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20200327(金)築18年3階1K3.1万(告知あり)

カランカラン

「いらっしゃいませ」

「あのう、部屋を探しに来たのですが」

「はい。こちらにお掛けになってください」

「ご来店は初めてでしょうか?」

「はい」

「ご予約は」

「していないです」

「承知いたしました、では初めてのご来店ですね。

「申し遅れました、私担当させて頂きます不動と申します」

「は、はい」

「粗茶ですが」カチャ

「あ、はい」

「今回はどういった物件をお探しに」

「あ、えっと、僕が〇〇に就職するので、近辺にアパートを」

「ご予算のほどは」

「月5万円以内で…」

「はい。そのほかに何かご希望はございますか?」

「あう、できれば築浅がいいんですけど」

「何年ほどで? 」

「基準が分からないので適当なんですけど、えっと築10年くらい? 」

「ふむ、そうですと5万円以内での物件は厳しくなりますね」

「ある程度新築で、○○の近辺でしたら、こういった物件がございますが」

-築15年 1階 1R 総額5.5万

-築12年 1階 1K 総額5.0万(即入居可)

-築18年 3階 1K 総額3.1万(告知あり)

(3.1万円…! )

「こちらの物件は一応告知させていただく事項がございまして」

「瑕疵物件? 」

「まぁ病死ですね、大したことはございません」

「はぁ」(大したことないんだ)

(大したことないなら格安じゃないか…? )

(人が死んだだけでこれだけ割引してくれるのか。これは中々・・・)

「あの、一応3件とも資料だけください」

「かしこまりました」

……

「こちら資料になります」

「あ、どうも」

「ところでご入居の方はいつ頃を予定されて? 」

「来月いっぱいまでには入りたいかなって」

「ふむ。えっとですね」

「この時期ですと退去される方は3月末日を予定される方が多いんですね」

「で、新しい方をお迎えするための清掃に1週間ほどね、お時間を頂きますので」

「ご入居の方は早くでも4月中旬ほどになってしまいますが、それでも?」

「あ、大丈夫です」(早く入りたいんだけどなあ、始業までゆっくりしたいし)

「あ、そういえば」

-築12年 1階 1K 5.0万(即入居可)

「この物件はすぐに入れるんですか? 」

「さようでございます」

「ですが、3月末日のご入居ですと3月分の家賃が発生することになります」

「えっそれは5万円が? 」

「いえ、日割りでの精算となります」

「ただ、共益費等は全額での支払いとなってしまいます」

「そうですか…」(共益費5000円、ナントカ費4000円、駐車場代4000円…)

「共益費とか駐車場代はどこもこんなもんなんですか? 」

「そうですね。この地域ですとこのくらいが相場になります」

「他には、2年に1回更新料として2万円が、△△費として数千円が必要になりますね」

「そ、そうですか」(そういうもんか? )

「う、うう~ん」

「今決めていただかなくても結構ですよ」

「この時期は入居されるお客様と同じくらい、退去なされる方もいらっしゃいます」

「先ほども申しました通り、退去される方の退去日は大体3月末日となっておりますのでね」

「4月になればまた新しい物件などもご紹介できると思います」

「あ、そうですか…」(早く決めたいんだけど…)

「ではあの、すこし、考えます」

「はい。またのご来店をお待ちしております」

カランカラン

「…」

なんもわからん。

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大学を卒業して春から働くことになるので部屋を探し始めた。

僕は今まで自宅以外の場所で夜を明かした経験が数える程しかなく、それゆえに一人暮らしには強い憧れを抱いていたので、大学2,3年の頃はあてもなくSUUMOでいずれ住むであろうアパートの物件を物色したり、部屋に置く家電を吟味したりしていた。(どこに住むかも決まってないのにね)

そういうわけで、やっと念願の一人暮らしが間近に迫り、さて現実的に物件をさがしたり家電を買いそろえたりできるぞという状況に身を置かれるとこれが何故か、かなりだるい。

「旅は行くまでが一番楽しい」とはよく聞く常套句だけど、「行く」というのに準備は含まれないんだろうなとしみじみ思う。

パリに行ってエッフェル塔をみたり、アイスランドで雄大な自然に囲まれたり、頭身よりも大きいヤギの羽毛に頭を突っ込むぞ!とか。今はこんなだけどいつか仕事を辞めて漫画をTwitterにアップしたらそれがバズって映画化にとか。

具体性が無い思案に耽っている状態が一番楽しく、それは無責任で無計画だからで、ともすればそれは夢うつつに見る幻想と違いはないじゃないかと分かる。大学2年の夏休みに物色していた物件、家電、将来の甘い計画は全部机上の空論で、いつの間にか現実に飲み込まれて泡沫の夢に消えてしまった…。

ただSUUMOの操作だけは完璧に覚えていたので不動産訪問の後日、ネットで調べてピッタリな物件を検索、問い合わせまでスムーズに進めることができ、不動産屋が提示した物件は全くのぼったくりだということもわかった。

夢現もあんがい悪くない。

ちなみに、瑕疵物件の大半は長期間放置された孤独死であり、腐臭が部屋の壁にまで浸透していて悪臭が酷いらしい。

言えよ!

ノートパソコンが欲しいです。500円ください