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no,1【混乱と素直「それからの彼女」】

なぜだか、〇〇の妻
と言われる女性の存在に惹かれてしまうんです。

〇〇のに当たる人物もたしかに大物なのですが、それでも妻にもスポットライトが当たる。それだけで、無視できないような魅力を放っている気がしてならないのです。

それからの彼女
の著者”アンヌ・ヴィアゼムスキー”はフランスの映画監督ジャン=リュック・ゴダールの妻でした。
彼には何人かパートナーがいたそうですが、その中でも交際期間が最も短い女性でした。

彼女がゴダールと結婚した頃、彼の映画は政治的メッセージを強めていました。共産主義の思想に傾いていたゴダールの妻なら、知的で大人の女性だと勝手に思い込んでいました。

けど彼女はそこまで政治に強い関心を持っているわけでもなく、そういった討論の場に同行するたびに混乱を表現しています。とても素直で無邪気。目の前の出来事にあまりにも心動かされている様子に心配になります。

彼女は時に強い意志があり、かと思えば流されやすい、そんな統一感のない印象がありました。

訳者の後書きまで読むと、自叙伝ならではの主観の強い描き方がその印象を裏付けていたことに納得が行きました。それは彼女が未熟さを、隠すことなく描いていたからだと思います。

 彼(ゴダール)の機嫌に振り回されることがあったり、交友関係によって広がっていく可能性。それらの影響を受けて彼女の内面はページを捲るにつれて、一人の女性として自立していきます。

 パートナーへの違和感、自分の人生を選んでいくこと。別れを決める決定的な事件が起こるまでの時間を現実的な言葉で綴っている。それがこの本の一番の特徴でありメッセージなのだと思います。

自叙伝というほどに堅苦しいほどでなく、詳細に書かれた日記のようで、したしみやすい。

〇〇の妻と呼ばれながら、それでも埋もれない輝きを放っている彼女の人生の一欠片に出会ってみてはいかがでしょうか。


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