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砂漠の太陽光発電が激安らしい

■太陽光発電はこんなに安くなっていた

 見落としていた個人的大ニュース。太陽光発電のコストがここまで下がっているとなれば、私も太陽光は見込みないという見解を変えなければいけないのかもしれません。

 売電価格が石炭発電と肩を並べるところまで来ているようです。ソーラーパネルは砂漠地帯に置くのが最も経済的だというのは何年も前から常識でしたが、設置までが大変という過酷環境なために実現には意外と時間がかかっていました。それにしても丸紅の2.6円/kWhとかACME社3.7円/kWhって、そこまでとは思っておらず驚き。これは配電会社向けの価格だそうで単純比較は危ないかもしれませんが、例えば東京電力だと家庭向けで20-30円/kWh, 法人向け業務用でも16-17円/kWhなので4倍以上も違う

■太陽光発電が効果的にはたらく条件は変わっていない

 もちろん、UAEやインドの全電力のうち太陽光が占める割合を今後増やすためには蓄電技術の向上が必須であることに変わりはありませんし、安くて平らな土地が必要なので場所を選ぶという問題もそのままです。日本も50年後くらいに人口が大きく減って捨てられた平地なんかが増えてきたら考えたいですね。「台風や地震の対策までしたらやっぱり無理」なんてことになるかもしれないけど。

■残念ながらCO2は減らない

 ちなみに、残念ながらこれで世界のCO2排出が減るかと言ったら、今後20-30年くらいは減りません。増えます。どんなにエネルギーの価格相場が下がっても、プラスチック、溶剤、薬品、アスファルトなどは石油を精製した原料を使って作られるので、気体燃料や液体燃料も副産物として得られてしまい、安値にはなりますが売られて供給されます。よってUAEやインドの太陽光発電で使わなくなったぶんの化石燃料は液体であることが大きい利点になる航空機、船舶、ロケットなどの大型モビリティを中心に用途が集中するだけで、結局消費されます。化石燃料の総流通量は、消費側のテクノロジーではほとんど操作できないというメカニズムは変わりません。

■電力シフトで得られる環境メリット

 いろいろなエネルギー媒体が電力にシフトしていくのは環境の視点でもちろん良いことですが、それはCO2排出が理由ではありません。あまり語られないCO2ではない他の排出ガス成分について語っておきましょう。

 燃料が燃えた時には、高温になるので必ず一酸化炭素(CO)窒素酸化物(NOx)に加え装置によっては未燃燃料にあたる炭化水素(HC)が発生します。いずれも濃度が高いと人体に悪いですし、NOxは光化学スモッグの発生を助長します。これらは当然発電所、工場、自動車などどんな燃焼装置であろうとも所定濃度以下まで除去または無害化してから大気に捨てるわけですが、当然ながらできるだけ少ない発生源にまとめたほうが効率的です。例えば自動車は、エンジンこそ緻密に制御していますが浄化装置そのものをほとんど制御していないので、認証試験に合格して市場に出ている車でもストップ&ゴーの激しい走り方をするとHCやNOxが垂れ流しになってしまいます。一方で定置の大きな発電所や工場だと長時間の連続運転をするので排ガスが安定し、浄化装置もある程度制御できるので、効率的に浄化できます。だから排ガス処理を発電所に集中させて、自動車はEVにしてしまうというのはこういう観点で大あり。

 少々私の専門の話まで掘り進めて書くと、このガス浄化には化学反応の触媒として白金、パラジウム、ロジウムといった貴金属が使われます。最近はパラジウムとロジウムの供給不足が懸念されて高騰していますが、それだけ貴重な資源を使っているということ。排ガス浄化を自動車ではなく工場で一括でやれば、これら希少資源の消費量も抑えることができます。

■砂漠での太陽光発電にも課題あり

 砂漠で太陽光発電をするという考え方自体は多くの人が簡単に思いつくものですが、意外とここまで具体的な数字で成果が見えビジネス化している実例は少ないものです。それは送電には熱ロスが伴うため。電力は運べば運ほど失われるということで、長距離を送電するとせっかくの低コスト発電のメリットが消えてしまいます。地球上でも特に巨大な砂漠であるサハラ砂漠やゴビ砂漠でももちろん検討されているのですが、この2つの砂漠は大都市までの距離がとても長いため、送電ロスが大きく実証実験の域を出ていません。やはり今のところ、自然利用エネルギーの類は地産地消以外ありえないのかもしれない。

 もう発電ではなく、蓄電と送電の技術開発にリソース配分をシフトさせたいところですね。


Yoshiyuki IZUTSU

http://linkedin.com/in/yizutsu







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