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《ここから解き放たれて》:『Meta Fair #01』

NFTアートフェア「Meta Fair #01」が3月に有楽町で開催。「Meta Fair #01」は、現代アートの第一線で活躍する20組の現役アーティストたちがNFTの専門たちと手を組み、ファインアートとしてNFTと向き合う、“日本初”のNFTアートフェアである。「NFTアート」の市場がファインアートのシーンと乖離してしまっている現在、NFTという技術媒体が現代アートにとってどのような意義をもつのかが問われている。世の中の”メタ”な世界への期待の中に芸術の価値は所在するのか。フィジカルとバーチャルの共存する近い未来、現代アートはどう立ち振る舞うべきか。本アートフェアは、そのような問いに作家として向き合う試みであり、社会へその問いを投げかける狙いでもある。ーキュレーター 丹原健翔

有楽町で催されている『MetaFair#01』に足を運んできた。#02があるのならその機会にもぜひ伺ってみたい。MetaFairと題しているが、これはリアルな場でのイベントである。正直、NFTという技術が透明になり、このバブル熱が冷めるに至らないと純粋な鑑賞体験の機会が失われてしまいそうで怖い。

NFTは価値の固定的な定点を作る。そしてその定点を中心に価値を風景化する。それが価値という曖昧な実態の背骨を担保する。しかし、その価値にも時間の経過とともに階層が生まれるように思えてしまう。このNFTにおいて最も特権的と思われる独占的な保有は、ある種、価値の経年劣化ともいうべき事態を呼び起こす。その経年劣化を抑制するためには、NFTのデジタルの振る舞いに対する包容力を理解しておく必要がある。

ひとつ作品データに自由な《振る舞い》を許容してあげる必要がある。クリエイティブの領域においては最も最古のジェンダー構造である著作権の持つ束縛を、作品から少し緩めてあげてほしいわけだ。そしてこのことで、データというゴーストの振る舞いは可能になる。やはり物質的な作品であると、振る舞いの多様さはまずこの私の身体に紹介することから始まる。だが、そういった物質性による定点の構築はデータに比べて概念的な振る舞いは削られてしまう。いわば、その所有者からすれば価値のマネジメントということになるのかもしれない。

物質性から解放されたデジタルの作品の魅力は、やはり”同時的”に世界の至る所で*《equivalent》同質な価値を提供できることだ。今までのデジタル作品は、《ここから解き放たれて》独立したエージェントとしての振る舞いを抑制されていたのではないだろうか。〈なぜ、わざわざスクリーンショットできるもの、コピー&ペーストできるものに支払いをしなければならないのか〉と。だがこのコピー&ペーストこそが、その価値の真髄であり、NFTはそのことを許容する物質から解放された定点を作り出す。

このNFTという観点から作品のことを考えると、《Ethics to Them》”作品への倫理”という言葉が時々頭をよぎる。そしてこの”作品”という言葉にどこまで広がりあるイメージを含めればいいのかもよくわからななくなっている。作品への倫理はこの世界への倫理にもつながっている。おそらく資本的価値という単一のレイヤーのみでコンセプトが只々消費されるに留まるか、縦にも横断する原点回帰的な機能性が復権した作品に”もう一度”羽化するかの分かれ道である。本展覧会キュレーターが言及している”NFTアート市場とファインアート市場の乖離”という現象は、ファインアートの世界において作品は多様なレイヤーを同時に消化することを試みる。NFTアートに登場する作品の多くは、NFTバブルが産んだ新規レイヤー上での熱で、’まだ’〈NFTアート〉という単一の価値としてしか注視されていないように思う。だがこの乖離の克服の先に、新しい作品(論)の可能性が生まれるといいな。デジタル作品などという形容も不要になってくると感じている。私は作品は完成した瞬間から、作家や所有者からは独立して振る舞える思っている。《作品への倫理》という大袈裟な言い分をしてしまったが、作品にも特有の立場があり、そこに《定点》にあらなたアートの風景が立ち上がってほしい。

最後にリアルの価値についても少し触れておこう。今回はリアルなイベントであったから。おそらく価値にも階層がある。そしてやはりこのリアルというこの身体に直接動機を代入するような価値の階層はまだ当分健在なのではないだろうか。今回の企画のひとつでもあるオープンスタジオは”作品前後”の境界を溶解して、アーティストの振る舞いの一端として可視化してるわけだが、このイベントのオープンスタジオは唯物的な世界リアルも官能さにも目が向くものであった。そして何より作品の強度を担保する要素のひとつとして重要である。

このテクストは”NFTの観点から作品論を展開しよう”という言い分になるため、もし資産のポートフォリオや投資に関心があった方には内容はだいぶ浮足だったものに思えたかもしれない。申し訳ないです。


*『時間は存在しない』カルロ・ロヴェッリ著を参考に。
*この《equivalent》という言葉は本展覧会に出展している小山泰介氏の作品《equivalents.dng》より
https://re-view.io/ (今回の展覧会のオフィシャルサイト)
https://ethereum.org/ja/nft/#main-content (言語を日本語に設定してみてください)
https://www.artnews.com/art-news/news/nft-guide-1234614447/

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