「プレバト!!」俳句で『月百句』作ってみた【2021年版】(2021/9/30更新)

【はじめに】
この記事は、過去「プレバト!!」で披露された俳句で、『月百句』を作ろうと思いついたものを実現させるものです。

ちなみに『雪百句』とは、夏井いつき先生たちが、「月」の俳句を百句作るという自身の俳句のトレーニングとして(毎年)行っているものです。

※なお、「プレバト!!」で披露された『月』の俳句が100句に満たないため、『月百句』というタイトルと齟齬が生じていますが、気長にお待ち下さい。

(オススメ過去記事)「プレバト!!」の『花百句』&『雪百句』

Part1 月のプレバト!! 名句を味わう

『月』は、『雪月花』に数えられる雪や(桜の)花と違い一年中あります。冬も春も夏も、そして、もちろん秋も。村上名人の真骨頂とも言うべき作品から参りましょう。『春の月』を詠んだ一句です。

<5回目の挑戦、4→3級に昇格>
・春の月消しゴムのカスあたたかし 村上健志

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そして、スーパールーキーとして、初登場から1年で名人昇格を決めた村上さん。同じ月をこのようにウィットに富んだ表現で描いています。

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< 史上最速、名人昇格の一句(添削後) >
・夜を晴れてペリッと剥がせそうな月 村上健志'

まるでシールを剥がすかのような表現。中七下五は変わっていませんので、添削前からこの表現の魅力を高く評価して、夏井先生は史上最速名人を村上さんに認められたのです。

ここまでの2句は何となく秋の夜長に『独り』な感じがしますが、こんなに美しい満月ですから、一緒に居て安心する方と月見をしたいものです。

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祖母の俳句の本を手に研鑽を積み、特待生に昇格を果たし、2021年の春光戦では予選1位通過を果たした「パンサー向井」さんの初登場75点の句です。

< 初登場75点 >
・君の耳ただ満月の照らす音 向井慧

こんなに静かな良夜であるはずなのに、『君の耳』という視覚情報の上五、更に『ただ満月の照らす音』という少々難解ながら詩心に溢れた中七以降。こんな聴覚を研ぎ澄ませた俳句が出来上がるのも、秋の満月の夜ならでは。

芸人さんの句が続きます。藤本名人10段は、その季節ごとに口語の名作を作ってこられました。

< 名人5→6段昇格 >
・大仏の御手から月は生まれます 藤本敏史

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千年の歴史を持つ大仏に対して、この口語を大胆に取り合わせた勝利です。

そして、鎌倉幕府・第3代将軍の源実朝を詠んで、一発名人を目指した林修先生の句。原句は六・八・四の破調でしたが、先生が定型に添削後の形で。

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・実朝のやぐらをぐらし月煌々 林修'

『やぐらをぐらし(小暗し)』という表現、本当に素晴らしいと思います。

そして、2021年の金秋戦を優勝した句も季語「月」が、現代ならではの感性で描かれています。ちなみに上五の「スマホ死す」は若者言葉です。

< 2021金秋戦・タイトル戦初優勝 >
・スマホ死す画面に浮かぶ指紋と月 北山宏光

春の月から始まったこのパート。最後にご紹介するのは、秋を過ぎ『冬』の季節に寒々しく輝く『冬の月』です。『冴(さ)ゆる月』という季語の句。

< 初登場71点 >
・冴ゆる月眠りにつけぬ深夜便 パックン

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Part2 月のさまざまなプレバト!! 俳句を味わう

ここからは、『月』を詠んだ「プレバト!!」俳句(有名人たちの作品)を、数十句いっきに見ていきましょう。

① 春から夏の月

まずは、『春の月』から。秋と温度は殆ど変わらないのですが、大きな違いは湿度でしょうか。唱歌『朧月夜』で良く耳にする『朧月(おぼろづき)』は、春の天文を象徴するかのような雅な季語です。

・遠吠えや家路に遠き朧月 愛華みれ'
・朧月旅の鞄を枕とし   鷲見玲奈'

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『春暁(しゅんぎょう)』とは、春の明け方のこと。原句が思っていることと大きく違って大幅に投げやりな添削となってしまいましたが、この俳句を文字どおり詠むと、案外深いかも知れません。

・春暁の月を横目にドライヤー 片瀬那奈'

(作者のお名前は掲載していますが、それを離れて詠むと、)この作者は、なぜ明け方の月を横目にドライヤーをしているのか。単純に朝シャンなどをして乾かしているだけなら良いが……。と有らぬ妄想も出来てしまいそう。

少し場面設定を変えて、今度は「夏の月」です。

・裏道も尾灯果てなし夏の月 和田アキ子'

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そして、夏から秋へという時期の少し肌寒さを感じを詠んだ句を。

・三日月が冷やかす夜の半袖を 筧利夫'

② 夕方の月

トリンドル玲奈さんの作品には『あいみみ』という若者言葉が入っていて、非常に瑞々しい感性の作品となっています。身長差のある彼を含め愛しい。

・長身の君とあいみみ夕月夜 トリンドル玲奈'

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夕方にふと見上げて『月』を見かけると、何か嬉しかったり心が動きます。

・夕月が囁く妻と帰る道     蛭子能収'
・夕暮れは寂しと月のうさぎかな 木村祐一'

③ 家族と月

地球にとって唯一の衛星である『月』。その成り立ちには幾つか説があり、『兄弟説』なども著名です。ふとそんなことを思う東国原名人の1句から。

・赤ちゃんポストに赤ちゃん動く星月夜 東国原英夫'

子どもは皆どうか愛されて育って欲しい。月にも、家族にも包まれてです。

・満月に包まれ眠るベビーカー 藤本敏史'

地球と月の兄弟説の話しもしましたが、『従兄(いとこ)』を詠んだ一句。

・野球部の従兄は素振り盆の月 村上健志

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「お盆(旧暦7月15日)の月」は、亡き家族を思い起こすかも知れません。

・父母の面影白し月白し    長山藍子'
・花の名を教えし祖父や星月夜 柴田阿弥'

そして愛する2人が生涯を共にする。関係性が変わっても月は変わらずに。

・月光に古塔の影や君想う   吉村涼'
・幾年の月よ今宵の夫婦箸   LiLiCo'
・秋月も負ける輝き我が子の背 戸塚祥太'
・寄りそうて月光をゆく老夫婦 塩地美澄'

④ 日常の中の月

ふと見上げたところに月がある、そんな日常。しかし、そんな日常の中に、こんな鋭い感性をもっていたら、世界は変わって見えることでしょう。

・月光のひとつぶ電波時計ぴくん 藤本敏史'

あまりにも詩的過ぎて、うっとりとしてしまいます。

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同じ音でも全く違って聞こえるのがこちら。『五百円玉』が空き瓶の貯金箱に貯まる音。なんか違った趣きを感じます。

・星月夜空き瓶に五百円ジャリン 馬場典子

大人でも子供でも、夜長を満喫したく熱中する気持ちは分かりますよね。

・読み耽る月夜くうくう腹の虫 田中道子'

子供の気分なら、こんな作品は如何でしょう。月着地が身近だった時代に。

・月着地したるがごとくすすき原 ラサール石井'

時代は移ろって、気づけば“ニュータウン”も、だいぶ寂れてしまいました。

・ニュータウンの剥げたポストや月煌々 横尾渉'

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煌々とした月の夜が過ぎ、朝、真っ白い月が天高き青空にぽっかりと。そんな日常に誰かが走ってきました。トレーニングウェアに身を包んで、そして

・大仏を睨むボクサー朝の月  千原ジュニア'

どうやらボクサーさん。大仏のあるこの参道をランニングコースにしているようです。礼をし大仏を睨んで走っていく。それも彼にとっての日常です。

⑤ 非日常の中の月

日常生活の中のちょっとした非日常。月を印象的に描くと武器になります。

・星月夜オペラ幕間の紅茶の香 髙田万由子'

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なんてオシャレなんでしょう。侘び寂びの概念を他国に持ち寄った時には、きっと廃墟、チムニー(煙突)も、星月夜に美しく見えてくる事でしょう。

・銀色の廃墟星月夜のチムニー 千賀健永'

そして、結果的に金秋戦準優勝となったこの作品。中七下五にある物語は、まさにドラマや映画のワンシーンの様な奥行きを感じます。

・無月なり紙ナプキンの置き手紙 村上健志

そして、『無月』も月の季語と分類しました。『無月』とは、陰暦8月15日(中秋の名月)なのに、雲が広がっていて、せっかくの満月を見ることが出来ない様を表す季語です。

『花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは。』と認めたのは『徒然草』ですが、『月が見えない』ことすら愛でる対象となるのでございます。

⑥ 満月の月

夏井先生も唖然としていた林修先生の自画自賛俳句。しかしこの「望月」も藤原道長の古代から詠まれている伝統的な月の季語です。

・望月は明し無駄なき我が板書 林修'

そして、満月の欠けのない様に思いを馳せるのは、千年経った現代人も同じなのでありましょうね。

・満月に相輪の影ひとつあり 市川猿之助
・月なにを思ふ文明開化の灯 北山宏光'

⑦ 月見の月

やはり『月』を愛でる「月見」は、秋の醍醐味でしょう。大人はきっと色々な思いと「酒」と共に月の美しい日々を愛でるのでしょうね。

・レインボーブリッジ月を迎える酒 須田亜香里'
・月見酒ほんのり苦し里の味    中村俊介'
・満月に酒に満たされたる足どり  手塚理美'

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兼題で『鎌倉の大仏と月』が出されたこともあって、満月と大仏の句をここでご紹介。大仏と共に観月が出来る、何と風流なのでしょう!

・月光をまとうて大仏の白し  篠原梨菜'
・変わらざる黄金に月も大仏も 名高達男'
・月見団子めきたる大仏の螺髪 大沢あかね'

⑧ 京都の月

・御仏も月見酒せん古都の夜  野村真美'

「大仏と月」の兼題が出された経緯から鎌倉大仏の句は多かったですが、月と古都・京都の相性も抜群でしょう。

・月今宵八坂の塔へ影ふたつ  市毛良枝'
・静けさや月の八坂に影ふたつ 石田明'

京都の地名は、読み込むだけで雅な気がしてくるからズルいですよねww 全く『月』そのものの句ではないですが、こんな地名を紹介させて下さい。

※再会や紅葉流るる渡月橋  宮川一朗太'

閑話休題。再び京都の地名を詠んだ句と、古都での恋を詠んだ句をどうぞ。

・月に雲あの仔恋しや二寧坂 田中要次'
・水匂う古都の逢瀬の月影よ ミッツ・マングローブ'

⑨ 旅先の月

もちろん、古都・京都以外の全国どこからでも月は愛でることが出来ます。

京都よりも古くから名湯として愛されてきた愛媛・松山の「道後温泉」。 そこで行われた「俳句甲子園」の対外試合で披露された一句からどうぞ。

・消灯直前に来た客と月夜の温泉の中 立川志らく
(しょうとうまえにきたきゃくとつきよのゆのなか)

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もちろん、日本列島のみならず世界中から月は眺められます。各地から来た手紙を日本で開けるのと同じく、月はどこにも、どこででも。

・封筒の刃痕やボンの月の暈  鈴木光
・月清かパリの封筒切るナイフ 藤本敏史'

原句は無線イヤホンが途絶えた光景を描いたようですが、字面どおり読むとどこか漂流してしまい、無線もついに途絶え、耳には風の音のみが聞こえる絶望的な状況に読める本句。木瀬さんのチャレンジングな作品です。

・無線絶え耳に風 見上げ、月 木瀬哲弥'

⑩ 冬の月

そして、秋から冬に至ると、『冬の月』の季節がやって参ります。冒頭で、パックンの『冴ゆる月』の句を紹介しましたが、あの月の薄黄色が、妙に寒々しく感じられるようになります。

・我が息に曇る鏡や冬の月 NANAMI'

原句のように、冬の夜に屋外で手鏡を覗き込んでいる情景でも良いですし、私は、寝室や化粧台などの大きな鏡でも良いと思いました。いずれにしても添削後の本句は、冬の凛とした空気感が『冬の月』を主役とした名句です。

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同じ冬の月でも、千原名人の手にかかれば、こんな“ひょうきん”なことに。

・冬月を捕(とら)う輪ゴムの輪の中に 千原ジュニア'

思わず動作を真似てしまいそうです。内容的には「冬」である必要性はないのですが、冬にこんな動作をする人物を想像するだけで面白い。

・枯れ柳風に踊れば月笑う  髙田延彦
・寒に覚む窓には月白の蔵王 馬場典子'

『蔵王』という地名の強さ。馬場典子さんが初挑戦で才能アリとなった作品(添削後)です。最後に同じくアナウンサーの丸岡さんの句をご紹介。

・百万個の電飾冬の月高し 丸岡いずみ'

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数詞の力を感じますね。きっと年の瀬でしょう。春はもう少し先という真冬の寒い夜の月を高く見上げながら、『花百句』の季節を待ちたく思います。

【おわりに】『月百句』のススメ

月の季語は、数十から数百もあるとされ、毎日のように「月の名前」が命名されています。月の季語を知る上でピッタリなのが、今回ご紹介した『月百句』という試みです。

「プレバト!!」でも名人10段に列せっれ、月の俳句や短歌を披露している、フルーツポンチ村上健志さんが、YouTubeの生配信で『俳句実況・月百句』を夏の終わりからずっと続けておられます。

「note」を新たに始められ、その生配信中に即吟した句たちを紹介する記事を書いておられるので、ご覧になったことのない方は是非ご覧ください!

※ここに載っている句を合わせれば、この『プレバト!! 月百句』も、100の大台を超えるかと思いますので、それでご容赦下さいww

ちなみに、僭越ながら、私(Rx)も、この生配信に感化されて『Rx月百句』を続けておりますので、ぜひこちらのマガジンをご覧頂ければと思います。それでは皆さん、良い月夜をお楽しみ下さい! Rxでした、ではまたっ!


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