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マイクロソフトもスタバも、CO2を他人に押し付けようとしている

「地球環境のために、お金をかける」

 これは典型的な偽善者ワードとしてもっと広く知られて欲しいものです。他人にCO2発生を押し付ける行為になる可能性が高いからです。

 例えばマイクロソフトが過去発生させたCO2を回収してトータルでゼロにすると言っていたり、スターバックスも植物由来の道具や食材に置き換えようとしています。

残念ながらこれらは、CO2が出る場所を変更するという数字のトリックでしか成し得ない、「トータルでみてCO2を増やす」行為です。理屈を説明します。

■外注を増やしたり、部門を別会社化すれば、CO2は減らせる

 ある製品の製造工場を稼働している会社があるとしましょう。この工場ではLPガスを使って炉を運転したり、自家発電して装置を動かしたりしています。よってCO2発生も必然です。この会社が、工場から発生するCO2をゼロにすると宣言するためにはどうしたらいいでしょうか。

 まず思いつくのはエネルギー源を天然由来のものに置き換えることでしょうか。しかしこれは出来るものなら誰でもやっている類のもので、熱や動力を要する工場で必要なエネルギーというのはソーラーパネルや風車程度で自前調達できるような少量ではありません。自然エネルギーが使えない以上CO2の排出は事業を継続する限り減らせません。数字のトリックを使うしかありません。要は「自社から」出たことにしなければいいのです。ここから思いつく手は2通り(+1通り追記後述)で、外注するか、別会社化することです。

 外注の一例を示してみましょう。それまでLPガスを買って炉を運転していた工程はその場でLPガスを燃やした時に出るCO2が問題なので、燃焼炉を電気炉に変更して電気で運転すればCO2が出なくなります。この時点で、電力を買う相手である電力会社の発電所にCO2排出を押し付けることになります。基本的に電気炉は燃焼炉よりエネルギー効率が悪いので、差し引きトータルで発生するCO2は増えることになります。しかし会社としては「自社から出た」CO2は大幅に抑えることに成功しているので、対外的には「CO2を削減しました」と言い張ることができてしまいます。

 もっと極端なパターンが別会社化や分社化。工場を他社に売ってしまい、そこから製品を買い取るというビジネスに転換してしまう方法です。当然別会社から製品を買うので利益が上乗せされて割高になります。工場が排出するCO2はそのままですが、その利益は他のビジネスの資金源になるので、やはりCO2は追加で発生することになります。しかしとりあえず「自社から」出たCO2の発生を減らすことには成功します。

 冒頭の主張に戻りますが、以上が「地球環境のために、お金をかける」が基本的に偽善者ワードだという理屈です。ハイコストとはエネルギー消費が大きいということであり、エネルギー消費が大きければ当然CO2は増えます。しかもそのCO2はお金を払った先の人が排出することになるので、同時に責任を転嫁しています。こんなトリックを許していいはずがありません。

(追記 2020.1.29)

 もうひとつ大事な抜け道があったので追記します。それは人件費化です。工場では多くの装置やロボットが稼働していて、そのエネルギーは現地だろうが遠方だろうが生成元でCO2を排出していますが、これをできる限り人力でやればいいという考え方です。実質的には動作するのが人であろうがロボットであろうが元をたどれば資源は石油なのでエネルギー収支としてはなんら性質は変わりません。人は石油を飲んでいるようなものだからです。人が呼吸や排泄を含む日常生活で排出しているCO2はなぜかカウントされないので、工程に人力を導入すればするほどCO2を低減できたことになります。排出源を従業員に押し付けていると言ってもいい。もちろんこれもトータルでCO2は増えます。工場が装置やロボットを使っているのは、人を雇うより安い、すなわちエネルギーがかからないということですから。

(追記終わり)

■本気でCO2を減らしたいなら、地球の歴史に学べ

 マイクロソフトはCO2を排出しないどころか、回収すると豪語しています。前記の方法は自社が出すCO2を限りなくゼロへ減らしていくことはできても、マイナス、すなわち回収することはできません。それをやると言うのです。やって出来ないことはないですが「お前ら正気か」とは問うてみたくなります。だって、CO2を回収するということは、大気中のCO2を石油や石炭のように固定化することなのですから。

 お金をかけてCO2を減らす方法があるとしたら、文字通りCO2を買い集めてくることです。しかし一度大気に拡散して薄まってしまったCO2をそのまま濃縮・圧縮などしたらそれこそエネルギーがかかって集めたCO2より排出するCO2が大きいことになるので、このような短絡的な発想でやってはいけません。集めたCO2も、そのままでは石油や石炭にならないので地球に還元できません。万が一にも保存タンクから漏れたら台無しです。

 打つ手があるとしたら、植物の光合成を利用することでしょう。竹や芋のような成長が早い植物を自社の敷地に植えまくり、育ったら刈り取って天日干しで乾燥させ、火山の近くの地中に埋めて熱と圧力を使って完全に脱水してようやく炭化することで地球に戻してやらなければいけません。元をたどればCO2の発生源になっている石油や石炭はこうやって死んだ動植物が数億年という単位をかけて地中で脱水・熟成して出来上がったものです。私に言わせればそれを数十年で実現しようという感覚がわかりません。しかも当然、この活動中はCO2を出さないだけあって何の生産益も生み出しません。

 CO2の排出量は商いの大きさを表しています。マイクロソフトがいくらお金を持っていても、CO2を回収しきる頃にはその大金がなくなって潰れていることでしょう。あるいは目標の2050年にも会社が存続しているとしたら、どんな数字のトリックを使ったのか、分析してみたいものです。

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Yoshiyuki IZUTSU

http://linkedin.com/in/yizutsu



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