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平沢進のインタラクティブ・ライブ・ショウ「ZCON」参戦記

 平沢進という音楽家の事は知れども、そのライブが「インタラクティブ・ライブ」というストーリー仕立ての観客参加型マルチメディア・コンサートとは露知らず。幸運にも誘われたので、2022/3/26(土) に参戦してきました。

 入場前に、近くのショッピングモールで腹ごしらえ。館内はZCONの音楽が流れ、それを聞き入る黒い服の大量のファン(通称、馬の骨)達。かなり不穏なショッピングモールになっていました。

 8000人が入る大きな東京ガーデンシアターの一番後の席で少し心配でしたが、それほど見にくいということもなく。舞台奥にあるスクリーンの上の部分が欠けているかな、くらい。左右にもスクリーンがあったのであまり問題なし。

 オープニングでは、そのスクリーンに不思議な言葉と不思議な世界の説明の映像が流れます。ナレーションはもちろん平沢氏。

ストーリー:
2つのタイムライン。そして過去と現在をつなぐ亀裂。優生学的支配を作り出すZCONと脳内に発生する概念の石ZCONITE。20年前から現在を覗く男は、自分の未来を賭けテンプレと呼ばれる分裂症的姉妹をZCONの支配から解放しようとする。平行世界に住む天候技師、そして改訂評議会の助けを得てついに現実改訂の奇妙な仕事が始まる。

 詳しくは特設サイトで。
 特に驚いたのは、次の一節。

ZCONとは人を「Z」つまり「人たる所以」の終焉状態に導き、そこに留めておくための装置です。

 二月下旬にロシアの戦車に書かれていて問題になったばかりの「Z」を、いまこのライブのクリエイティブに持ってくるの、凄い。

 在宅オーディエンスの人達は天候技師となり、正しいHAPRA次元数を設定することで、常識の改訂のチャンスを得られます。会場からはHAPRA次元数をどう設定していたのかは全く分かりませんでした。

 会場の人達は改訂評議会員になり、植え付けられた常識を別の言葉に変えます。これは、拍手での投票でした。設問は3つあり、例えばその一つは以下のようなもの。

改訂前:歴史は繰り返す。それはヒト科成長の限界と堕落の宿命にまつわるエピソードである。

選択肢L:歴史は繰り返す。それは歴史作家の想像力の枯渇と大衆の鈍化エピソードである。

選択肢R:歴史は作られている。それは矛盾を好まない大衆の先入観に依拠した詐欺的創作物である。

 どちらが正解なのか、ヒントはありません。なので、ファン達は別の回のライブ情報を元に事前に考察して臨んでいます。ゲーム性としては、死に覚えのソーシャルなレイドバトルですね。

 CGも少しチープだし、派手な舞台装置もない。ゲーム性も素朴。しかしそれでもこのライブがとても美しかったのは、平沢進さんの音楽とその概念が美しく、それを参加者の脳内で見せていたからに思います。

 物語を進めて来た姉妹、ルビイとシトリンがデュンク・アンの旋律を成立させ、でも実はそれは保護者を破壊するための怒りの旋律で、そのサックスとソプラノから始まるのは「アシュラ・クロック」。これは最新アルバムZCONの中の曲ではなく、しかも作曲者が元旦に亡くなられたばかりの曲です。メチャクチャに格好良かった。

 自分が参加した千秋楽ライブで初めてTRUE ENDにたどり付いたらしく、会場が達成感で溢れていました。

 あまりに素晴らしい大団円だったので、まるで最初からこのライブのストーリーを思い浮かべてアルバムを作ったかのような錯覚を覚えましたが、多分それはCDだろうがライブだろうが、平沢さんのアウトプットにブレが無いということなのでしょう。

 ライブ内で駆使した表現手段を数えれば確かにマルチメディアと言えますが、そもそも全部を横断・融合した概念を根本に感じます。門の形のレザーハープも、突拍子もない豊かな歌詞も、独特な美しい旋律も、全部が同じところを指し示しています。その独自性、先進性、それが彼の氏を「師匠」と呼んでしまう所以に違いありません。 

 ところで、ライブを振り返るために色々調べていたんですが、今は本当に動画の時代なんですね。ライブレポも動画だし、曲の解説も動画。

 このご時世、オンラインとオフラインのハイブリッドをやろうとしている人はたくさん居ますが、そのはるか前からインタラクティブライブという形で実現していた師匠。

 そして時代に合わせて育っていく馬の骨。

 自分の作品に使用した今敏氏も三浦 建太郎氏も故人となってしまいましたが、これからもクリエイターの先を行くクリエイター、アーティストアーティストとして、平沢進は在り続けるのでしょう。

 ライブ中、アンバニ達に向けて(そして明らかに観客に向けて)こう諭すシーンがあります。
 「あなたは途轍もない存在であることを思い出すべきだ」

 平沢さんの豊かな語彙で言われると痺れますね。今回のライブは、一生覚えていそうだと思える美しさ、感動が在りました。

 嗚呼、行けて良かった。

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