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星降る君への手紙【あなたの声で決まる! 月刊アート・プロジェクト企画】

 今月から新企画「月刊アートプロジェクト」を始めました。

 一言で説明すると、皆さんに決めて頂いたお題で私が何かしらの創作をするという企画です!

 記念すべき第一回目のアンケート結果は以下のようになりました。

 テーマは「理由」になりました。

 モチーフは「流星群」です。

 最後に、形式は「手紙」です。戯曲とかにならなくて良かったですね。

 アンケートにご協力くださった皆様、ありがとうございました。

 前置きはここまでといたしまして、以下は「理由」をテーマに「流星群」をモチーフとした「手紙」です。お楽しみいただければ幸いです!


星降る君へ

君の記憶のはしっこに、ぼくはまだいるだろうか。

もう何年前になるだろう。子供の頃、ぼくは夏になると叔母の家に預けられていた。君の住んでいる町さ。

まだ覚えているよ。あれは肌がじりじり焼けるような暑い日で、君はシマシマのワンピースを着て、大きな麦わら帽子が落っこちないように端っこを持ちながら、公園の真ん中をのんびり歩いていた。

ぼくは半そで短パン、サンダルっていう子供らしいかっこうで、さらに水鉄砲を持ってた。ぼくはもちろん君の背中を水鉄砲で撃ったよね。君は「アッ」て声を上げて僕を振り向いて、大きな目で睨んだ。笑いながら逃げる僕を追いかけて来たけど、その途中で麦わら帽子が飛んじゃってさ。君が涙目になるもんだから、二人で探すことになったよね。

でも結局、麦わら帽子は見つからなかったんだっけ。君がしょんぼりしながら帰ってくもんだから、ぼくは悪い気がしてさ。翌日も同じ公園で君をずっと待ってたんだ。暑すぎて熱中症になるかと思ったけど、君はまたやって来た。ぼくがいるのを見て帰ろうとした君の背中を追っかけてさ、水鉄砲を渡して、「これ、やる」って伝えた。不器用にも程があるよね。

君が水鉄砲をしげしげ見ていると思ったら、次の瞬間ぼくの顔はびしょぬれになってたんだ。水鉄砲の引き金を力いっぱい引いた君は、「おかえし」って言って笑ったんだよ。

今だから言うけど、ちょっと見とれた。麦わら帽子がなくても、君は何か大切なもので守られていた。

それからは、二人でよく遊ぶようになったよね。あの公園で待ち合わせするともなく顔を合わせてさ、友達みたいに。毎年君に会うのが待ちきれなかった。何年も、何年も。君と過ごす時間が、他のどんな時間よりも大切だったよ。心から。

でもさ、中学に上がる頃になった頃、父親がロンドン支社に転勤になるっていうから、そっちに着いていくことになって。最後の夏休み、ぼく、君にはなかなか言い出せなかった。君は様子がおかしいぼくに、不思議そうな顔をしていたよね。

でも、夏休みが終わりかけた頃、ついに言ったんだ。君は泣いて、わめいて、完全に臍を曲げた。会ってくれなくなったよね。それでもぼくは毎日、あの公園で君を待ったけど。毎日、二人分のアイスが両方溶けても君は訪れなかった。でも、僕は君の家も知らなかったから。僕にはちょっと君に言えないことがあったから、家を知られたくなかったし。何より、そんなもの知らなくても一緒に居られると思ってたから。君が来てくれなかったら、公園で待ってるしか無かったんだ。

ある雨の日、いつものように待ってたら、ちょうちょ柄の大きな傘を差した君が現れて、やたらいかめしい顔つきで言ったよね。「翔君、明日晴れたら、流星群見に行こう」って。ちょうどペルセウス座流星群が見ごろだっていう時期だったから、ニュースでそれを見て誘ってくれたのかな。でも、流星群が見られるのは夜だから、なんとか布団を抜け出してこっそり家を出ていくしかなかった。ちょっとした冒険みたいでワクワクしたよね。

それでさ、ぼくは次の日の夜、寝たふりをして夜中にこっそり起きた。ドキドキして、ちっとも眠れなかったんだ。君も同じだったのかな。こっそり叔母の家を出て、君と約束した川原に向かった。夜になると街灯と月明りだけに照らされた町が普段とは別世界みたいでさ。誰もいなくて、世界にぼくと君しかいないんじゃないかって錯覚するぐらいだった。

君はもう、川原添いの土手に腰を下ろして、夜空を眺めていたね。黒い髪に月の光が映って、世界中で君だけが、きらきらしていた。

ぼくが横に座ったら、君はそっとぼくの手を握ってくれた。信じられないぐらい柔らかい手だった。それで二人で流星群を見た。想像したように星が降り注ぐようなものではなかったけれど、ゆったりした花火みたいに、いくつかのほしぼしが流れて消えていく。「なんだ、たいしたことないね」と君は言った。ぼくはしっとりした君の手の感触や、間近に感じる息遣いが苦しくて、胸が痛くて、流星群どころか隕石が降ってきても気づかなかっただろう。

君はやがてぼくの肩に頭を乗せて、ぎゅっと強く手を握ったね。そして、「翔君、もう会えないなら、最後に言っておくことないの?」と言ったね。ぼくは、君に……君に言いたい言葉があったけど、君にずっと黙っていたあることが言えなくて、だから、君に本当に伝えたい言葉も、言えなかった。

「言えない」ってぼくが言ったら、君は「どうして?」と聞いたよね。ぼくは、「またいつか、流星群を見ようよ。そうしたら、その時には、理由を話すよ」って。君はちょっと黙ってから、ため息をついて、ぼくからゆっくり離れた。

別れる時、君は「バイバイ」と言った。ぼくも小さくそう返したけど、君に聞こえたかどうかは分からない。君はしっかりした足取りで、もうぼくなんか見えなくなったみたいに、振り返りもせず歩き去ったから。そんな君のこわばった背中を、まだ痛みと共に覚えているよ。

それからどうやって家に帰ったか分からない。結局叔母さんにバレて、こっぴどく怒られたことだけ覚えてる。君は怒られてなかったらいいな。

君とはそれっきり、会えなかった。

でもね、今度の8月、日本に戻るよ。この手紙は叔母にたくすつもりだけれど、君にちゃんと届いたらいいな。

またあの公園で君に会いたいんだ。

もしかしたら、君にはもうとても素敵な恋人がいるかもしれないし、ぼくのことは覚えていないかも知れないし、覚えていても、嫌われたままかもしれないけれど。そんなことはいいんだ。ぼくにとって君は、いつか一緒に見たあの流星群のように、ぼくの人生に降ってくる光だった。ぼくはただ、君に会いたい。そしてもしよかったら、流星群も一緒に見たい。その時こそ、あの時言えなかった言葉を伝えたいんだ。

ここからは今の口調で書くね。

私と会っても、驚かないでほしいの。

子供の頃はどうしても言い出せなかったのだけれど、私は昔のように半そで短パンじゃなくて、スカートやブラウスを着ているし、胸や腰の体型も変わっちゃったから、明らかに、分かっちゃうよね。

いろいろと悩んだ時期もあったけれど、今は私自身の性別を受け入れてる。
実は女の子だってことを、ずっと言い出せなくてごめん。

君が勘違いしてたのは分かってた。だから騙しているみたいで、あの時何も言えなかったの。ごめんね、今となっては私のこと、気持ち悪いって思うかもしれない。でもこの手紙に書いた私の気持ちは嘘じゃない。友達としてでもなんでもいいから、君の人生から私を締め出さないでほしい。

こんな私だけど、また会ってくれたら嬉しい。あの公園で待ってる。

翔子


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