見出し画像

火星に生命はいるのか?

どうもどうも、平日は火星、週末はコーヒーを研究しているShungoです。
noteではコーヒーを中心に書いていたので、今回は本業である火星の話をしてみようと思います!

というのも、先日私の論文がScientific Reports(Nature系の国際学術誌)にて受理&出版されまして、ありがたいことにプレスリリースもさせてもらいました。

テーマがキャッチーなこともあり、たくさんのメディアにも取り上げていただきました。


"火星に生命はいる(いた)のか?"
これは誰もが知りたい問いですよね。そして、私も研究を通して解明した問いです。
そして、この問いの先には、
"私たちはどこから来たのか?"
つまり、生命の起源という壮大なミステリーがあります。
今回の研究は、そこに繋がる第一歩の研究という位置付けですが、これを題材に解説しながら火星における生命について書いてみようと思います。
そして最後に、”火星に生命はいる(いた)のか?”という問いについて考えてみたいと思います。

ちなみにトップ画像の写真はAIに昔の火星の海の中でRNAが生成する画像を作ってと頼んだら出てきました。巨大なRNAが海から誕生しています笑。

生命の材料と太古の火星

私たちはどこから来たのか?

火星の話の前にこの研究の背景を少しだけ。
私の研究の最終目標は、私たちがなぜ存在するのかを知ること、言い換えると生命の起源を解明することです。(壮大だ笑)
果てしないような問いですが、今は世界中の研究者がアストロバイオロジーという複合分野で、それぞれの専門性を掛け合わせて生命誕生の謎に迫ろうとしています。

どうやって研究するの?
と疑問に思いますよね。私も思います。うんうん。
例えば、地球の地上にある化石を調べて生命誕生?に近い(と思われている)時代の環境を復元してみたり、遺伝的に遡って生命の祖先に迫ったり、生命の基本となる分子がどうやって合成されるのか実験したり、、、様々です。

なんで火星?

そんなところで、なんで火星?
今私たちが知っている生命の存在する惑星は地球だけです。当たり前ですが。。。
ただ、地球はプレートテクトニクス(地球がプレートで覆われていて、そのプレートがゆっくりと動いて内部にリサイクルされる、地震のメカニズムでよく見るあれです)があって約40億年以前の化石が残っていないのです。
つまり生命が誕生したかもしれない時代の情報が残っていない可能性が高いということです。

では火星はどうか?
火星はどうやら40億年よりも前の時代の情報も残っているだろうと思われています。(Anderson+2022)
火星では、最近30-40億年間程度はプレートテクトニクスが無かったと考えられています。(それ以前はまだ意見が分かれているところですが)
ともあれ、火星の方が地球よりも生命誕生当時の環境に関する情報を持っている可能性が高いということです。これが火星を調べる一つ目の理由です。

もう一つの理由は、地球外の環境を調べることで、地球の環境と比較できるからです。
例えば、火星で生命の化石が見つからなかったとしましょう。(ただし、無いと証明するのは限りなく難しい)
太古の火星では、液体の水が存在していたのにも関わらず(後で書きますが火星には昔水があったんです)、生命が誕生しなかったことになります。じゃあ火星には何が足りなかったのだろうか。
当時の火星環境と地球の当時の環境を比べると、生命の誕生に必要な要件を絞っていくことができます。
これが、火星を調べる二つ目の理由です。地球外の環境と比較検討することで、生命の誕生に必要な条件を絞っていくことができるのです。

これでなんとなく、火星を調べる意義を分かってもらえたら嬉しいです。

火星ってどんな惑星?

火星と言われても、近くの惑星なんだろうなー、移住できるようになるらしい、イーロンマスクがなんか言ってる、くらいの認識の人が多いと思うので、ざっくりと今の火星の概要を書きますね。

credit: NASA

場所は地球の隣、少し地球より太陽から遠い場所にあります。
サイズは地球の1/8くらい。(月はそのまた1/8くらい)
大気はかなり薄く地球の1/100程度、ほとんどCO2です。

温度は平均-70℃になります。極寒とはいえ、実は昼夜の温度差が激しく、昼は20℃くらいまで上がります。(圧力が低いので液体の水は存在できません)
極冠にはCO2の氷があったりします。

時には砂嵐が起こって火星全球が巻き上げられた砂粒で覆われることもあります。
(話は逸れますが、こいつが火星の環境をややこしくしている犯人です)

太古の火星

credit: NASA

昔の火星は今の火星と違って、今の地球のような海に覆われている温暖な環境であったと考えられています。地面に残っている水が流れた跡や鉱物の分析結果などから、液体の水が存在する時代があったことはほぼ確実であろうと思われている事実です。
そんな温かい環境があったならば、その当時、生命はいたのだろうか?
誰もがそう疑問を抱くわけです。現状、生命の化石のようなものを見つかっておらず、当時生命が存在したかは分かっていません。
そこで、今回の私の研究では、当時の火星で生命が誕生し得る可能性がどれくらいあったのか?という観点で生命の材料となる物質の生成量を見積もってみたわけです。

生命の材料

では生命が誕生する可能性はどうやって調べることができるのか?
正直、生命の起源が分かっていないのだから断定することは不可能です。
とは言っても、私たち生命を構成する要素として必要不可欠な物質がいくつかあります。

まずは、生命が宿る体、形を保つことができる何かが必要ですよね。タンパク質です。そして、そのタンパク質を構成するアミノ酸が必要そうです。

次に、遺伝です。遺伝情報を保存するDNAが生き物として成立させるには必要そうです。実際には体の中でこのDNAがRNAに写し取られて、その設計図に基づいてタンパク質を合成します。ということは、RNAがあれば次の世代に遺伝情報を伝達できそうです。

じゃあ、このRNAは何でできているのか?
RNAは下の画像の左にあるように螺旋の形状になっています。そして、その構成要素をヌクレオチドと言います。名前はどうでもよいのですが、そのヌクレオチドは、リン酸、塩基、リボース(糖)で構成されています。
つまり、RNAを作るとなると、このヌクレオチドを作る必要があり、そのヌクレオチドを作るためには、リン酸、塩基、リボース(糖)が必要というわけです。
これらのRNAの材料物質が昔の火星で存在していたかが分かれば、生命誕生の可能性について言及できそうですよね。(そう思ってください)
それらを一つ一つ調べていく必要があるのですが、まず今回の研究ではリボースに注目しました。

リボース

wikipediaで調べるとこんな画像が出てきました。高校化学を思い出していただくと、炭素が5個くっ付いている輪っかの分子になります。

ribose

このリボースが自然界の中でどうやって作られのか?
代表的な反応で、ホルモース反応と呼ばれるものがあります(名前はどうでもいいので覚えなくてOK)。これはホルムアルデヒドが水の中で重合(分子が一つ二つとくっ付いていく反応)して、リボースができるという反応です。
ホルムアルデヒドは化学式H2COで、水素、炭素、酸素からできています。私たちの身近な例では接着剤や塗料などに使われていて、人間には有害な物質になります。ホルマリン漬けも聞いたことある方も多いかもしれません。これはホルムアルデヒド37%の溶液です。

ひとまず、リボースを作るには、ホルムアルデヒドが必要ということです!

まとめると、

生命の誕生には、RNAが必要 -> RNAを作るにはリボースが必要 -> リボースを作るにはホルムアルデヒドが必要
となります。

ということで、昔の火星でホルムアルデヒドがどれくらい生成するかを見積もることができれば生命の誕生可能性について示唆を与えられそう。
よし、昔の火星でホルムアルデヒドの生成量を調べてみよう〜。

ここまでが背景です!

太古の火星でホルムアルデヒドができたのか?

どうやったらそんなこと調べられるのか?
今回は大気のシミュレーションを使って予測しました。コンピュータで昔の火星の環境を模した空間を作ってみて、実験するわけです。(イメージだけ掴んでもらえればOK!)
なぜ大気に注目するかというと、ホルムアルデヒドは大気中でたくさん生成されるからです。

大気のシミュレーション

noteなので、シミュレーションの詳細は省きますが、ざっくりと以下のイメージです。(分からなくても雰囲気だけ伝われば嬉しい)

  • 40億年前の火星の環境を想定した条件を設定

  • 大気で起こっている化学反応を再現

  • 化学反応によって変化した大気の組成(例えば, CO2: 90% , CO: 5%, H2: 5% )が分かる

  • ホルムアルデヒドもどのくらい作られたか分かる

  • わーい

結果は果たして?

大気中に存在する分子の密度高度分布 (FIgure 2 in Koyama et al. (2024))

結果の一例ですが、上の画像のような結果が得られました。
水色のH2COという輩がホルムアルデヒドです。基準が分からないと思いますが(私も含め誰も生命作るのにどのくらい必要か分からない)、そこそこできてますね。

結果の傾向としては、ホルムアルデヒドの生成には、大気中の水素の量が大事だということが分かりました。
水素が多ければ多いほどアルデヒドちゃんがたくさんできるよ。

糖(リボース)はできるのか?

これでホルムアルデヒド量が分かったので、そこからどのくらいのリボース(上で説明した通りRNAの材料!)ができるのかざっくり見積もりました。

すると、
火星の海全体で、年間40トンのリボースが作られることが分かりました!
響きは多そう!でも海全体!
いやー多いのか少ないのか分からん!
ただ、昔の火星の海で継続的にリボースが生成されることを世界で初めて数値的に推定した非常に意味のある結果です!

まとめると、下のイメージ図になります。
大気でホルムアルデヒドが作られて、それが海の中に溶け込んで、リボースが作られます。

太古の温暖な火星でホルムアルデヒド(H2CO)が大気中で生成され、海の中で生命の材料分子に変換されるプロセスの概念図
©️Shungo Koyama

火星に生命はいる(いた)のか?

じゃあ、火星に生命はいるのか?または過去にいたのか?

それは、まだ分かりません。。。
まあそれはそうよね、分かったら大ニュースですよ、ノーベル賞ですよ。

ただ今回の研究結果は、「昔の火星が生命の誕生に適していたような環境だったこと」を示唆しています。
今後の探査でもっと詳細な環境が明らかになって、生命の化石みたいなものが見つかったら嬉しいなーと思っています。
個人的には、宇宙には惑星は無数にあって、地球のような環境もどこかにたくさん存在するはずなので、宇宙人はどこかに確実にいるとは思っています。それが火星もしくは太陽系内で見つかるかは定かではないですが。笑
生きている内に、「地球の外に生命がいるのか?」を知りたいですね。

これを読んで少しでも火星に想いを馳せてくれたら嬉しいです。
では今回はこのへんで!ではまた!

他のSNSでも火星の研究やコーヒーについて発信しています。
よかったらフォローしてくれると嬉しいです!

Instagram: @coffiego

X(旧ツイッター): @shungocoffee

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?