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日本維新の会の政策をチェックする

 こんばんは。Sagishiです。

 前回の記事『国民民主党の重点政策をレビューする』に引き続いて、今回は日本維新の会の政策を見ていこうと思います。

1 日本大改革プラン

 2021年5月17日に公表された、維新の新しい看板政策『日本大改革プラン』。説明が非常に難しく、複雑な政策です。簡単に表現するならば「税制・労働市場・社会保障の一体改革」をする政策です。詳細は「日本大改革プラン202109完成版.pdf」を参照。

①フロー課税重視からストック課税重視に移行する(貯金のメリットを無くす方向性)
②社会補償制度を毎月6万円の現金給付(ベーシックインカム)に統合
③労働市場の流動化推進

 この政策の最大の問題は、財源がないことです。財源問題は『徹底精査!日本大改革プランの実現可能性①』が詳述していますが、『日本大改革プラン』を実行してからの5年間は、毎年30兆円規模の財政赤字を生みます。これはとんでもない規模で、その赤字をすべて国債で補うため、事実上のヘリコプターマネーの実行になってしまいます。

 『日本大改革プラン』の詳細設計を読む限り、政策の角度を修正する「下方値」が存在しておらず、一度実行したら引き返すポイントがありません。つまり、もしこの政策が詳細設計通りに進行せずに失敗すれば、日本経済と財政は壊滅的状態に陥ります。

 民主党政権では、公約の下方修正ができなかったことで、政治が硬直状態に陥り、政治不信と党内対立を招きました。その過去を鑑みれば、政策の切り戻しポイントや、下方修正値が設定されていない『日本大改革プラン』にはリスク・マネジメントが明確に欠落しています。

 国民民主党が主張している「積極財政」でさえ一定のリスクを覚悟しなければならないのに、維新の『日本大改革プラン』はそれとは比べることができないほどに過度なリスクがあります。

 また、わたしは『日本大改革プラン』の「成長戦略」は具体性に欠けていると考えています。というのも、ベーシックインカム(BI)で低所得層の可処分所得が改善され、国内経済が活性化するところまでは同意できますが、それがイコールで国内企業の生み出す製品の高付加価値化に至るとは限らないと考えるからです。たとえ国内消費で経済が過熱しても、国内企業の生産性と企業価値が向上しなかったら、本政策は真価を発揮しえません。

 これは国民民主党の成長戦略の詳細設計に問題があること同じで、維新の『日本大改革プラン』には成長戦略を実現するためのロードマップの記載がないです。これではアベノミクスの二の舞です。

 また、『日本大改革プラン』は既存の社会制度に一括した修正が入ることになるため、少なくない社会混乱・経済混乱が起きることが想像できます。もっと段階的に移行していくような制度設計になっているべきで、明確な財源もなく、成長戦略と制度移行のロードマップもない本政策は、非現実的な内容だと言わざるを得ません。

 これは蛇足的な意見かもしれませんが、『日本大改革プラン』の詳細設計を読むと、どうしても失策した『大阪都構想』を思い出します。政策の角度が急峻すぎて、他党や諸政策と調整できるような余地がないのです。『大阪都構想』も、支持率の高い一部の区から試験的に合区させて、「総合区」で様子を見てから、段階的に移行するような手法もあったはずです。そうであれば、自民党の支持を取り付けることも可能だったのではないでしょうか。維新には党の主要政策を実現するための、調整能力と実現能力に欠けているのではないか、と感じます。


2 維新の選挙公約を見る

 次に維新の衆院選公約の「維新八策 2021」を見ていきます。良いと思った政策と良くないと思った政策について書いていきます。

2-1 良い政策

・国会改革
13. 政策競争の場としての立法府を実現するため、国会議員同士の自由討議を復活させ、形骸化した審議の活性化を促進します。
14. 国際情勢の不確実性が増す中、日本のトップだけが突出して 国会に縛られる状況が続く現状をあらため、首相が 100日は海外に行けるような国会運営を行います。
18. 与党による事前審査制度を見直し、委員会での法案審査については質疑だけでなく、 委員会の下に設置される小委員会で条文ごとの審査を行い、修正案を作成する機会を制度化します。

 13「自由討議の復活」は面白い提案です。どのような効果を企図しているかは公約の文面からだけは読み解けませんが、国会の議論を活性化させ、価値の向上に繋がることを期待します。14は素直に同意です。

 18は非常に意義がある提案です。しかし、1つの法案を通すのに非常に時間がかかるようになる懸念があります。これを悪用し国会遅延戦術に使われたら溜まったものではありません。立法化には慎重な議論が必要でしょう。

・官僚負担削減
24. 官僚に対する恫喝的なヒアリングは慎むとともに、議員向けのレクチャー・意見交換についても公務員の働き方改革に合わせオンラインでの実施を推進するなど、国会対応による官僚の負担を軽減します。
25. 国会での業務全般のペーパーレス化に率先して取り組み、官公庁からの資料は極力データで受け取ることを徹底します 。

 24と25は同意です。行政の生産性向上を進めていくべきです。

・公文書院の設置 / 公文書管理
37. 独立した権限を持つ「公文書院」を新たに設置し、公文書管理が各省庁に任されている杜撰な現状を改め、公正中立な機関と文書管理の専門家が適切に管理する仕組みを構築します。将来的には、公文書院の憲法機関化も検討します。

38. 公文書の管理・保存については総デジタル化を原則とし、ブロックチェーン技術等の導入により徹底した書き換え・改ざん防止の仕組みを構築します。

 37「公文書院の設置」は維新のユニークな政策提案です。これは良い提案なのではないかと感じます。また、併せて公文書管理についても改竄防止のための具体的手法を記載しているのが好印象です。

・歳入庁の設置
45. マイナンバー連携の拡大に併せて国税庁と 日本年金機構等の社会保険料徴収部門を統合した「歳入庁」を設置することで、税と社会保険料を一体徴収し、業務効率化と不公平是正を図ります。

 「歳入庁」は、効果と権限がどの程度になるのか不明ですが、面白い提案であると感じます。「歳入庁」は国民民主党の政策にも記載があるので、必要性について今後の議論の活発化が期待されます。

・被選挙権の見直し
61. 衆参両院の被選挙権年齢を 18歳に引き下げるとともに、供託金の金額を年齢に応じて見直すなど、間口を広げて多くの選択肢から有権者が判断できる 環境を整備します。

 素直に支持できます。国民民主党の政策にも記載があった内容で、今後の議論の活発化が期待されます。

・海上保安庁法と自衛隊法の改正
311. 我が国を取り巻く国際情勢に鑑み、領海などにおける公共の秩序の維持を図るため、自衛隊法及び海上保安庁法を改正し、自衛隊の部隊による警戒監視の措置及びその際の権限について定めるとともに、海上保安庁の任務として領海の警備が含まれることを明記します。

 こちらは国民民主党の政策にも全く同じ内容の記載があります。国民民主党の安全保障系の政策を取りまとめているのは前原誠司ですが、維新と勉強会をしているようなので、共通の認識を取ろうとしているかもしれません。

・マグニツキー法の立法検討
332. 国際的な人権侵害が頻発している事態に鑑み、人権侵害を行った個人・団体を対象とし、ビザ規制や資産凍結などを行う人権侵害制裁法の制定を検討します。

 直接的に名称は書かれていませんが、「マグニツキー法」への言及です。今後、人権外交をする上で「マグニツキー法」は重要になってきます。国民民主党よりも踏み込んだことが書かれており好印象です。

・憲法裁判所の設置
342. 政治、行政による恣意的憲法解釈を許さないよう、法令又は処分その他の行為が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する第一審にして終審の裁判所である憲法裁判所を設置します。

343. 憲法裁判所の判決で違憲とされた法令、処分などは、その効力を失うこととし、判決は全ての公権力を拘束する効力を持たせます。

 「憲法裁判所」は日本の憲法議論を生産的なものに変える可能性があり、三権分立をより明確にできると期待できます。どのように設計するかが非常に重要で、慎重で多様な議論が必要です。国民民主党も「憲法裁判所」の設置を検討しており、今後の議論が期待されます。


2-2 懸念のある政策

・政治家と官僚の接触制限
27. 「口利き」などの疑惑を防止するため、政官接触ルールの内容を見直し、国家公務員制度改革基本法を厳格に運用します。

 書き方がやや漠然としていますが「政治家と官僚の接触制限」を企図する政策と思われます。これを見たとき、民主党政権において「政務三役の指示がある場合以外は官僚が政治家と接触することを制限する規定」(接触制限規定)を導入したことが原因で、官僚側から情報が全く上がってこなくなり、省庁間の情報共有にも問題をきたし、政治が空中浮遊した事故を想起しました(中公新書『民主党政権 失敗の検証』を参照)。

 当然、政官のやり取りにはルールが必要ですが、必要以上に政官の接触を禁じるような制度を導入すると、政治が機能不全に陥るリスクがあります。

・国・地方公務員の人員・人件費を2割削減
30. 人口減少など新たな課題に直面する社会において、維持すべきは維持しながらも業務の合理化や権限移譲による適切な人員体制の見直しを行い、国・地方公務員の人員・人件費を 2割削減し、新たな財源を作ります。

 「国・地方公務員の人員・人件費を2割削減」はやりすぎです。当然業務の合理化は必要でしょうが、どんなに業務を効率化しても2割も削減できるとは到底思えません。ただでさえ官僚は人員不足が問題になっているのに、どうするつもりなのでしょうか。もし維新が政権を取ったら、実現できない公約の最たる例になるでしょう。公約に書くべき内容とは思えません。

・内閣予算局の設置
44. 内閣による弾力的な省庁再編を可能にするほか、財務省主計局から内閣予算局(仮称)に予算の企画立案機能を移管するなど、内閣主導体制の強化を図ります。

 「財務省主計局から内閣予算局(仮称)に予算の企画立案機能を移管するなど、内閣主導体制の強化」ですが、民主党政権で失敗した「国家戦略室」と何が違うのでしょうか。やりたいことは分かりますが、民主党政権の失敗を踏まえてより具体的な詳細設計を描かない限り、同じ失敗を繰り返すのではないでしょうか。

・政府関係機関の保有株式を原則全て売却
49. JTや日本郵政、東京メトロ、 NTT、日本政策金融公庫、日本政策投資銀行、国際協力銀行はじめ政府関係機関の保有株式を原則全て売却し、民営化による業務効率化を行うとともに、売却収入によりコロナ復興・震災復興の財源を確保します 。

 財源確保のために、上記を行うのは目的の転倒ではないでしょうか。「国・地方公務員の人員・人件費を2割削減」にも財源確保と書いてありますが、やることの意義を財源確保に繋げているのがおかしいです。


3 まとめ

 維新の公約には良いものも多いですが、『日本大改革プラン』を筆頭に、極端な内容を謳っているものが多々あるのが気になります。

 また全体的に「都市型政党」の雰囲気を漂わせる公約になっており、農村部に関する政策が非常に少ないです。これでは、維新は都市部では勝てても農村部では厳しいでしょう。

 旧民主党がそうであったように、都市型政党が大きくなるためには、農村部の支持を獲得する必要があります。しかし農村部の支持を獲得すると、必然的に党内に様々な価値観を持つ議員を擁するようになります。現在の公約のまま維新が成長しても、農村部の議員と都市部の議員で考え方が割れ、党内分裂に至るでしょう。

 維新はもっと中庸な政策を掲げ、対立よりも政党間や利害関係の調整ができるような政党に成長し、確実に自分たちの政策を実現するための力を獲得する必要がある、と感じます。

詩を書くひと。押韻の研究とかをしてる。(@sagishi0) https://yasumi-sha.booth.pm/