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初めての舞台(小さな記憶)

「道路に出たら危ないさかいにな。
       出たらあきませんで。」

「う..ん...。はい。」

「大人しい子やな。何や皆と遊ぶの嫌か。」

「いや...。......」
(まさか、意地悪されるとは言えんな...)

京都の昔ながらの日本家屋と長い路地。
着物姿を貫く凛とした祖母と孫である少女
の会話が響く。

「お酒を配達してくれはるから、
     来たら言うてな。    ほなな。」

「う...う...ん。 はい。」

祖母の背はお楽しみがある。
それは帯の柄。家事をするに為の着物だから
華やかさは無いが不思議な柄が好きなのだ。

お次の楽しみは戸を閉める音。
ガラガラガラ...ゆっくり閉じる戸の音。

お楽しみ二つを終えてからが本番だ。
京都の長い路地は音が跳ねる。
響く声を楽しみ、いろんなリズムの拍手も楽しい。
参拝の真似で二拍、いつの間にか情熱のカルメンへ変わる。両手が奏でる音の世界。

飽きたと名付けた満足感で立ち上がる。
お次は足の出番である。
靴の音が響く。
自分は歩いているのだと響く。

真っ直ぐに視線を上げると路地の先は明るい日差しが差している。
何度も何度も往復する。

抜き腰、忍び足で戸を開けて靴を物色。
狙うは祖父の下駄と、持ち主知らぬハイヒール。
服の前身頃を伸ばし包む。
落ちたら望まぬ音が鳴りよるから。

まずは下駄からと企むが、なかなかの難易度。
地面に足が糊付けされたかの様に動かん。
ツンツンツンっと前に指で挟むと歩ける。
これ、これ。
この音だ。祖父の格好良い足音だ。

音に満足が気を緩めてしまう。
路地は木の下駄を拾ってしまうから蹴躓く。
ここは何としても下駄を守らねば。
傷を付けたら大変。
両手にレスキューを頼み事無きを得るが
手の平が赤いバーコードとなる。

最後はハイヒール。
これが1番気高い未来の音がする。
何度も往復してみると気分が向上する
感覚になる。気分は皆が振り向く美人さん。

真っ直ぐの路地はファッションショーの
ランナウェイとなる。
ウエディングのバージンロードでも良いな
と夢風船が膨らむ。

「 毎度 おおきに」
配達のおじさんの声でショーは終わる。
初めての舞台のお客様だ。

次回の公演まで磨け。自分。
抜き腰、忍び足で扉を開けて下駄と
ハイヒールを綺麗に戻し扉を締める。
ガラガラガラガラ..
戸の閉まる音がフィナーレを飾る。

             終わり

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