演奏技術とプロダクションが格段に上がっており曲のかっこよさが際立ちます。曲順も変更。また、その上でボーカルのハイパーさも改めて際立つ。デビュー当時から完成度が高すぎます。全盛期のセバスチャンバックやアクセルローズに匹敵するハイパーボーカリスト。ただ、高音域の凄みはハードロックボーカリストと比較するよりパキスタンのヌスラットファテアリカーンとか、カッワーリー(パキスタンの宗教歌)的というべきなのかもしれませんね。喉笛をかすかに混ぜたような倍音の強い声。インドらしさは皆無ですが、ハードロック好きには強くおススメ。


Gaye Su Akyol / Anadolu Ejderi

トルコ、アナドルロックの歌姫ガイ・ス・アクヨルのニューアルバム。タイトルのアナドル・エデリとは「アナトリアの竜」という意味。アナトリアは小アジアを指す古代語地名で、トルコのアジア側のことですね。「アナドル」がトルコ語。トルコのロックのことを「アナドルロック」と言います。西洋音階とは違うアラビック(というかトルコはまたトルコ独自、ペルシア文化)の微分音階独自のサイケデリック感。現在のトルコ音楽シーンの中でも実験性と音楽的娯楽性を高いレベルで実現しているアーティストです。本作は4年ぶり5作目(うち1枚はTV向けサントラを含む)のアルバム。トルコらしい独自性、アナドルロックならではの強烈な個性を醸し出しつつグローバルな音楽シーンにも通じる音響的完成度と洗練を持ち合わせた力作。アナドルへようこそ。


Parannoul(파란노을) / After the Magic

파란노을、パラノール。パラムが「Blue」でノールが「Sunset」なので「青い夕暮れ」という意味のユニット名を持つこのアーティストは韓国人の匿名アーティストによるプロジェクト。2021年にリリースされたセカンドアルバム「To See the Next Part of the Dream」が軒並み欧米メディアで高評価を得て一気に知名度を得ました。本当に欧米の音楽Diggerはよくこういうアーティスト見つけてくるなぁ。本作も現時点でRYMで3.77の評価とめちゃくちゃ高評価。今年のベストアルバムではよく見かけるアルバムになるでしょう。聞いてみるとけっこうしっかりとK-POPというか、90年代K-POP感があるんですよね。90年代のソ・テジ(Seo Taiji)とか、ああいう「K-POPのメロディ」がしっかりある。そこにシューゲイズサウンドが乗る、という、むしろ日本人だとちょっとした懐かしさ(90年代っぽさ)を感じる音かも。1曲が突出しているというよりアルバム全体を通じて流れがあり、心地よさを味わうアルバム。

2003年、4年に冬ソナブームが来て韓流が流行り、その後2010年代からはいわゆる「K-POP」が日本市場を席捲。「洋楽」と言えば商業的にはK-POP一強になっていますが、そもそも90年代、00年代初期ってK-POPは「ワールドミュージック」だったんですよね。70年代から紅白歌合戦で韓国の歌手が韓国語で歌唱したり、日本語で歌いなおした曲がヒットしたり(釜山港へ帰れ、他)、韓国の歌手が日本語で歌ったり(古くはナフナ、90~00年代だとBoaやS.E.S.とか)という交流があり、また在日韓国人の歌手が日本芸能界で活躍するなど関係は深かったものの、基本的には韓国人歌手に日本語で歌われる曲が日本でヒットするだけで、韓国語で歌われるK-POPは「ワールドミュージック」の一つだった。個人的にはその頃のK-POPが好きだったんですよ。webに情報もなかったし、ほとんど誰も知らなかったけれど。その頃から考えると今の「K-POPブーム」は隔世の感がありますが、これはそんな「ワールドミュージックとしてのK-POP」をしっかり感じさせてくれる1枚。同時に「J-POPのご近所」としてのたたずまいも感じます。ある時点までK-POPって「J-POPの衛星的存在」だったんですよね。それは「邦ロック」と「UKロック、USロック」に近しく。聞いていると90年代の邦楽を思い出す瞬間があるアルバム。


Safiyah Hernandez / Homesick

サフィヤー・ヘルナンデスはカリフォルニアを拠点にするUSの女性SSW。あまり情報がないのですがどうもまだ15歳? かなり若いアーティストの様子。パキスタン、メキシコ、アイルランド、イタリアのルーツを持っており、音楽的にも多様性があります。インディーロックや90sヒップホップ、R&Bに加えてアラビックな質感も混じっていたり。好きなアーティストは「A Tribe Called Quest、Lauryn Hill、The Beatles、Nirvana、Umm Kulthum、Lata Mangeshkar、ROSALIA、Selena」だそう。ふと耳にしたら惹かれるものがあってアルバムを聴き通していました。夜に合うアルバム。



The Darkened Shade / Liber Lvcifer II: Mahapralaya

1999年にギリシャのアテネで結成されたザ・ダーケンド・シェイド。2人組によるブラックメタルプロジェクトで2012年以降3枚のアルバムをリリースしています。本作は2014年にリリースしたセカンドアルバム「Liber Lvcifer I: Khem Sedjet」の続編となる1枚のようです。先日、ギリシャ語で歌う中国のバンドを紹介しましたが本作は本物のギリシャのバンドながら基本的に英語。世界観の作り込みというか、荘厳さが素晴らしい出来。暗黒プログレッシブロックにも通じる確固たる世界観を持っています。音だけで雄弁に風景を語る音像。ブラックメタルではありますがそこまで暴走的ではなくテンポは落ち着いた曲もあります。整理された暴虐さ。整いすぎていないカオスさがありバランス感覚が絶妙。また、曲はかなりきちんと作りこまれており耽美かつ端正なメロディやコード進行が通底して流れていてどこか気品すら感じます。気品ある狂気。


以上、今回のおススメアルバムでした。それでは良いミュージックライフを。

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