翻訳記事:今のサウジとかつて中国リーグ爆買いの違い

Cロナウドに続いて、ベンゼマ、カンテ、クリバリ・・
サウジアラビア(以下サウジ)のクラブの有名選手獲得が続き、かつての中国リーグの「爆買い」と比較する向きもあるが
金額規模的にも、本質的にも今のサウジとかつての中国は異なる。
それを具体的に説明した記事を見つけたので翻訳

元記事

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23年初にクリスティアーノ・ロナウドがアルナスル加入後、わずか半年の間にベンゼマ、カンテなどがサウジ行きを発表。チェルシー所属のカンテ、ジイェク、クリバリ、エドゥアルド・メンディが短期間のうちにサウジ行きを発表または確定している。

クリスティアーノ・ロナウド

“サウジがXXX選手に、1億ユーロの年俸!”、“多くのスター選手にサウジからオファー”,既に2023年夏の移籍市場の主旋律になっている。
 サウジの札束攻勢は多くのサッカー関係者の注目を浴びる。
UEFA(欧州サッカー連盟)主席は「サウジは厳重な過ちを犯していると思う。まずアカデミーに投資、指導者を引き入れ、自分たちの選手を育てるべき。か彼らのようにプロキャリア末期の選手を獲得するのはサッカーの発展のためにならず、中国がかつて犯したのと同じ過ちを犯している。」
 だが今回のサウジとかつての中国は、主導者が異なる

・広州恒大

 中国サッカー界のバブル(金元足球)には様々な定義があるが、広く認識されるのは2011-2019年、特に15-18年が最も過激だった。
(注:2011年=恒大グループが広州に出資し1部昇格即優勝した年。)

広州恒大(現広州FC) 2015年頃

 如何なる方面から見ても行きつくキーワードは:広州恒大である。
2010年、バレーボールで成功した許家印(Xu Jiayin/恒大グループ創始者)は、サッカー界に進出。(注:許は09年女子バレーボールチームに出資していた) 鄭智(ZhengZhi)郜林(GaolLin)冯潇霆(FengXiaoting)らが広州恒大へ、更にムリキ(Muriqui)でコンカ(DarioConca)らも獲得し、昇格即優勝を達成。
 当時、恒大のボーナスや、罰金等処分はそのたびに注目された。 2010年以降広州恒大は30名以上の中国代表クラスの選手を獲得。ピークの12-13年、中国代表は常時スタメン中7-8人が恒大所属だった。
 だが実際には、恒大が2度ACL優勝した頃(注:2013.15年)中超リーグで移籍金1000万ユーロを超えたのは3人だけだった。恒大が獲得したリカルド・グラール(Ricardo Goulart)アラン(Alan)、そして山東のヴァグネル・ラヴ(VagnerLove)だ。例えばムリキ、コンカ、エウケソン(Elkeson/現在は中国人艾克森)らの移籍金は1000万ユーロに達せず。当時中国リーグでは上海申花にいたドログバ(DidierDrogba)アネルカ(NicolasAnelka)の存在と、コンカの年俸700万ドルが注目された。当時レアルマドリードが中国遠征した際、コンカの同胞ディ・アリア(AngelDiMaria)イグアイン(GonzaloHiguain)がコンカの年俸を聞いてびっくりしたエピソードがある。
2010-2015年の中国リーグのバブルは、あくまで中国内でのバブルであり全世界の注目を浴びるほどではなかった。

ドログバ(左)給与未払で半年で退団。アネルカ(右)監督代行したりかき回したが1年で退団

・政策の影響

 事実中国サッカーのバブルを絶頂にしたのは、政策による所が大きい。
 2014年2月、中国国務院(注:内閣に相当)は「スポーツ関連産業と消費の発展を加速させること」に関する第46号文件を発表。この文書から高速の発展を遂げる。
 2015年3月《中国足球改革総体方案》が世に出る、その中でサッカーの発展を社会経済発展の1部に組み込み、「FIFAワールドカップ開催、男子代表の競争力向上、世界的強豪国への仲間入り」が長期的目標とされた。

・不動産バブル

 2010年~2020年、中国全土の不動産売上額は1兆人民元→17兆人民元(現在のレートで約340兆円)と爆増、不動産業は黄金期を迎え、これが中国サッカーの「バブル」をもたらした。恒大のACL制覇等による影響力に加え、政策の後押しもあり不動産デベロッパーがサッカー界に参入を開始した。
 緑地(上海申花に参入)華夏(河北)万達(大連、アトレティコマドリード、FIFAワールドカップのスポンサー等)佳兆業(深圳)中赫(北京国安)などの不動産デベロッパーがサッカーに進出。他業種でも上港グループ(SIPG,上海海港に差出資)15年には大手電機・蘇寧(Suning)が江蘇の引き取り、中国リーグは実質「不動産デベロッパーリーグ」と化した。

16年、江蘇蘇寧に加入したティシェイラ。チェルシー・リバプールなどとの競合を制した

 最も典型的なのは2016年。前年中国リーグ移籍金最高額のリカルド・グラルは1500万ユーロ、それが翌年3倍になった。江蘇蘇寧は5000万ユーロアレックス・ティシェイラ(Alex Teixeira)を獲得、競合したリバプール監督クロップに「中国のオファーと競いようがない」と言わしめた。広州恒大は4200万ユーロでジャクソン・マルチネス(JacksonMartinez)獲得、残念ながらこの獲得は失敗だったが、江蘇蘇寧は更に2800万ユーロでラミレス(Ramirez)、上海上港(現海港)は1850万ユーロでエウケソン(艾克森)、河北華夏幸福は1800万でジェルビーニョ(Gervinho)恒大は1400万でパウリーニョ(Paulinho)上海申花は1300万でグアリン(FreddyGuarin)、など大型移籍が相次いだ。

金洋洋、A代表に1度招集(出場なし)されただけのCB,広州富力→河北への移籍金は1000万ユーロを超えた。

当時の中超、外国人だけでなく金洋洋(JinYangyang)毕津浩(BiJinhao)張鷺(ZhangLu)孫可(SunKe)といった代表に入るかどうかOR控えクラスの中国人選手の移籍金が1000万ユーロを超えた。今思えば800万ユーロのレナト・アウグスト(RenatoAugusto/北京国安)はかなりコスパが良かった。

この2人が中国に来るとはねえ・・

 続いて上海海港は16年夏と17年冬にフッキ(5600万)オスカル(6000万)2人のブラジル代表を獲得し世界を驚かせた。長春亜泰は2330万でイガロ(OdionIghalo)を獲得。中国代表張呈棟(ZhangChendong)が河北加入時の移籍金は2044万に及んだ。他にも天津権健(その後解散)はヴィツェル(AxelWitsel)パト(AlexandrePato)山東のペレ(GrazianoPelle)北京国安のソリアーノ(JonathanSoriano)らはいずれも1500万以上で中国へ。この年だけでも20人の移籍金は1000万ユーロを超えた。
 当時のアーセナル監督アーセン・ヴェンゲルは「中国の待遇は危険な現象だ、中国のオファーが欧州クラブの標準となれば競争できない」と警鐘を鳴らしている。

カルロス・テべス、上海申花で当時世界最高年俸を得たが、ピッチ上では・・

 2017年、全世界のサッカー選手年収トップ10のうち6人が中国リーグに。それぞれラベッシ(EzquielLavezzi/河北)オスカル、フッキ、ジェルビーニョ、ヴィツェル、テべス(CarlosTevez/上海申花)だ。
 天津権健CEOだった束昱辉(注:その後不祥事で収監され、会社も倒産状態に。)は「私がメッシにオファーするのでなく、メッシが私にオファーしてくるのだ」と発言している。

・バブル崩壊

その後もバカンブ、ジョナタンビエラ(北京国安)カラスコ(大連一方)モデスト(天津権健)タリスカ(広州恒大)アルナウトビッチ(上海上港)エルシャーラウィ(上海申花)といった有名選手が中国に来たが、
2019年陳戌源(Chen Xuyuan)が中国サッカー協会主席に就任(注:同氏は元々SIPGグループ会長で上海上港での実績が評価されたとみられる)。
すると給与制限を開始。加え新型コロナウイルス流行の影響で多くのクラブ(というか親会社)の経営難が露見。多くの外国人が去りバブルが終わった。
 本質的には、中国リーグのバブルは中国の不動産発展の縮図だ。いい時はどんどん出資するが、ダメになったら先に切られるのはサッカーだった。

2020年リーグ初優勝の江蘇蘇寧。にも拘らず翌年親会社蘇寧は解散を決定。優勝決定戦がクラブの最終戦となった。にも拘わらず未だにインテルを所有しているのは解せないが・・

 多くの企業とクラブがバブル化を推し進め、市場や政策に迎合し、46号文件などで政策に敏感なデベロッパーたちはチャンスと捉え、恒大の成功を多くの経営者たちが模倣しようとした。即ちサッカーの知名度で企業を宣伝し影響力を高め、サッカー以外の本業に還元することだ。他で儲かればサッカー事業の損益はどうでも良かった、サッカー事業だけで黒字化できる状況でなかったのが、その後の崩壊につながった。

・サウジのやり方は?

 2021年にサウジの公共投資基金PIFがイングランド・ニューカッスル買収し有名になった。PIFの総資産は約5080億ポンド。他にもIIVゴルフトーナメント、ダカールラリーなどに出資。W杯開催を目指すサウジの戦略実現を目指している。

・サウジの目的は

 サウジの投資まず「サウジビジョン2030(Saudi Vision 2030)」を実現するため、スポーツへの投資を通じてサウジの産業を昇格させること。加えてカショギ事件(注:ジャーナリストがサウジ総領事館で殺害されたとされる事件)で損なわれたサウジへのイメージをスポーツで取り戻すこと。
 中国バブルと異なり、サウジは完全に政府と国家が主導しているのだ。PIFはサウジの4クラブ(アルアハリ、アルナスル、アルイテハド、アルヒラル)を買収し株価の75%を所有し私有化を始めた。今のサウジは従来のようにクラブVSクラブの対話でなく、国家ORリーグが話をして待遇などを詰めた後、需要に応じて分配している。

 最近サウジ移籍を決めたベンゼマ、カンテ、クリバリ、ルベンネビス、もうすぐ来るだろうジイェクはいずれもPIF傘下の4クラブに加入する。
 かつでの中国は不動産経済に依存していたのと異なり、サウジの場合は国家主導の石油経済に依存するものだ
 ウクライナ戦争に伴う石油価格の高騰で、サウジ政府は2022年に270億ドルの利益(全GDPの2.6%)を設けた。サウジが10年間で初めて財政黒字を達成した。石油資源さえ枯渇しなければ、サウジのスポーツ投資は続く。その点でかつての中国バブルと安定度は大きな差がある。

カリム・ベンゼマ。現役バロンドールはアルイテハドへ

・サウジと中国 選手獲得の違い

 また選手獲得にあたりサウジと中国で多くの違いがある。
中国は即戦力を求める、知名度は重要だがそれだけでない。例えばオスカル、ティシェイラ、フッキなどは移籍金も高いが実力に疑いもなく、現役ばりばりの年齢で中国にきた。
 一方サウジは、Cロナウド・ベンゼマと同時にバロンドール経験者4人(あとメッシ・モドリッチ)を獲得し影響力を高めようとした。勿論カンテやクリバリもいるが多くが峠を過ぎた選手。ルベンネべスのように若くバリバリの選手は少ない。理由はやはりサウジの計画はサウジリーグの人気アップで、注目や影響力を上げること。だから両国の背景と、目標は異なるのだ。

 冒頭UEFA会長の発言に対して、サウジ人は既に返答をしている。
あるサウジリーグ高官は「我々のリーグは70年代に開始しており、既にサポーターの基礎もある。クラブの伝統は真実であり捏造ではない」
「かつて中国で起きていたことは、彼らの費用は政府の資金でなく企業の金だ。サウジは国家の長期計画の1部であり、より保障されている。サウジのクラブはうまく立ち上がり、今やサッカーはサウジのNo.1スポーツ。リーグには多くの外国人スターがおり、全世界のサポーターの注目を浴びることができる。」

 サウジは既に札束構成を開始している、この流れがどういう結末になるのかは、時間をかけるしかないかもしれない。

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・雑感

 要は「不動産と石油、民間と国家PJの差」。
 石油が枯渇するかは不明だが、少なくとも不動産バブルよりは続くだろう。仮にサウジ政府が方針転換しても、ロナウドベンゼマクラスは獲得できなくとも、以前のレベルでリーグやクラブ経営は保てるだろう。
 

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