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『#岩田さん 』がつないでくれた瞬間

不思議な本だ。
読み始めたとき、そう思いました。

本の語り手である岩田さんは、2015年に亡くなっています。
その彼が、「高校生のとき、まだパソコンということばもないような時代に、わたしは…」と語り始める。最初、ぼくはそれがどうにも不思議でした。

今はもういない人の言葉が、まるで生きているように流れている。
「この人はもう、この世にいないのだよな…?」と首をひねるような気分で読み進めました。それくらい、「そこにいる」かのような感じがしました。

そして、最初に感じた違和感が徐々に薄れるころ、『岩田さん』という本に引き込まれている自分がいました。

任天堂の社長だった岩田さんのことは、断片的に知っているつもりでした。ほぼ日のコンテンツや『社長に訊く』のいくつかの記事は読んだことがあります。
ただ、下の名前が岩田聡(さとる)さんだということを知りませんでした。それくらいの距離感でした。

それが本を読むうちに、自分が岩田さんのことを意外と知っていることに気づきました。そして、断片的に知っているつもりだった言葉の背景や姿勢といった、岩田さんの厚みを知ることができました。その魅力を知りました。いなくなってしまった後も、その人の言葉を語りたくなる気持ちが少しわかったような気がしました。


そして、ふと思い出しました。

ぼくが高校3年のときに担任だった世界史の先生は、生徒にものまねをされるタイプの先生でした。生徒の気持ちを考え、必死に寄り添おうとする、とても情熱的で誠実でユニークな先生でした。ずんぐりした見た目で、お世辞にもハンサムとは言えないのですが、いつも教壇の隣に立ち、40人の生徒に向かって身を乗り出すように語ってくれました。クラスの全員が、彼を信頼していました。

卒業後の同窓会などで集まると、先生の行動や印象的なセリフをまねしながらお酒を飲みました。前のめりに語るその姿勢や言葉をなぞるとき、彼の存在と、同じ教室で過ごしたぼくらの時間を一瞬で思い出すことができました。先生の気持ちや、言葉に込められていた想いを、歳を重ねて改めて知ることができました。笑いがあるから、照れることなく最後には「いい先生だった」と本音を話せました。


岩田さんの本には、同じような「あの時間」が詰まっています。

仕事のこと、仲間のこと、アイデアのこと、ゲームのこと…岩田さんは多くのことを本の中から語ってくれました。
その場にいなかったぼくですら、本を通じて岩田さんや糸井さんたちと同じ時間を過ごしたかのように感じています。話したことがないのに、「信頼できる人だ」とわかります。

なぜか?
答えは、岩田さんの言葉を借ります。

おもしろいゲームというのは、
遊ばずに観ているだけでもおもしろい。


岩田さんと遊んだことがない人も、観てるだけで楽しめる本です。
#岩田さんでも、その雰囲気は味わえます。

『岩田さん』は、そんな本です。

こんな本に出会えて、本当に良かった。
ありがとうございました。

(本のスリップまで岩田さん。ほぼ日のサイトでは、なんと動くのです。)

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