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おと ぶんれつ【短編】

 激しく回転するグラインダー同士がぶつかり合い、身を捻りたくなる火花が飛び交う。あらゆる明滅が自身を脅かし思わず両耳を塞ぐ。どれだけ頭を振ってもそのイメージは拭われず、次第に諦念が心を埋め尽くし過ぎ去るのを待つ姿勢へ。

 ――音が徐々に戻ってきた。ああ、そうだ。私の部屋だ。ない、なかった。大きな音も恐ろしい火花も。ひとりだった。部屋の中にひとり……ではない? 自明だよ語りかけてるもん。でも点滅して消えかかってるから、境目が曖昧で、当たり前だよ。確認しなきゃね……叩く、叩けているから、これは床。垂直に私を取り囲んでいるから壁が、壁がちゃんとある――に、覆い被さっているから天井。生活に? そう、生活に必要な様々なモノたち、小物。私が映し出されているのは問題なくテレビで、少しイヤだけど、映るのは仕方ない。

 それで、今階段を降りているのはお腹が空いているから。大抵は用意されている、なかったら、また登って戻って、しばらくしたらまた降りるの。そのうちね? 不安……なんだろうか、色々な――が押し寄せて、息をするのを忘れてしまいますから、意識をして大きく息を吸います。吐いていると安心の、感覚が充満していきます。ゴハンはなかった。テーブルを力いっぱい叩いても、なかった。手が痛い。ぼんやりとその手の痺れを感じながら階段を登っていると階段が長かった。

 不思議……ではないよ。さっきまであった同様の距離感覚が失われて不必要に長くても、私の観念がそうさせているだけだから、実際に、20段ありますので、もっかい最初から数え直せば確実な答えが得られます。うん、ゴハンはなかった――で、そうそう、階段の段数の正確さが今は大切なのだった。その前に練習しよう。これが結構難しいの。空間のない空間を想像する想像だよ……暗い、黒い、から、暗くて黒い空間がある……のを、なくすには……ダメか。今日もダメ。
 ふぅ、ため息。はぁぁ、これもため息。息してる実感と外界の音の動きが生活実感を成り立たせた。大丈夫大丈夫、世界は単一だからどこにも行かないよ。私はひとり、たったひとり。

 けど時々、とか、いつもかな? 考える。私は貰われた子なのではないだろうか。記憶の欠落がそう導いてくる。それにゴハンがないので、やっぱり大切にされていないのかなって。食べていって、綺麗になったお皿を、私はティッシュで綺麗に拭きます。簡単になると思うからです。お母さんの役に立てる。きっとお母さんは、深い、難しい、罪があると思うので、手に力が入らないと思うので、手伝えたらなって。でも今は、ゴハンがないのでどれもできません。

A=a  A=B?  A===A
――音が徐々にもどってきた――?

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