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2023年/年間ベストアルバム10選

JJJ  “MAKTUB”

前作 "HIKARI" 以来、およそ6年ぶりとなるJJJの3rdフルアルバム。私生活の変化もありリリックに反映されるトピックスに広がりが生まれたことで、ラッパーとして更にステージが上がった印象の今作。コンポーザーとしてのキレ具合も素晴らしく、先日、解散発表のあったBADHOPからBenjazzyを客演に迎えた 'Cyberpunk' やDaichi Yamamotoの歌声が心地よい'Taxi'、Campanellaの変態ラップが堪能できる 'Friendskill' などアルバムの要所要所にゴリゴリのドリルが配置されており、それらが作品全体をスタイリッシュで引き締まったトーンにまとめている。'Cowboy' や 'Gradiator' などFla$hBackSの時から、彼の作る斬新でロックを感じるトラックが好きで、今作もラッパーとしては勿論のことコンポーザーとしての進化を楽しみにしていたが、期待を遥かに超える名盤が爆誕した。
お気に入り:Track 2 / Cyberpunk feat. Benjazzy


くるり  “感覚は道標”

オリジナルメンバーでドラマーの森 信行を迎えて録音された通算14枚目のフルアルバム。インディーズ時代から初期にかけて漂っていたUSインディーロック好きな熱量と、なんとも形容し難い「いなたさ」の原点回帰感に、長い活動で備わった肩の力のぬき具合がバランス良く融合したような秀作。インディーロック以外にも様々なルーツを感じさせる楽曲が詰まっており、再生する度に違うフレーズが耳に残るあたり、改めて彼らの音楽に対する造詣の深さを感じた。長いキャリアを丁寧に追いかけてきたわけではないので、今作が数あるディスコグラフィーの中でどれくらい良作なのか分からないが、個人的には「くるり」と言えば!で思い浮かべる3枚にランクインするくらいハマったアルバム。
お気に入り:Track 4 / California coconuts


YO LA TENGO  “This Stupid World”

ベテランUSオルタナバンドによる17枚目のスタジオアルバム。正直、彼らはディスコグラフィーが膨大すぎて、たまに安価な中古盤を見つけてつまみ聴きする程度だったのだが、今作はリードトラック 'Fallout' から歪んだギターの音が素晴らしく楽しみにしていた。毎回トーンが違うため、アルバムによって好き嫌いがあるが、今作に関しては全編レイドバックを感じさせながら、インディーロックと冷たいフィードバックノイズに満ちたサウンドで、これまで以上に幅広い年齢層に刺さりそうな気がした。決して野太い声で煽るわけでもなく、淡々とひんやりと諭すようなアイラの歌声は、特に深夜作業との相性が抜群で、まさに今の自分が欲している音!という感じでリピートが止まらなかった。
お気に入り:Track 6 / Apology Letter


ZULU  “A NEW TOMORROW”

LA産パワーバイオレンスの新星ZULUの1stフルアルバム。メンバー全員が黒人という点で、80年代にハードコアとレゲェを並行して演奏したBad Brainsを彷彿とさせる彼ら。ただBad Brainsがハードコアとレゲェソングを曲単位で分けて演奏していたのに対し、彼らは秒単位でハードコアとソウル・ファンクのサンプリングを交錯させるミックステープのような手法を取り入れており、その楽曲製作とアウトプットの仕方からは、やはり西海岸のパワーバイオレンス文化を感じる。性急なファストコアから一転、ビートダウンが挟まり、急にメロウなインストが差し込まれたかと思うと、途端にまたブチ切れVoが入り乱れたりと、終始緩急の調節ネジが壊れっぱなし全15曲。特にDrums/VoのChristineの歌声がお気に入りで、女性ながらしっかりドスの効いたハードコアVoで、メインVoのAnaiahとの声質の違いがとても良いアクセントになっている。未だ人種間でのトラブルが絶えない中、一部のスポットライトを浴びて輝くブラックカルチャーだけが都合よく消費されることへの痛烈な批判がこもったリリックも含め、2023年の最重要作。
お気に入り:Track 4 / Music to Driveby


なのるなもない & YAMAAN  “水月”

YAMAANとなのるなもないのコラボレーションアルバム。YAMAANは去年、CHIYORIとも共作アルバムをリリースしていたが、なのるなもないにとっては約9年ぶりの新譜。YAMAANのアンビエントアルバムが未だにヘビロテなのもあり、なのるなもないとのコラボレーションでどんな化学変化が起きるかとても気になっていた作品。なのるの歌うようなラップは更に磨きがかかっており、全編がフックのような変則的なバースであったり、イントロからビートレスで1分近いライミングがあったり、楽曲毎に緻密で表情の違う構成が光っている。挙句YAMAAN印のブリブリなスクリュートラック 'Criminal Spirituals' などにも余裕で乗りこなすフロウのアップデートも堪能できた。降神の相方、志人の生き様や神がかったラップばかりクローズアップされている気がするが、なのるなもないの進化にも改めて注目すべきだと感じた名盤。また、YAMAANの幻想的でファンタジーを感じるトラックが心地良すぎるので、どうかまたインストアルバムを作って欲しいと切に願う。
お気に入り:Track 4 / 優しくして


PILE OF HEX  “LIQUESCENCE”

京都のベースレストリオによる待望の1stアルバム。ミニマルで内省的なオルタナティブロックとBjorkのような高揚感のある歌声の不思議な融合が、まさかこの日本国内から出てくるとは。2019年の1st EPではまだエモ/インディーロックな印象が強かったが、90年代の54-71やDischordレーベルの「引き算の音楽」を今にアップデートしたようなサウンドに、更に感情表現に磨きのかかった歌声が合わさったことで、これから一気に飛躍しそうな気配を感じさせる力作。12/24にリリースされたばかりのため、まだサブスク公開されていないが 'Planet' のような映像的で壮大なサウンドスケープを感じさせる楽曲は、今後彼らのトレードマークになっていくような気がする。今後も要注目バンドの一つ。
お気に入り:Track 8 / Planet


SWARRRM  “焦がせ”

CHAOS&GRINDをコンセプトに進化を続けるSWARRRMの7th フルレンス。常時何かしらリリースしているため、特に久しぶりという印象はないが、進化のスピードが速いバンドだけに、その現在位置を確認するためにも避けては通れない作品。ロック色の濃い楽曲も並ぶが、しっかりとブラストビートを取り入れ、聞き取りやすい日本語で歌い、その上でギターも泣きまくるという、おそらくSWARRRM史上最もキャッチーで聴きやすいアルバムだと感じた。また今作はこれまで以上に語り(Not ポエトリー)が散りばめられており、一歩間違えたら青臭くなりそうな構成にも関わらず、司さんの声質と凄みでそれを成立させているのも素晴らしい。コチラもまだサブスク解禁になっていないため、シェアする手段がないのが非常に残念だが、 'わかってるはずさ' で聴ける、「語り」と「歌」と「メロディ」と「ブラストビート」の奇跡を是非一度味わってみてほしい。
お気に入り:Track 5 / わかってるはずさ


HARIKUYAMAKU  ”MYSTIC ISLANDS DUB”

HARIKUYAMAKUによる沖縄民謡×ダブで作るチルミュージックアルバム。ある日の晩、Xで誰かがポストしていたダイジェストのリールを聴き、不思議な多幸感を感じて購入。古い沖縄民謡の音源をダブ処理した楽曲の数々は、沖縄にルーツのない自分にはより新鮮で斬新に聴こえた。古い民謡レコードをサンプリングソースに使いながら、ダブ、アンビエント、ダウンテンポ、ポップ、ロックなどかなりバラエティに富んだジャンルを内包した作品で、曲によっては銀天団というHARIKUYAMAKUが所属するバンドで演奏されたものもある。CDブックレットには彼のこれまでの経歴や、沖縄とダブを掛け合わせた「島DUB」が産まれたきっかけ、さらには今作で使用された70年前に録音された沖縄古謡の歌詞の内容まで詳細が載っており、とても興味深かった。毎日様々な場面で様々な音楽を嗜んで生活しているが、個人的におそらく今年一番の衝撃を受けた作品。LPを飾りたくなるようなアートワークも秀逸。
お気に入り:Track 3 / Anigama


100 gecs  “10,000 gecs”

USで話題のハイパーポップ二人組による2nd フルレンス。なんだこの楽しく愉快で耳に残るフレーズ達は!という印象のままにリピートし続けたが、ある日、そのパンク、デジコア、エモにスカなど幅広い層をターゲットにした雑食な音楽性と耳に残るファニーなリリック、全10曲トータル30分でコンパクトな再生時間など、サブスク全盛の市場をしっかりスカウティングした戦略的な匂いに気がつきハッとした。しかし、アメリカで死ぬほど食ったスナック菓子の歌 'Doritos & Fritos' など中毒性が高くつい口ずさんでしまうサビなどには、やはり彼らのマジックを感じずにはいられない。流石に売れているだけあって、シチュエーションを選ばずいつでも楽しめるのはやはり音楽の力だと思う。
お気に入り:Track 5 / Doritos & Fritos


NOT  “STOP THE WORLD”

『「DESCENDENTSが復活してから、ALLはアルバムをリリースしなくなってしまった。だったら自分たちで作ってしまえ」ということでこのバンドは動き始めた。』と言う熱すぎる動機で発足し、ついにアルバムまで完成させたというALL大好き4人組による1st フルレンス。DESCENDENTSより断然ALL贔屓な自分にはまさにツボすぎるフレーズの応酬。メロディアスなベースラインにロックギター、甘く耳にこびりつくスコットレイノルズ的な歌声まで徹頭徹尾とてもALLしており、何よりコピーやフォロワーと言うスタンスではなく、ファンの望むALLを楽曲で表現してくれているところが素晴らしい。80〜90年代のビル・スティーブンソンがプロデュースしたあの音の分離(Bassがやたらクリアなやつ)も見事に再現されており、もはや愛情を超えて敬意すら感じる。ちなみに本家公認みたいなので、もうこれは暖簾分け二郎的なALL2.0と言う認識オケ。
お気に入り:Track 4  / Living On The Moon


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