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愛犬キャットとお婆さん 前編

1.オカンの仇

キャットという名の大型犬とお婆さんの物語である。

生まれて間もない子犬が引越したばかりの我が家にやってきた。

真っ黒で小さくて、何かに怯えているのか、ずっと震えている様に見えた。

「さぁ、ご飯だよ〜」

とドッグフードを与えても食べようとせず、何故かキャットフードを好んで食べる。

キャットフードばかり食べていたので名前がキャット。

名付けたのは親父で、これからどんどん大きくなる犬にとっては、とっても迷惑な名前だが、家族全員が「キャット」と呼んで可愛がった。

特にオカンは役回り上、餌やりやお散歩など1番お世話をしていたと思う。

ラブラドール・レトリバーの成長は驚異的で、リードを引っ張って散歩していたオカンが、いつの間にやら引っ張られる状況に代わっていた。そんなある日彼女は、

「ほな、キャット!散歩に行こうか」

と家を出た。そこでオカンはキャットに跳びつかれ、顔から地面へ叩きつけられた。

学校から帰った僕は、腫れあがったオカンの顔を見て、

「お岩さんみたいやで」

と言いつつも痛々しい気持ちになったのを憶えている。

高校で陸上部だった僕は、脚力に自信があった。オカンの仇をとるため、その日は朝からキャットを連れ散歩に出かけた。

隣町にある野鳥の森まで10キロ、キャットが僕を引っ張る形で走った。

そこから童学寺の坂を登り、トンネルを抜け、森林公園まできた所でキャットの足が止まった。そして彼は、

「もう歩けない、勘弁してくれ!」

という顔をしたので、僕は鮎喰川沿いを引きずって帰った。

それまでのキャットは、僕の顔を見れば、飛びついて、

「散歩に連れて行け!」

といった態度だったのが、その日を境にお座りして待つという賢い犬の格好をする様になる。


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