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ランバージャック Ⅴ [追い山は犬しだい]

2004年に徳島県の祖谷山で山師の仕事をはじめた。前回の狩猟の続きを書こうと思う。

祖谷(イヤ)の村にも狩猟期間というものがあり、毎年11月から翌2月末までが追い山と呼ばれるイノシシ狩りができる。

また、年末ごろに雪が積もり始めるので、年明けから2月末までは、毎日犬を連れてイノシシ猟に出ていた。

「追い山は犬しだい」

と親方は何度もその言葉を口にした。この猟犬は自分たちでリーダーを決め、団体で行動する。

そのリーダーの良し悪しで捕獲の大きさと数が決まるらしい。

少し小柄だが人懐っこい紀州犬がいた。名前はハル。自分より身体の大きい4匹を従えて、猟に出れば決まって獲物を捕まえた。

彼らは20から30キロの体重で、100キロを超す猪に立ち向かっていく。しかもイノシシの牙は鋭く、まともに闘えば勝ち目はない。

それでも血走った目をして、果敢に飛びかかっていく姿はとても恐ろしく思えた。

僕は何度か犬を病院に連れて行った。イノシシの牙で腹を裂かれ、何針も縫う手当てを受けたこともある。

「追い山は犬しだい」

ある日ハルが怪我をしたので一時期、療養していた。その間は別の犬がリーダーとなり、イノシシを追ったが、捕獲出来ない日々が続いた。

たまに獲れても小さい獲物であった。

そうしてハルが戻ってきた。すると他の4匹の動きが違って見え、いきなり大きなイノシシを捕まえてきた。

「ハルがおらな、追い山にならんわい」

と親方の横でシッポを振るハルは猟師たちを和ます力も優れていた。剣山の麓は国立公園の原生林が広がっている。

その日は少し遠出して追い山をすることになった。

やがて大きなイノシシの足跡を見つけ、親方は持ち場を決め犬を放した。いつものようにハルが先頭で4匹の猟犬が続いて走る。

ところが、いつまで経っても犬の鳴き声がしないのと、発信器が届く距離を超えてしまっていた。

慌てて車で探したが、見つからず、その日は帰る事になった。それから数日は無線機を持っていろんな所を走り回って探した。

しかし見つからず、諦めかけた7日目にひょっこり5匹の猟犬が帰ってきた。

「こんのど寒い中、どこほっつき回っとったんや」

と親方に怒られるハルの姿は、雪山の中、何日も旅をしてきて、とても逞しく見えた。


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