見出し画像

『シホ……シホ……』【短編】

「間違い電話?」
『ああ、うん。多分……おばあちゃんが孫に……って感じだったと思う』
「なんてよったん?」

シホ……
 シホ……
  ……字ぃ
   届いとるかいの……

『こっちが返事したら、慌てて切ってた』
「ふーん。なんか気になるね」
『うん。まあでも、ご飯食べよっか』


あれから一週間。
日常を繰り返しながら時に、あの声が頭の中に響いた。あの短い言葉に、様々な事情を汲み取ったからだ。
『字』とは何なのか。手紙だろうか。メールだろうか。
何故それは届かなかったのか。電話が通じないからそうしたのか。他に『シホ』に連絡する人はいないのか。

『そもそも……』
「ん?」
『今どき間違い電話って……する?』
「ああ、おばあちゃんの話ね。どうかなぁ。スマホとか持ってなかったらするかもね」

私はコーヒーをちびちび飲みながら、TVの画面の奥に意識を向けていた。

「……気になるなら、やれば?」
『……わかった!』

意図がスグに伝わるのはありがたい。そのまま勝手口から外に出て、煙草に火をつけた。



『……もしもし。あのー、何と説明したらよいか。怪しい者ではないんです。えっと、この間、間違い電話をもらった者なんですけど――』

私は『シホ』という人物と貴方が連絡を取れたか。それが気になって仕方ないと素直に言った。

どうやら、まだ叶っていないようだ。ならば……

『もしよろしければ、私にお手伝いをさせて下さい……はい、わかりました。住所は――』

調べると車で一時間程度走れば着く所だった。私は伴侶にお土産は何がいいかと聞き、すぐさま向かった。



『ごめんください』
ヨタヨタと、腰の大きく曲がったお婆さんが出てきた。印象としては、どこにでも居る普通の人。私は電話の件の……と伝え、敷居を跨いだ。
『シホ』さんは、県外の大学に通っているらしい。しかし半年前から、連絡が取れていないと。

『お孫さんの住所は?』

知ってはいる……が、お婆さんは理由をつらつらと述べ始める。この腰では容易に行けない、嫌われしまったかもしれない、もしかしたら、事故に……

『嫌われる……の心当たりは?』

彼女はただ、伏目がちに首を横に振った。伴侶の手前、あまり時間をかけるワケにはいかない。
了承を得、車に同伴してもらい、その住所へ向かった。落ち窪んだ眼窩は、静かに流れゆく景色を見ていた。



アパートは不在だった。
お婆さんに車で待ってて下さいと伝え、私ひとり、『シホ』さんに思いを馳せる。一体……このふたりの間に何があったのか。ただの好奇心でここまで来た私は自嘲した。
アパート下に停めた車を見ると、彼女は何度も誰かに電話をかけていた。なんだ、持っているんじゃないか。

――夕刻、ひとりの女性が通路に現れた。年齢的に……いや、彼女は真っ直ぐこちらに向かってきた。
『まっ――』

言葉は届かず、そそくさと鍵を開け扉の奥に消えていった。私はお婆さんに伝え、並んで扉の前に立ち、インターホンを押した。

シホ……シホ……
 元気かいねぇ……
  メール見たかい……?
   ばあちゃん……悲しいよ……

「はぁ❓」

不幸なるお婆さんよ。私はたまらず声をあげた。

『シホさん。私は勝手ながら、このお婆さんの頼みでふたりを引き合わせた。細かい事情は知らないけど、顔ぐらい見せたって――』

「おばあちゃんは三年前に亡くなりました。それじゃ――あとシホなんて知らない」

通話が切れ、どういう事かとお婆さんに目を向けると、彼女は既にアパートの階段を降りながら誰かに電話をしていた。

シホ……
 シホ……
  ばあちゃんだよ……
   どうして連絡くれないの……





【付録】
夢を見たんです。寝てる方の。
その夢の中で私は間違い電話を受け取り、『シホ……シホ……』と冒頭の言葉を聞きました。すごく切実な声色でした。
次の場面では、ババァがtiktokに投稿した加工バリバリの『誕生日おめでとう動画』的なモノを見せられ、目が覚めました。

それをもとに、この短編を眠たい目の中書きました。
中身はないです。考察の余地もないです。あは。
なんでババァはシホの住所を知ってんだろうな?
想像が膨らむぜ(アホ)



雨つよいけ、あらじる飲みぃね

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?