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第38回:規制改革推進会議を使いこなす‐薬局の規制緩和に学ぶ制度の変え方、先取りの仕方‐

1)巨大調剤センターに町の薬局が飲み込まれる?

6月は今後の政府の方針を占う重要な政府文書が多く出されますが、その中で重要な文書を3点あげるとすると、骨太の方針、成長戦略、そして今回取り上げる規制改革実施計画です。

この規制改革実施計画、骨太の方針や成長戦略との大きな違いは、既にある規制を廃止、変更することに特化している点です。

例えば成長戦略は日本の経済成長に資する政策全般を取り扱っているため、規制だけでなく、予算、税制を活用した経済政策についても取り扱いますが、規制改革実施計画はあくまで規制を変えることで、日本経済活性化していくことを目指しています。

さて、6月に公表された規制改革実施計画の中で、薬局規制も取り上げられています。

薬局の調剤(ここでは薬の調製やとりそろえの意味で使っています)は、処方箋を受け取った薬局が最初から最後まで実施する、ということが現在のルールですが、そのルールを変えて、調剤の一部を外部機関に委託できるようにしよう、という提案です。

これは調剤の外部委託というしくみで、多くの医薬品をそろえた調剤センターが調剤業務を行い、服薬指導は薬局の薬剤師が行うという薬局間の分業モデルとして、アメリカやヨーロッパのいくつかの国では広く使われています。

アメリカの調剤のうち30%以上がこの調剤の外部委託のスキームで行われていることが厚労省のWGでも報告されています(※)。
2022年3月31日 第3回薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ 資料2-3

薬の調剤料も薬局の重要な収入源の一部なわけですから、制度の内容如何では薬局の経営に大きな影響を与えます。

EC大手のAmazonが町の書店の元気をすっかりなくしてしまったように、町の薬局も顧客を巨大な調剤センターに奪われてしまうのではないかと、戦々恐々としている薬局経営者も多いでしょう。

この調剤の外部委託、本当に実現されるのでしょうか。そして実現されるとしたらどのような形で実現されるのでしょうか。実は政策の立案プロセスをよく追ってみると、どのような結論に至るのか、そしてどのような制度設計になるのかが既に見えてきています。

今回は、この調剤の外部委託をめぐる議論を用いて、規制改革実施計画の議論の流れや議論に影響を与える人々を理解していきたいと思います。公表資料から規制改革の道筋をどのように見通す方法について、詳しく書いていますので、きっと他の規制改革テーマにも応用できる内容となっているはずです。

2) 調剤の外部委託はここ数年の政策の大きな流れ

調剤の外部委託の議論は、薬剤師の対人業務の充実のため、といわれています。

これは、処方箋どおり薬を作る仕事などから、在宅訪問での服薬状況のチェックや、薬の飲み合わせ、医者とのコミュニケーション、丁寧な患者への服薬アドバイスなどへ仕事の中心をシフトするという考え方で、2015年頃から厚労省が推進しているものです。

西川が法改正を担当した2019年の改正薬機法で は、その考え方にしたがい、薬を渡した後にも、必要なら患者に対してアドバイスをする義務や病院との情報共有に努める義務など、薬剤師に対人的な業務の強化を促す制度改正が行いました。

2022年の調剤報酬改定でも対人業務部分を重点的に評価する仕組みとなっています。

今回の調剤の外部委託は、調剤(薬の調製やとりそろえ)にかかる時間を効率化し、その分、薬の飲み方や適正使用へのアドバイスの質を高めよう、という考え方で提案されています。つまり、対物→対人業務への大きな流れの一環ということがいえるのです。

(執筆:西川貴清 監修:千正康裕)

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