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小説 開運三浪生活 16/88「白日中学」

文生は中学生になった。村には小学校も中学校もひとつずつしかないので、生徒の顔ぶれはまったく一緒である。小学校との大きな違いと言えば、何かしらの部活に入らなければいけないことと、定期テストの成績上位者三十人の氏名が毎回デカデカと廊下に貼り出されることだった。

五月。初めての中間テストに、文生は充実した緊張感をもって臨んだ。中学の授業は、大嫌いな体育以外はどれも面白かった。いきなりトップとは行かなくても、そこそこの位置にはつけるんじゃないか――。密かに自信があった。

仮に三十位以内にすら入らなかった場合、文生に反感を抱いてきた同級生たちがここぞとばかりにこきおろしてくるのは目に見えていた。彼らを黙らせるためにも、できれば十位以内に入っておきたかった。

中間テストの結果が貼り出された。文生は学年百五十人中、三位だった。

――これなら、そこまでバカにされねえだろう。

ざわついたのは周囲の人間である。

「おい、フミオ三位だってよ」

廊下を歩くと、生徒たちがそうささやくのが文生の耳に入ってきた。

この結果は他の学年の生徒も知るところとなり、その親や祖父母にも伝わり、中学生がいないはずの家庭にもなぜか知れわたった。二ヶ月後の期末テストで文生は二位につけ、二学期の中間テストでついに学年トップに躍り出た。入学以来コンスタントにトップ3に名を連ねる文生に、教師も注目するようになっていった。

英語の授業でのことだった。直前に受けたテストで、文生は一問落とし九十五点だった。今日はその問題について重点的に解説すると言う。ベテランの女性英語教師は、生徒たちにこう言い放った。

「フミオですら解けない問題、他のヤツが解けるわけない!」

一瞬、教室がシンとなった。文生は思わず下を向いた。いくつもの視線が自分に注がれるのがわかった。

「先生、フミオのこと、えこひいきしてね?」

真っ当な指摘を投げかけたのは、中学でも同じクラスになったタツヒコだった。さすがにこの時ばかりは文生も内心同意見だったが、せっかく優等生扱いしてくれるのでだんまりを決め込んでいた。果たして、教師はタツヒコの発言を受け付けず、くだんの問題を解説し始めたのだった。


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