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コモディティ化した“起業”と“スタートアップ”

友人のベンチャーキャピタリスト伊藤くんが、処女作を出版したので、拝読させていただいた。

伊藤紀行 (DIMENSION株式会社) (著) 『スタートアップ――起業の実践論 ~ベンチャーキャピタリストが紐解く 成功の原則』という。

著者とは、楽天時代の同期で、当時からベンチャーやスタートアップに関する情報交換や活動をたまにしていた。

そのころのマインドを保ち、このような投資家としての立場で素晴らしい本を出版されたことに感心するし、まずはおめでとうと祝辞を述べたい。

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その大人でプロフェッショナルな文体に圧倒されてしまったが、

本書の感想を一言でいうと、

“起業”や“スタートアップ”というものが完全にコモディティ化したな、

ということ。

これは、私という特殊な個人の主観的な感想だ。

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まず、その主観的な感想を述べる前に、
一般的な読者にとっての有益なポイントを説明したい。この本は、とてつもなく価値ある起業(スタートアップ)ノウハウ本である。

起業をする場合に、何をすればいのか、課題発見、仮説検証、資金調達、マーケティング、集客、ビジョンなどについて、本質的な説明と、実際の企業のケーススタディつきでストーリーで理解できるようになっている。

しかも、そのケーススタディが、弁護士ドットコム、カバー、SHOWROOM、北の達人、ヤプリ、五常アンドカンパニー、マネーフォーワードなど、日本を代表するベンチャー企業であるのだから、参考するに値するのは間違いない。ドリームインキュベータの投資家だからこそ、このような起業家に深く話を聞くことができたのだろう。(逆にいうとそれらの企業がCAPにはなるかもしれないが)

簡単なところで、2つ紹介しておく。

筆者のファンドで特に重要視している2つの視点…それは市場が伸びるか、その中でこの会社が勝てるか、という2点。

これ、当たり前の話だが、意外と起業家は考えていない。自分が作りたいものとか、自分が解決したい課題に集中しており、その市場が大きいか?成長しているか?をあまり検討していないケースが多い。

本書でいう「起業家」を目指すなら、どこの業界で勝負するか自覚すべきだろう。それはもちろん、一般的にいわれている業界ではなく、車のライバルはYou Tubeであるかもしれない、などという本質的な意味で。

もう1箇所。

自らの財布の口をひらいてお金を払うかどうか、身銭をきれるかどうかを考える瞬間にこそ、顧客は本音を語ってくれる(73)

これも、大事な視点だと共感する。物が売れるというのは、命がけの飛躍であり、しょうじき、何が原因かは厳密にはわからない。
企業当初だと、やみくもに友人などにプロダクトを使ってもらうとしがちだが、それは本質的には意味がない。そこで売上は得られるかもしれないが、今後の潜在顧客へのアプローチ方法や、商品満足度などが全く検証できないばかりか、全く違う雑音データをもたらすことがあるから。

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さて、冒頭の主観的な感想に戻りたい。

本書で一番印象的なところは次のところ。

スタートアップとスモールビジネス(中小企業)共通点、違いを押さえる必要がある。…スタートアップに課せられた使命は、「顧客の新しい課題に気づき、ビジネスとして成り立つかを高速に検証する」ことにある。(123)

これは、一般的にも言われるかもしれないが、このようなベンチャーキャピタリストの教科書的な本でいわれると説得力がある。

ただ、正直、この一言で、「スタートアップ」という活動がものすごく陳腐化、コモディティ化したなぁと思った。

起業家の活動の意義が、「顧客の新しい課題に気づき、ビジネスとして成り立つかを高速に検証する」というのは至極本質であり、投資家や市場、社会が求めていることである。

曾て、20年くらい前、
その頃は、起業とは、誰も見たこともないものの創造、人々を驚かせる作品を生み出す、のような理念があった。

2005-2010くらいの期間にベンチャーブームの中で、スタートアップに興味を持った自分にとって、起業とは、そういう理念が当時あった。(単純に社会やビジネスというものを知らなかったということも大きいが)

しかし、それは、消えていった。

私は徐々にビジネスってそういうものではないと気づいて、2015年、30歳くらいから哲学や芸術の方に感心がシフトしていった。

誰もがわかる安全便利快適をもたらすプロダクトは、本書にマニュアル化されている通り、プロダクトを定義したら仮説検証として、やることが一気に決まってくる。

本書では、起業ノウハウが具体的に書かれている。仲間に集めリストをエクセルで管理して、定期的にアプローチするとか、ウェットな口説きをするとか、そこまで全てがある種、チェックリスト化されている。

後はそれをあきらめずにひたすら試行錯誤して実行するだけ。

これだけ知がオープンになっているので、競合も同じような取り組みをしてくる。

そうなると、勝敗はもう、どれだけしつこくやるかにかかってくる。大変なことだ。そうなると、なぜそれをやり続けるのか?その目的意識、熱意が問われる。

でも、このようなコモディティ化した起業に熱意をどれだけもてるか?

私は、このような「高速仮説検証のプロジェクト」に対して、闘志をタックルのような体当たりで発散させるような熱意は抱けないことが、腑に落ちた。

ただ、もちろん、
宇宙とか、存在の謎とかの真理に取り組むようなプロジェクトは、心から熱くなれるかもしれない。

ただ、ビジネスの枠組みではなかなか難しい気もする。

とりあえず、現状は、日々の目の前の仕事や生活に向き合って、よいことと思うことを積み上げていきたいと思う。




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