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酔いに任せて告白しちゃえ

思わず告白してしまった。

告白したくなるほど好きになっていないと思っていた。
でも、それはきっと自分の気持ちから目を逸らしていただけだった。

「年下だし」
「もうすぐ卒業して会えなくなるし」
「私と付き合いたいと思っていなそうだし」
「私なんかよりもお似合いの人がいるだろうし」
「前の恋愛が上手くいかなかったし」
「元彼と別れてからまだ半年も経っていないし」
「振られたらバイトで会った時に気まずいし」

好きにならない方がいい言い訳をたくさん並べて、好きにならないようにしていたのかもしれない。

2人で飲みに行った帰り、20時にはお店を追い出されて「時期が悪かったね」なんて話していたら、ほろ酔いの彼に「汚いですけど、それでもいいならうち来てもいいですよ」と言われ、ホイホイとついていったほろ酔いの私。

自分の家ということもあり、かなりリラックスした様子の彼は、いつものポーカーフェイスとは大違いで、ころころと表情を変えて楽しげで、なんとも20歳らしい。

思いがけず新しい一面を発見できて、こうやって2人きりで飲む機会を設けられてよかったと心から思った。
2人で飲むのはこれで最後にしようと思っていたのに、もっと彼を知りたくなって、後ろ髪を引かれる思いがこみ上げた。

コンビニで買ったお酒もなくなって、夜も深まってきた頃。
「自分に自信が持てなくて、自分のことが好きになれない自分が嫌い」
と泣きそうな顔で打ち明けてきた彼を見て、思わず彼を抱きしめたくなった(そんな勇気はなかった)。

抱きしめて、「大丈夫、自分のことが嫌いでも、自分に自信が持てなくても、それでもいいんだよ」と言ってあげたくなった。

彼のことをほっておけないと強く思った。
気づけば私は告白していた。

あまりにも突然すぎる告白に、心底驚いた顔をした後、長い長い沈黙が続いた。
沈黙に耐えかねた私が、「え~これ振られる時の間じゃん」なんておどけた感じで返事を催促したら、一言

「思ってるようなカップルにはなれないと思います」

とだけ彼は言った。
私は酔っていた。普段より完全に気が大きくなっていた。

「それは私の告白を断る理由にはなりません。私といたら絶対に楽しいですよ?」
今思い出しても顔から火が出るくらい恥ずかしい台詞が、その日は口からスラスラと出てきた。その辺も、もちろん酔いのせいにする。

呆れた顔で私を見て少し笑って彼が言った
「じゃあ、断る理由はありません」
で、私たちの交際はスタートした。

お互い酔っていて忘れていたが、私は結局一度も「付き合ってください」とは言わなかった。まあ、言いたいことは伝わっていたようだし、細かいことは気にしちゃいけない。


あれから約半年経ち、私たちは今でも交際を続けている。
彼が最初に言った「思ってるようなカップル」がどのようなものを指していたのかは不明だが、今のところは私が「思っているようなカップル」になっている。
親密になるにつれて彼の新しい一面をたくさん知って、交際当初に比べて私たちの関係性は大きく変化した。
他人に興味がなく、どこか人間味がなさそうに見えた彼は、話しかけるのが苦手なだけのくだらないお喋りが大好きな人で、面倒見の良い温かい人だった。

告白しないと思っていたけど、思わず告白してしまった。
でも、今となってはあの日の自分に感謝しかない。
あの頃の私が見ていた彼は、彼のほんの一部でしかなかったことに気づけたし、遠距離とはいえ本当に楽しい時間を一緒に過ごせている。

相変わらず彼は自分に自信がなく、自分のことを好きではないと言うけれど、以前に比べれば少しだけ自分を認めてくれているように感じる。

少しずつ、大切に、二人で楽しい思い出を作っていきたい。

思わず告白してしまう勢いも、気が大きくなってしまう酔いも、時には必要なのかもしれない。


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