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⭐︎11月第3週、最も多く読まれた記事の一つに選ばれました⭐︎「2軒目の歯医者さんが素晴らし過ぎて、自分の仕事を見直した話」への現役歯科医師の感想

twitterでこの記事を知りました。


歯科医療関係者の間で、さまざまなやり取りがなされておりましたので、
気になる方はtwitterをご覧いただければと思います。

今回は、私の雑感を申し上げたく、筆をとりました。

(さとう氏へ:もしこの記事がご不満でしたら、ご連絡いただければ幸いです)


招かれざる患者?

冒頭、さとう氏はこう記しています。

先日、歯が痛くなり2つの歯医者さんにお世話になりました。
自分が求めていたのは「最新設備」「ネット予約」「内装が綺麗」「土日診療」
よりも「とにかく今すぐ痛む歯を何とかして欲しい」だったんです。
なるべく早く痛みが解決されるなら、その他の優先順位は低いんですよね。
(さとう氏noteより抜粋、太字は著者による編集、以下同じ)

「とにかく今すぐ痛む歯を何とかして欲しい」

このフレーズ、歯科医院側としては正直歓迎できません。

というのも、経験的に(自院のデータですが)「当日に飛び込みで」
「痛いのですぐに診察してほしい」「痛いところだけ何とかしてほしい」という方は、健康意識が低く、予約時間を守らなかったり、キャンセルが多かったり、と、その後の歯科医院運営に支障をきたすばかりでなく、
他の既存の患者さんの診療機会を奪ってしまうことが多いからです。
(さとう氏がそうだ、とは言っていません。)

既存の患者さん(常連さん)と新規の患者さん(一見さん)、
どちらかのニーズにしか応えられない時、どうするかは言うまでもありません。

これまで取引実績のあるお得意先(信頼関係あり)と新規の会社(未知数)、
と言い換えるとお分かりいただけるでしょうか?

ちなみに、歯科医院側として一番歓迎するのは、
「この度引っ越して来たのですが、これまで他の歯科医院で受けていたケアを、
こちらでも引き続きお願いしたい」という患者さんです。


2人の歯科医師の応対の違い(おもて面)

さとう氏は、それぞれの歯科医師の応対の違いを、
とても分かりやすく表現してくれています(見習いたい!)。

まずは1軒目の歯科医院の歯科医師の応対を見てみましょう。

「あー、これはボロボロですねw」

この時点で「ん?」と思いました。
実際痛いですし、それはそうなんですけど、、

続いては2軒目の歯科医院の歯科医師の応対です。

「この歯ですね。痛かったでしょう。もう大丈夫ですからね」

この言葉に、非常に安堵感を覚えました。
小さく感動した、といってもいいかもしれません。

この差は大きいですね、実に大きいです。
同じ歯科医療関係者として、身につまされるエピソードでした。

ここまでは歯科医療関係者ではない、一般の方と感想はほぼ同じでしょうから、
深くは申し上げません。

しかし、それ以外の部分を読むと、さらに言えば”行間”を読むと、
歯科医療従事者には違う風景が見えてくるのです。


2人の歯科医師の応対の違い(ウラ面)

1軒目の歯科医師とのやりとりを見てみましょう。

「痛む歯なんですけど、時間ある時にまたいらして下さい。とりあえず、
今日は診察のみです。
親知らずの抜歯で治療に1時間ぐらいかかると思うんで」
「本当に痛くて、土日のどっちか何時でもいいんで空いてたりしますかね?」
「明日はさすがに無理ですよwうち土日めっちゃ混むんでwすぐ埋まるし」
「そうなんですね。。」

この歯科医師は、歯科医師である前に社会人として問題がありそうです…。
「社会に出た」経験が乏しい医療人にはありがちです…。

そこは置いておいて、「とりあえず、今日は診察のみです。」とあります。
この意味、実際のところどうなのか分かりませんが、前述した通り、
他の既存の患者さんの診療機会を優先したのかもしれません。

「じゃあ初めから予約を受けるなよ!」というご意見もあろうかと思います。
しかし、診察や検査をしてからでないと、治療方針を立てることはできません。
診察や検査をした結果、今日は出来ない、という判断を下したことは、
驚くことではありません。


続いて、2軒目の歯科医師とのやりとりを見てみましょう。

「他にも何個かこのままだと痛みそうな歯がありますが、一旦痛む歯だけ治療する形でよろしいですか?」
「はい」
〜(中略)〜

「今回は痛む歯のみの治療とのことで、次回予約はお取りしませんので」
「ありがとうございました」

非常にスムーズ。歯の痛みも消えました。

1軒目の歯科医師は1時間かかると言ったのに、
2軒目の歯科医師は20分で治療を終えたわけですから、
1軒目の歯科医師が別日で診療すると言ったことに不信感を抱くのももっともです(さとう氏はこの点には言及していません。この文章を読んでいる方が、
という意味です)。
この点は、2軒目の歯科医師の診療能力が高いためかもしれません。

注目すべきはそこではなく、受付でなされたという以下のセリフです。
「今回は痛む歯のみの治療とのことで、次回予約はお取りしませんので」

あー、なるほどね…


さとう氏は、”やさしく”フラれた!?

さとう氏は”一見さん”です。
しかも、「とにかく今すぐ痛む歯を何とかして欲しい」患者さんです。
そして、どうやらその歯科医院は繁盛しているようです。

すっっっっっっっっっごく意地悪な言い方をします。さとう氏ごめん。

2軒目の歯科医師は、さとう氏を「招かれざる患者」と判断したのだと思います。

繁盛しているのに、わざわざ歯科医院運営の妨げになったり、
既存の患者さんに迷惑をかける可能性がある”一見さん”(さとう氏がそうだとは
言ってない)に、
限りあるリソースを投入することは正しい経営判断とは言えません。

かと言って紹介をしてくれた、既存の患者である さとう氏の奥様の手前、
無下に断ることもできません。

そこで、「痛みを取りたい」というニーズを「真摯な態度で」満たし、
本人の意思を尊重する形で受診を終了させたのではないでしょうか。

我々歯科医療従事者が驚いたのは、つぎの文章です。

こんなに素敵な歯医者さんがあるのか!
ホントに驚きました。

「招かれざる患者」だと思っていることをおくびにも態度に出さず、
最後にこんな感想まで持たせてしまうとは、、、

小規模事業者である歯科医院は、風評に対する防御能が低く、
なかなか口コミには気を使うものです。
その意味で、非常にマネジメント能力に長けた歯科医師であると思いました。

たぶん2軒目の歯科医師(さとう氏曰く、40代中盤の男性)は、
これまで数々の女性を泣かせることなく
”やさしく”振ってきたプレイボーイなのでしょう(きっとそうだ)。

まあ、ウラ面〜ここまでは私の妄想ですから話半分でお願いします(ここへ来て)


歯科医師が本当に伝えたいことと、プロフェッショナリズム

さとう氏が伝えたかったことが、歯科医院の運営方法にあるのではなく、
「顧客のニーズに応える」
「顧客に真摯に向き合う」
という点にあることは重々承知をしております。

また、そのことが、歯科医療現場や、他のビジネス現場においても大切である、
というご指摘はまさにその通りだと感じます。

その意味で1件目の歯科医師は両方とも出来ておらず、
加えて社会人としての素養にも問題がありそうですから、評価するに値しません。

さいごのまとめで、さとう氏はこう述べています。

・顧客は「痛み」を解決したい≒最新知識、蘊蓄を知りたいわけではない
→解決策は痛みが取り除かれるならば、王道,古くてもOK。
ただ、原因特定の上、課題が別に存在するケースもあるかと思います。
その場合、解決策の方針は顧客へ説明し、納得の上実施する必要があるんじゃないでしょうか。

まさに、ここなんです。

なぜ痛くなったのか、その原因が「歯」にあるのだから「歯の治療」をするのが解決策だ、とさとう氏はお考えのようですが、実は違うんです。

原因は、「プラーク」すなわち口の中の「細菌」です。

この細菌の数を可及的に少なくすること(=プラークコントロール)が不十分だと、むし歯や歯周病にかかり、歯が痛くなるのです。

プラーク(原因)→   むし歯(結果)→   痛み(症状)

もう一度言います。原因は「プラーク」です。


歯科医師法の冒頭に、こう書いてあります。

歯科医師法
第一章 総則
第一条 歯科医師は、歯科医療及び保健指導を掌ることによつて、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。

我々の仕事は、国民の歯の痛みに対処するにとどまらず、
歯磨きやフロス、歯間ブラシ、フッ素活用の推奨などを通し、
国民の健康を獲得・維持することにあるのです。

一見、2件目の歯科医師は、顧客のニーズを満たし、真摯に向き合い、
さとう氏の信頼を獲得した素晴らしい歯科医師に見えます。
経営判断としても最適解なのかもしれません。

しかし、本当にそれでいいのでしょうか??

星野リゾートの星野佳路氏は、「おもてなし」についてこう述べています。

親切と気遣いはおもてなしではない。
茶の湯の世界を通して千利休が教えてくれたのは、
おもてなしとは顧客の期待に応えることだけではなく、
顧客に気づいてもらいたい、伝えたいメッセージ
しっかりと伝えることが本当の意味でのおもてなしである。

自分は分かっている、でも顧客は分かっていないところにこそ真の価値があり、
それを伝えることの大切さを説いています。

これを歯科医療に置き換えてみます。

歯科医療とは、患者のニーズに応えることだけではなく、
患者に気づいてもらいたい
歯や口の健康の価値、それを維持する方法(=プラークコントロール)など、
伝えたいメッセージをしっかりと伝えることが本当の意味での歯科医療である

これが私たちの、少なくとも私の、歯科医療人としての矜持です。

わたしはこれを、さとう氏や、noteを読んでいるみなさんに伝えたくて、
ここまで書いてきました。


でもこのセリフ、ちょっと上から目線に感じますよね笑

でもね、そうじゃないんです。

「先生」という言葉がありますが、これは「先に生まれた」のでも
ましてや「先ず(まず)生きている」のでもなく、
「一歩”先”の科学の世界を生きている」ことを意味しているんです。

私たちには、健康に関する知識があります。
そして、みんなを健康にすることができる技術があります。

一歩先にいるからこそ、できることがあるんです。

でもそれが、みんなに伝わっていないのが現状です。
そのことが、さとう氏の記事にはとてもよく現れています。

でも、これはさとう氏が悪いわけではありません。決して悪くありません。

そう、歯科医療従事者の問題です。


医療情報の発信の難しさ

医療には古くから、とある問題が存在します。
”情報の非対称性”です。

”情報の対称性”とはもともと経済用語です。
市場経済成立の一要件ですが、売る側と買う側の情報量(知識)が
同等に近ければ近いほど、フェアな取引ができます。

しかし、医療はその複雑さ、難解さから、
医療者と患者の間の”情報の非対称さ”がとっても大きく、
簡単に患者さんを騙して金を捲き上げることができます。
(私はしてませんよ)

その最たる例が「ガンは放置しろ、の近藤誠」であり、
最近話題になった「血液クレンジング」です。


そこで真面目な医療人は、何とかして目の前の患者さんに正確な情報を伝え、
知識を得てもらおうとします。

今回さとう氏の記事に出てきた2人の歯科医師は、どうだったでしょう?
正確な情報を伝えようと、真の価値を伝えようとしていたでしょうか?

2人とも時間の都合上、初回は痛みへの対応に注力し、
2回目以降受診したら話をするつもりだったかもしれません。


でも私が今回深刻に感じたのは、そこではないのです。

SNSをはじめとして、情報が溢れているのにも関わらず、星野氏の言うような、
患者に気づいてもらいたい、伝えたいメッセージをしっかりと伝えること
が、出来ていないことに危機感を覚えます。

医療情報は難しく、理解するのに時間がかかります。
真面目に伝えようとすればするほど、
医療者・患者双方に努力と忍耐が必要になります。

そのギャップにつけこみ、分かりやすい説明と、偽のやさしさ、
あるいは見た目の”きれいさ”で患者を洗脳するのは簡単です。

なぜなら情報が非対称だから。

その非対称を解決する方法は、どこにあるのでしょうか。

これからの歯科医療従事者の、大きな課題かもしれません。

まとめ

ここまで読んでいただきありがとうございました。

さとう氏の洗練された文章と比べて、とても読みにくかったと思います。

伝える技術、欲しいですわ…


みなさん誰でも、最初は”一見さん”です。

でも、さとう氏の言う通り、信頼関係を構築するようにしてみてください。

きっとあなたにぴったりな歯科医院、歯科医師とめぐり合うことが
できると思います。


歯を磨いて寝ましょう。

ありがとうございました。

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