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エリカの憂い【二次創作SS】

「______ねぇ、知ってる?“私達”の近くに、変な実ができたんだって。」

「美味しいのかなぁ?」

「どうだろうね_____」

「エリカ、論文の内容迷ってなかった?その実について調べてみたら?」

「う~ん、そうねぇ…」

 植物は、植物同士で“会話”をするという。とある、朝露が照らす美しい森の中に、“変な実”ができたことについて植物達が噺している。その中の「エリカ」は、その“変な実”について調べてみるようだ。エリカは人間でいうと18歳くらいにあたる。実について調べなければ、という使命感と共に、“恋をしてみたい”という年頃なこともふつふつと考えていた。

「これが、その噂の実かぁ。確かに見たことない…」

エリカはその実を凝視する。すると、自分の花弁をその実にくっつけた。人間でいう“ひとかじり”の仕草らしい。そうすると不思議なことに、エリカの体が光りだして_____人間になった。

「?! え?!」

エリカは驚きを隠せない。咄嗟に周りの植物に話しかける。

「に、人間になっちゃった…!!誰か助けて!!」

その悲痛な叫びは、エリカから植物には届いているかもしれないが、その植物達からエリカに返答されることはなかった。

「みんなの声、聞こえなくなっちゃった…これから、どうにかしないと…食べ物、と……【人間は一人では生きていけない】って聞いたことがあるから…誰か人間を探さなきゃ…」

エリカは突然人間となってしまった重圧に、へたり込んでその目には涙が溢れていた。そこへ、若い男の声。

「_____待って!あそこに婦人が…!盗賊にでも荷物を盗られてしまったんだろうか…!」

赤髪の若い男は従者を連れてエリカへ駆け寄る。

「ご婦人!お怪我はありませんか?」

エリカを心配する、真っ直ぐな瞳。

___何と美しい人間の方…

これが俗にいう【一目惚れ】なのかとエリカは思った。すると我に返り、咄嗟に嘘をついた。

「怪我はないです、ありがとうございます、優しい殿方様…。ですが盗賊に我が家の大切な【紋章】を盗られてしまいました…我が家では、紋章がなければ家の敷居をまたぐことができません…紋章を盗られて時間が経ってしまったので、もう追えないかと思います……ですので、熱りが冷めるまで、殿方様の邸宅にご厄介になることは叶いませんでしょうか…?炊事でも洗濯でも、慣れてはいませんがやりますので……」

「そんなご事情が…!」

男は言葉を咽んでいる。この男も、実はエリカに一目惚れをしたようだ。

「炊事や洗濯など従者で十分です!貴女のようなご婦人にはさせません!さぁさぁ、私達の馬車へ!」

こうして、エリカは若い男の邸宅に上がり込むことに成功した。若い男は、名をノア・アンドリューといった。

 エリカとノアの恋が結ばれるのに、そう時間はかからなかった。そしてついに、夫婦となることとなった。だがエリカは、“自分が元は花である”という事実を話す気になれなかった。

エリカは、少し世間知らずな所はあるが、その美貌と努力家な性格から、アンドリュー家から愛顧を受けた。そして、幸せな結婚生活が続いていた。

 ある日のことだった。ノアの首元から、女性の香水のような香りがする。エリカは元“花”のため、香りについてはずば抜けて鼻がきいた。

「旦那様、良い香りがしますね?お仕事場の方?」

深く問い詰める勇気はなかった。ただ少し、聞きたかっただけ。ノアが答える。

「っ…ああ、そうそう。仕事場の女性がね、僕に妻がいるのを知っているのに少し距離が近いんだ…本人には言ってるんだけどね…また言っておくから許してやってくれ」

最初にノアが悔しそうな__何かを後ろめたいような表情をしたのをエリカは見逃さなかった。

 この会話をしてから、エリカはノアの優しさがどんどん薄れていくのを感じ取っていた。そして今日も、いつものようにノアを仕事に送り出す。

「旦那様、行ってらっしゃいませ。」

「…ああ…」

送り出した後、エリカは従者を一人呼び止めた。

「ねぇ、ちょっといい…?今日話したことは、旦那様には秘密にしてね。旦那様…愛人がいるわよね…?」

従者はポロポロと涙を流した。

「…はい………」

従者は自分が何もできない悔しさから、先程の返事をしただけで精一杯なようだった。エリカは言う。

「貴方にも、辛い思いをさせちゃってごめんね。いつもありがとう。」

「奥様…!奥様が謝ることは何一つ…!そんな感謝の言葉も、私には勿体無いお言葉です…」

従者は走り去った。エリカは気持ちを整理するためふらりと庭園に出た。庭園の端には少し窪みがある。昨日の雨で、その窪みが水溜りとなっていた。そこにエリカの顔が映る。光を失った目がこちらを見ている。

「花だった頃は、毎日が楽しかったのに。まるで別人のようね」

「私も秘密を打ち明けていない。でも、私がこうして悲しんでいる気持ちは、旦那様に気づいてほしい______この秘密と気持ちは、私の心の中に隠すしかないのね___。これは、私が秘密を愛した人に打ち明けていない罰______」

___エリカが“食べた”あの実は、【知性の実】という名前だったらしい。

___fin.

-編集後記-
エリカの憂いは↓のような曲です(原曲ではなくお気に入りの歌い手さんのものをご紹介)

https://youtu.be/WCQshMm3ruo

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