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絶神のエデュシエーター

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昏き夜宵を照らす月。 月明かりに自惚れる石と蔦に埋もれる遺跡の奥で、少年は少女に出会う。 神達の蠢く渦、最果ての楽園。 百年に一度争うという十二の闘神。 数多の災禍と狂宴を生んだ… もっと読む
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絶神のエデュシエーター

◆あらすじ◆ 昏き夜宵を照らす月。 月明かりに自惚れ、石と蔦に埋もれる遺跡の奥で、少年は少女に出会う。 神達の蠢く渦、最果ての楽園。 百年に一度争うという十二の闘神。 数多の災禍と狂宴を生んだともがら達の舞台はここに。 その最後にして例外なる十三目の闘神・絶対なる風は今、彼女と共に生きるために戦う—— (イメージビジュアル付き。タイトルクリックで表示)

絶神のエデュシエーター 序章

 山がひしゃげ、散った。  虚空を獣のあぎとの如く尖らせて、破砕が宙を舞う。  人が見上げるにはあまりにも大きすぎる、災禍の顕れであった。  その災禍の中心に、それを起こしたとは思い難い、純白の華奢な少女の姿が浮いていた。 「————……」 「ここまでとはな」  少女に言葉はなく、獣のような殺気を発するのみ。  言葉を発したのは少女と対峙する、一人の老練なる翁——賢者であった。  賢者の周囲には幾多もの紋様の円陣が浮かび上がり、翁を中心にそれぞれが空転している。 「だ

絶神のエデュシエーター 絶対なる風 1

「うわっ、と!?」  叫び声が上がった。  声を上げたのは、黒いインナーと、左にもたれた厚い布地服を羽織った黄緑髪の少年。  軽快な足取りで遺跡を歩いていた少年は、道中の蔦の罠にかかりかけたのだった。  その身をもたげかけられたのをなんとか脱すると、その次にはまたも罠。  木槍が左右から次々と生い茂る通路を必死に抜けると、ようやく少年は一息をついた 。 「ぜぇぜぇ…畜生…あの爺…」  機神迷宮(テウアーズ・ミステリー)。  機神テウアーという存在がもたらしたという文明によ

絶神のエデュシエーター 絶対なる風 2

 フラヌ街。  大迷宮プルートより北方。  迷宮開放による町おこしを生業とする街の一店にて。 「だっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!」  その大きな笑い声は響いた。 「だから、本当だってば!」 「いや、本当だとしても笑い話だろ!あひゃひゃひゃひゃひゃ!」  ゲイルはとある女性と会話していた。  『おめかし屋』ブリオーン。  その店主である女傑アギルタ。  右目の眼帯に、豊満な胸が特徴的な装飾好き。  彼女は今にも杯を煽りそうなほどのテンションで大笑いを

絶神のエデュシエーター 絶対なる風 3

「イドゥン神自慢のかき氷、いかがだい?」 「きんきんするー!」 「ははは、一度に食べすぎるとそうなるんだ」  飴雲を食べた後、なし崩しに屋台を回ることになったゲイルとルナは、必然的に食べ歩きを敢行していた。  かき氷とは氷を細かくスライスしてシロップをかけたものであり、一度に食べるとキーンと強い頭痛を発する。  初めて食べる人には強い刺激で同じみの氷菓子だ。  イドゥン神自慢とされているのは、由来となる水のことからからだろう。  イドゥンは治水の神で、闘神の一人とされてい

絶神のエデュシエーター 絶対なる風 4

 闘神——エデュシエーター。  勝利によって栄光をもたらすという絶対の戦士。  他者を圧倒する力を持ち、誰よりも神術に長けるとされた存在。  その一柱が—— 『ひれ伏せ——愚かなる者共よ!』  数十分前まで活気と人混みに包まれていたフラヌ街は、支配と恐怖による阿鼻叫喚に包まれた。  力神アルマ。  絶対なる戦士の一柱の降臨。 「アルマ……力の神か…!」  十二の神術のうち、力術を治めるという闘神。  闘神が人型であるとはにわかにも定められていなかったが、まさか

絶神のエデュシエーター 絶対なる風 5

「生きてたのかい、お前ら」 「アギルタさん!」  廃墟とかしたフラヌ街。  街を出ようとさまよっていたゲイルとルナは、枝を口に咥えていたアギルタに出会った。  どうやら、アギルタもまだこの街から出ていってはいなかったらしい。 「そっちこそ、生きてたの!?」 「おっ死ぬタマじゃないからねぇ、私は。しかし面食らったよ」  右髪を掻きながら、暗雲を見上げ呟く。 「今回のは詩人達が触れ回ってたものでもない。完全な不意打ちだった。タイフーンみたいなもんさ。災害への備えができてな

絶神のエデュシエーター 絶対なる風 6

「闘神の座を、受け継いだ…?」 「そうだ。魂の鼓動が違っている…つまり、死者が蘇生するなどという奇跡は、これしか無い」  大賢者ユグドルは語る。 「これについては、まずそこのルナについても語らねばなるまい。儂が知っている要素は、彼女が“闘神”に並ぶ力をかつて持ち、そして暴走していたということだけだ。しかし、その力が失われた百年後の今にルナが目覚め…ぬしがゲイルを蘇生させた」 「そうなの?」 「そうだ。これは闘神の持つ一度きりの契約…『継承』にあたる。百年後に器でなくなった

絶神のエデュシエーター 絶対なる風 7

 最初の模擬戦から数時間後。  ゲイルは一度も勝機をユグドル相手から掴みきれずにいた。  力では力術に得手の有るゲイルが上回るものの、それを圧倒的なまでの技術で覆される。  アウトレンジになればユグドルは得意の神術の乱打。  その動きに隙は存在せず、長時間の苦戦を強いられていた。 「やっぱ強いな爺ちゃん…!」 「当たり前だ。誰がぬしを鍛えたと思っている」  強い。  アルマドラゴンにこそ死という大敗を決したゲイルであるが、その実力は身の丈を大きく上回る相手ですら圧倒でき

絶神のエデュシエーター 絶対なる風 8

 恐ろしきかな 恐ろしきかな  赤炎の魔よ 酌(くん)死の如何  是非を握りて 暴れし巨躯よ  狂わしきかな 狂わしきかな  赤の瞳よ 嵐の羽吹よ  あけの大地を 踏みにじるものよ  恐ろしきかな 狂わしきかな  力の魔神 絶対の王  力術の王 アルマの竜よ  ——詩人の語りし力竜、その詩節  ◆ 「さすが詩人。仕事が早いってもんだよ」  世界樹を下って三日。  世界樹は大陸の中心に有るだけあり、近くに通じている河川なども川下にたどることができる。  帰りの途に馬

絶神のエデュシエーター 絶対なる風 9

 そうして、朝まで尋問が続くまでもなく、 「アルマ上層部騎士には、七将軍という方々が居てっすね——」 「各地にこの割合で自分を含めて斥候をっすね——」 「現在のアルマドラゴンの潜伏予測地はここと、ここと、ここと——」 「で、大軍を派遣する予定でいるらしくって——」  大体の情報を、斥候・オルカ・クラインは吐き出していた。 「何やってんだい、こいつは」 「すっごいぺらぺらしゃべるねー」 「俺に言われても…というか忠誠心うっすいな君!」 「だって命には替えられないっす

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