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大学入試と入学後の成績の関係

近年大学ではIR (Institutional Research)と呼ばれる教育活動を含む調査分析が行われています。それもあって成績に寄与する要因は何かということがそれなりに大きな規模のデータとしても出てきています。そのうち誰もが一度は思う「入試方式」や「入試の成績」との相関性についてもデータはあり,私もツイートで言及したこともあるんですが,きちんとまとめていないので備忘録としてまとめておきます。

入試方式はGPAとほとんど関係ない

出典 東京理科大学教育開発センター (2014)「活動報告書」

東京理科大学の資料p.58から「GPAによる成績評価に影響を及ぼす要因について解析」と題した分析が行われている。GPAとはGrade Point Averageの略で成績に単位数をかけたものをGPと呼び,それを平均化したものである。東京理科大学のGPAは4点満点で,10種類の入試方式と卒業時のGPAを比較しているが,顕著な差は見られなかったと結論づけている。以下に報告書の表3をグラフ化したものを示す(エラーバーは標準偏差)。

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それでは卒業時のGPAには何が関与するのか。東京理科大学の分析では最も相関性が高かったのは1年次の成績だったという。相関係数は0.92だったので強い相関があるといってよい。

出典 武方 壮一 (2017)「入試成績とGPA の相関についての解析」『教育・学生支援センター紀要』1, pp.1-16

別の大学のデータも見てみよう。武方 (2017)は宮崎大学の2011年度入学者が2014年度に卒業するまでの成績を分析している。入試得点は総合点とセンター試験の得点を用いている。武方(2017)によると入試得点とGPAの相関性について一貫した傾向は見られなかったという。その一方で1年次のGPAは卒業時のGPAと正の相関が見られる,すなわち東京理科大学での事例を再認したという。一例として,武方(2017)の図24(工学部の成績下位15%グループのデータ)を再掲する。

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これを見て分かるとおり,1年次の順位が下位のものがセンター試験でも下位であるとは限らず,1年次で下位になると卒業時のGPAも下位になっている。

AO入試でも一般入試と成績差は見られない

出典 池田 文人 (2009)「入試区分による入学後の学業成績の優劣の検証」『大学入試研究ジャーナル』19, pp.95-99.

池田(2009)では北海道大学におけるAO入試と一般入試の成績を比較しているが,分散分析を行ったところ学部内で入試方式によるGPAに有意差は見られなかったという。同論文の表1をグラフにしたものを以下に示す。

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推薦の方式によっては一般入試と成績差が見られそう

出典 神林 博史 (2011)「入試方法と学業成績--東北学院大学2009年度卒業生データの分析」『東北学院大学教育研究所報告集 』11, pp.33-41

神林 (2011)は東北学院大学の2009年度卒業生の学年ごとの成績データを上位・中位・下位に3分類し,それを一般入試,学業推薦,AO推薦,TG推薦(内部進学),スポーツ推薦に分けて分布を見ている。その結果,TG推薦,スポーツ推薦において下位層が多くなるという結果を示している。以下に神林の図1〜4を1つにまとめた図を掲載する。

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科目を限定しても入試との関係はあまりなさそう

出典 内田 順文 (2016)「国士舘大学文学部地理・環境専攻における入試成績と入学後の成績との関連」『国士舘人文学』48, pp.67-91

内田 (2016)は2008年度から2015年度入学生における「人文地理概説A・B」という科目の得点と入試方式,入試得点との関係について分析している。入試方式についてはAO入試,推薦等入試,外国人入試,前期入試,中後期入試,C方式入試の6つを取り上げている。これによると,「人文地理概説A」の成績について外国人入試入学者の得点が低いこと,欠席者を欠損値ではなく0点と換算した場合に推薦等入試入学者の得点が高いという結果を示している。以下に内田(2016)の表3の一部から作図したものを示す。

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内田 (2016)はさらに同科目の得点と入試得点・入試順位の相関についての言及している。それによると,いずれの科目も入試得点・入試順位と相関性の検定での有意差は認められるが,相関性は非常に弱い。内田 (2016)の表5より欠席者を0点換算した得点と入試結果の関係に限定して相関係数を抜粋すると,人文地理概説Aと入試得点が0.107,入試順位が-0.114,人文地理概説Bと入試得点が0.068,入試順位が-0.061である。

たまに入試方式で違いが見られることもある

出典 佐藤 純,萬代 望,岩井 浩一 (2018)「入試区分と入学後の成績との関連についての一考察 : 医療系地方公立大学の例」『大学入試研究ジャーナル』28, pp.47-52

佐藤ら(2018)は茨城県立医療大学における入試区分(一般前期,一般後期,推薦)と各学年のGPAの関係を学科ごとに分析している。その結果,特定の学科の特定の学年に限定して有意差が見られたという。全体としてみるならば他の大学と同様に影響は小さいものと考えて差し支えないだろう。以下に佐藤ら(2018)の図2から図5をまとめて示す。

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入試の科目の得点と入学後のGPAはあまり関係ない

出典 赤木 充宏,日比野 至,肥田 朋子,平野 孝行 (2011)「名古屋学院大学人間健康学部リハビリテーション学科における学業成績の調査 : 入試区分の違いによる検討」『名古屋学院大学論集 人文・自然科学篇 』47(2), pp.73-81

赤木ら(2011)は名古屋学院大学人間健康学部リハビリテーション学科に2006から2009年に入学した335名の成績データと入試方式や入試得点の関係について分析している。それによると,1年終了次の成績と入試方式の間に差はほとんど見られない。なお,指定校推薦の成績が後期入試より高く,学部共通科目における指定校推薦と後期入試についてのみ有意差が見られるという。下に赤木ら(2011)の表2から作成した図を示す。

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赤木ら(2011)は推薦と一般の入試における項目別の得点とGPAの相関性についても報告している。ここでは1年終了時についてのみ注目しよう。相関係数は0.044から0.323で相関はほとんどないか,弱い相関である。図は赤木ら(2011)の表3から表6をもとに作成しているが,有意差のあるものはポイントをオレンジにしている。

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このように,入試の科目や項目別の得点とGPAにはあまり強い相関性は見られない。特に東京理科大学での事例(1年次GPAと卒業時GPA)と比較するとこれはよく分かるだろう。

まとめ

入試と入学後の成績についていろいろなケースを見てきたが,全体を通して言えることは,入試方式と入学後の成績にはあまり関係がないということ(ただし内部進学やスポーツ推薦については要注意)である。入試の得点についても同様である。

大学では推薦入学者を対象とした入学前教育を盛んに行っている。しかし,入試区分が入学後の成績と関係があまり見られないのだとしたら,果たしてそこにどのような意味があるのだろうか(入学前教育が効果あったんだという結論もあり得るけど)。むしろ,1年次の成績が卒業時まで影響することから考えると,入学直後に「大学の勉強」というものに対応できるような配慮が必要なことを物語っているように思われる。

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まつーらとしお

日本語の方言を対象にした音声の研究をすることが多いです/近著『長崎方言からみた語音調の構造』

コメント1件

大学のGPAは当然大学のテストを元に算出されると思うのですが、大学の授業のテストは性質としては学校の定期考査に近く、実際の能力を測れているかという点ではかなり疑問だと思います。 テストに特化した勉強をしているかがかなり点数に効いてくると思うので
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