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風声

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詩文集はタイトル「風声」としてまとめてます。
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蝉/明滅

七月、私は木の傍で蝉たちを見つめていた あなたたちは最後の週を精一杯鳴き続け そしてすぐに 死んでく あなたたちが卵からかえった時 そこに何をみたのだろう それから何年も土の中で暮らしていた時 その眼に何が映っていたのだろう 成虫への脱皮の時を どのように感じとったのだろう そして地上に顔を出した時 その眼に映った世界は どのようなものだったのだろう そして雄であるあなたは まだ見ぬ雌を求めて鳴き続け 雌であるあなたは雄の声に耳を傾ける そしてやがて出会って結ばれる しか

心象

遡る事のできる一番古い記憶 自分の内や外を見つめている眼差し 幼き日々、その眼に映った様々な光景 音、空気、季節、そして人 言葉が生まれる前から すでに何かを見つめ 耳を傾け続けていた ただ無心に そこに息づく意識、その記憶 この世に生を受けた最初の瞬間 私は何を見ていたのだろう いつから喜びや不安、悲しみ、怒りなどを感じるようになったのだろう 周囲の人々の表情、行動 そこに心を読み取るようになったのは いつからなのだろう 目に映る景色や色彩の変化につれて心象も変わってゆく

始まり・終わり

私の始まり 始原の眼差し 赤裸の眼 それは遠い記憶の彼方に 封じられてしまったのか いや、それは今も変わらず 瞳の奥に息づき すべてに向かって開かれ続けている それは眼前に拡がる世界の 一つ一つのいのちへと注がれ その始まり、その終わりを その営みを 見詰め続けている