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第95回:【事例満載】社会課題の対策事業に、自治体と民間企業が上手にタッグを組むポイント

1. マンホールのふたの維持管理を、ゲームで楽しむ


突然ですが、マンホールのふたについて考えてみます。

自治体にある何百ものマンホールのふた。ふだんは気にも留めていませんが、ガタついていたり破損していたりしていたら大変です。自転車がそこで事故を起こしたり、歩行者が下水道に落ちたりしたら深刻な事態になります。それを防ぐために、毎日市内中を、ふたを確認するだけに巡回する専門職員を配置する必要がありそうです。

でも一方で、実際問題、マンホールのふたはとても頑丈にできています。破損が起きるのは非常にまれなことです。そのためにかかる人件費や管理コストは、ある意味で「ムダ」と言えるものかもしれません。
安全とコスト、難しい問題です。なんとかアイデアと技術の力で、解決できないでしょうか?

とてもユニークな事例があります。

愛知県岡崎市では、2022年に、下水事業が始まっておよそ100年になることを記念して「#マンホール聖戦in岡崎」という2日間のイベントを開催しました。
参加者は、市内にあるマンホールを探して、「TEKKON」というアプリを利用し、そのふたの写真をできるだけ多く撮影することにチャレンジします。たくさん撮影できた参加者には、商品券や地元のグッズ・食品などの商品が出されました。
 (参考)マンホール聖戦 in 岡崎

なぜこんなことをしたのか。TEKKONでは、ふたの写真を位置情報と共にデータとして集計します。行政側はそれを見ることで、わざわざ職員を派遣してチェックする手間を省けます。またTEKKONには別に、アプリの利用者が他人の撮影した写真を見て、何らかの不具合が起きているか「レビュー」する仕組みもあります(公式HPによれば、こうした活動に対して報酬も設定されていようです)。

楽しんで市民が撮影した写真を、市民がレビューしてくれる。こうすることで、行政側の管理コストは減りますし、市民側は楽しみながら景品ももらえます。双方にとってメリットのある企画といえます。

2.なぜ、行政の業務に、民間企業の技術やアイデアが必要なのか


千正組では官と民での政策作りのサポートに力を入れています。質の高い政策作りのためには、官民の連携がより重要になってきていると考えているからです。

その理由の一つが、「公務員の人手不足」です。
みなさんご存知のように、世界でもまれに見る少子高齢化および人口減少が進む日本では、社会課題は複雑化し、増え続けています。しかし、それに対応する公務員の人では足りていません。

国の予算は増加傾向(平成22年の当初予算は約92兆円で令和5年当初予算は約114兆円であり、ほぼ10%増(歳出ベースだと40%増))ですが、国家公務員の定員はほぼ横ばいの状況です。また地方公務員の総数も令和に入って、少し増加がみられますが、平成8年をピークに平成30年ごろまでは減少の一途でした。
 
 財務省:財政に関する資料
 内閣官房:国の行政機関の定員の推移
 総務省:地方公務員数の状況

予算(歳出)が増えると、人手も余計にかかります。単純に事務作業が増えますし、お金の配分や国と地方の役割分担など、考えたり、実施したりしなければいけないことがたくさん生まれるからです。仕事は増えるのに人手は増えないので、いま国でも自治体でも、公務員は「孫の手も借りたい」状況になっています。

そこでいま、従来は自治体など「官」の領域とされてきた課題への対応に、民間のNPOや企業などの力が注目されています。

例えば、虐待リスクのあるこどもを守る仕事は、主に児童相談所の職員(公務員)の仕事です。近年児童相談所への虐待相談件数は増加の一途にあり、10年前の2倍以上となっています。
 (参考)令和4年度 児童相談所における児童虐待相談対応件数(速報値)

そんななかで、こども家庭庁では、こども食堂やこども宅食などを行う民間団体と行政が連携して、食事の提供や学習支援を通じた子どものみまもりを行う事業を実施しています。
 (参考)こども家庭庁 令和5年度予算 

行政だけで、すべての行政需要を把握し対応することは現実的ではありません。また、支援が必要なのに「役所の人がきた」と構えてしまう人も少なからずいます。行政は後方支援に回り、住民活動の後押しをした方がうまくいくこともあります。

また冒頭ご紹介した事例のように、AIやICT、データ利活用など日々アップデートがされる分野の民間の知恵を活用した方がよりよい課題解決につながることもあるのです。

3.官民連携の成功を阻む、互いの「強み」のミスマッチ


こう見てくると、いわゆる「官民連携」ってどんどん進めたほうがよさそうに思えますが、現場ではそれほどうまくいっていません。官と民、それぞれに理解が不十分なところがあるからです。

「官」すなわち役所側の人たちは、「予算」「規制」「税制」「表彰」といった政策ツールや効果的な組み合わせに精通しています。一方で、民間サイドのだれがどんなサービスを持っていて、どんな活動をしているのかといったことには詳しくありません。企業や団体ごとの強みが何かといったことや、交渉する余地がどこにあるのか、といったことについても詳しくないのです。

一方で、民間サイドの人たちは、役所の人たちが詳しくないことはよく知っていますが、基本的な政策ツールの違いや政策実現までのプロセス、また役所内の意思決定構造といったことに関する知見が不足しています。

それぞれの強みがカチッとはまれば、最強のタッグを組めます。
でもそこがうまくいかないと、せっかく官(役所)が予算を確保して、民間の技術やノウハウを活用した政策作りを実施しよう!と思っていたのに、「思っていたものと違った」という消化不良が生まれます。
そこで技術などを提供しようとした民間企業側からしても、上手に使ってもらえなくてモヤモヤしたり、二転三転する要望に応えることに疲弊して「もう二度と行政の仕事にはかかわりたくない」と思ったりしかねません。

千正組では、役所や民間企業・団体の双方と深くかかわりながら、よりよいパートナーシップ構築づくりのお手伝いをしています。

今回の記事では、実際に官民の連携事業が実現した事例をご紹介しつつ、連携が成功した要因や、特に民間サイドの視点から連携を実現するまでのポイントについて解説します。

(執筆:西川貴清 監修:千正康裕)


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