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キロギー

同級生の友人の父のお通夜に行った。
前日に参加している中学から旧友LINEグループに連絡が入った。
まあ通常はこのようなことがない限り機能しないLINEグループで、最近は飲み会などの予定などの知らせよりも、 I からの同級生や先輩後輩の親などの死の知らせが多い。
わたしは I の事を「葬祭奉行」と呼んでいるが、それは自分の中だけにしている。
葬祭奉行は、言葉の仕様に少々うるさい。
うるさい、といっても何か直接的に指摘する訳ではない。
例えば今回のLINEだと、その時iPhoneを眺めていたわたしはラインの着信後すぐにそのメッセージを開き、お通夜の場所と時間を知らせるメッセージを読み
「了解しました、明日お通夜に行きます」
と送った。しばらくしてから
「参列ですね、了解しました」
と I からメッセージが来る。
それを皮切りに他の同級生から
「了解、俺も明日参列します」
「わたしも明日、参列します」
などとメッセージが入ってくる。
あー。
I はわたしの「行きます」に引っ掛かったのか、と気付く。

 わたしには珍しいことだが、お通夜が開始される18時の20分前には席に着いていた。
 この会場に入る前、駐車場に車を停めて入口まで歩いていく間に会場に入っていく数人の弔問客はみんなマスクを着用していたので少し気になったが、もう時期が時期なのでわたしはそのまま歩いた。
 入口に立っていた女の係員に
「なんかみんなマスクしてますね」
とわたしは聞いた。
「いや、でももうあれですからねぇ、みなさんご自分の判断でやってらっしゃいますよ」
係員が言うので
「そうですよね」
と言ってわたしは会場に入った。
 記帳をし、席の半分ほどが埋まった会場の最後列、左端にわたしは座った。座っている人たちを一通り、それから新たに入ってきた5人ほどの弔問客。全員がマスクをしていた。
 わたしは立ち上がって会場の出口に向かった。さっきマスクの事を聞いた係員が、もう始まるのにどうした、といった様な表情でわたしを見つめてきたので
「やっぱり皆さんマスクしてらっしゃいますね」
とわたしが言うと
「うーん、やっぱり気になるんでしょうねぇー」
などと少しうろたえていた。
「車にマスクあるんでちょっと取ってきます」
「いえいえ、マスクだったらありますのでちょっと待ってください」
と受付の裏にある部屋からマスクを出してきた。
 マスクをして再び席に着いた。わたしから最前列に座った友人の後ろ姿が見えていた。友人と祭壇に置かれたの友人の父親の遺影写真を交互に見ていた。ここで故人のご長男より皆様にご挨拶があります、という言葉が聞こえてわたしは朧げから引き戻された。わたしが見ていた友人が立ち上がった。友人は次男で二つ上の兄がいたはずだった。長男が死ぬか再起不能になったりしたら次男が長男に繰り上がる、そのような法律があったか、などとわたしは考えたが分からなかった。本日は、と挨拶を始めた男は友人ではなくその二つ上の兄だった。わたしは驚いて再び最前列に友人の姿を探したが、それらしき人物は見当たらなかった。気になり、ちらっと眼を移した祭壇の遺影がわたしの父に変わっていた。

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