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『天才性が見つかる 才能の地図 』と計画経済

「中田敦彦のYouTube大学」で大絶賛されていたので、鈴木祐『天才性が見つかる 才能の地図 』を読んでみた。

自分の能力に自信がない人でも、見方や場所を変えれば高い能力を持っているとみなされる可能性がある。本書では、そういう考え方を理論的な根拠を基にまとめてあり、さらに、実際にどのような手順でそういう「見方や場所」を探せばいいかが書かれている。

個人的にはいつも考えていることなので、真新しいことはなかったが、より解像度が高く描かれていて参考にはなった。

つまり、どんなしょぼい能力しか持っていなそうな人でも、救いの道はある、ということ。

「能力」といえるものは状況に応じてたくさんの種類がある。例えば、自信がないとか、すぐ不安になるというのもそれが強みになる場面がある、ということ。

また、比較優位の考え方を導入すれば、AさんはBさんにすべての能力で劣っていたとしても組織内では力を発揮できる場所がある、ということが言える。

つまり、簡単に言えば、適材適所すればどんなレベルの人でも輝ける可能性がある、ということが言われている。

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さて、ここで自分が思った疑問がいくつかある。

そもそも、社会はそんなシンプルではない。
この車製造プロジェクトでは、やさしさ、忍耐強さ、精密性、営業力、話術…のようなスキルが役立つ。Aさんは◯◯の能力を備えている、Bさんは◯◯、Cさんは〇〇、比較優位を考えて、こう配置すれば、よい成果が出るだろう、みたいなことがうまくいくはずがないだろう。
リアルなカオスでおきている現実はそんなパズルゲームのような単純ではない。忍耐強さという1つの概念も捉えようによって何万も解釈がありうる。

この考え方を突き詰めると、計画経済に行き着くだろう。

人々が成人したくらいの年齢になれば、各人はさまざまなスキルセット、能力セット、かたよりが明確になる。そして、世界中の経済を細く監視しちえる中央政府が、この日本人は、アルゼンチンのこのITプロジェクトで相対的に最大の価値を発揮できるから配置する、みたいなこと。
実際、社会主義国家の計画経済でやろうとしていたのは、こういうこと。

でも、一人の人間とリアルな世界という環境の接点は、テトリスのようなパズルピースを合わせるようなものではないのは明らかだろう。人間の能力を1万個に分類して、プロジェクトの特徴を数万の視点で分析しても、このマッチングはうまくいかないだろう。うまくいくには、それこそ、この世界全体を完全に(素粒子レベルで?)シュミレーションできないとだめで、そんなことはシンギュラリティが起きても無理だ。

ただ、だからといって本書の価値がないわけではない。

自分の能力の低さに嘆いている人にとっては、別の見方を提示してくれるし、他の場所で力を発揮する契機を与えてくれるだろう。

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