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Camila Meza / Traces

チリ出身のシンガーソングライター、カミラ・メサ。レベッカ・マーティンやベッカ・スティーヴンス、グレッチェン・パーラートらと並んで、現在誰しもが彼女の声を欲しがるファーストコール・ヴォーカリストといっても過言ではない彼女の米サニーサイドからのデビュー作が今作だ。思い返すと彼女のデビューは、ジャズがアメリカだけの音楽ではなくワールドワイドな言語になり、世界中から様々なミュージシャンが台頭するようになった昨今のジャズシーンを物語るエポックメイキング的な出来事ですらあったように思う。

2007年に若干22歳でスタンダード作品「Skylark」で作品デビュー。オーセンティックでストレートアヘッドな演奏と、いわゆる”美女ジャケ”で往年のジャズファンにも訴求力抜群な作品だった。自らがヴォーカルに加えてギターも弾くことから、ヴォーカル+リズム隊という既成のフォーマットではなく、各楽器が等価に扱われており、ハミングを交じりに歌心豊かで流れるようなギターソロはカート・ローゼンウィンケルを彷彿とさせ、この頃から既に現在まで続く彼女の魅力が詰まっていたと言えるだろう。

続く2009年作の”Retrato”では母国のフォークロアに加えて、Björkといったポピュラーソングをも取り上げルーツに迫った作品に。既存の曲をまるでオリジナルのようにフレッシュなアレンジを施し、アレンジャーとしての才能を魅せると同時に、英語と母国語であるスペイン語を使い分けたのもこの作品が最初だ。そして2013年にはピアニストのアーロン・ゴールドバーグと共同プロデュースでミニアルバム”Prisma”リリースし、メジャーデビューへの準備を整えた。

そして満を持してリリースされたのがこの”Traces”。
ジョシュア・レッドマンやブラッド・メルドーなど数多くの作品のプロデュースを手掛けてきた腕利きのマット・ピアソン、アヴィシャイ・コーエン・トリオで名を馳せ現行ジャズシーンでも随一の腕前とメロディセンスを持つピアニストのシャイ・マエストロや、Blue Note All-Starsにも参加しているドラマーのケンドリック・スコットら錚々たるメンツが参加し、いわば鳴り物入りでシーンに迎えられた。

この作品ではシンガーソングライターとしてのカミラが一段と生きているように感じる。まるで、ギターソロすら唄うことの延長であるかのように流暢でメロディアス。そしてジャズミュージシャンにありがちな自身を誇示するような長すぎるソロも見当たらない。さらには物怖じすることなく、自英語と自身のルーツであるスペイン語を使い分け、母国のミュージシャンも取り上げる。これらのハイライトとなっているのが”Para Volar”や”Amazon Farewell”、弾き語りと爪弾くギターで送られる”Luchín”ではないだろうか。

さらには過去作で魅せてきた音楽性をさらにブラッシュアップさせ、チェロやゲストヴォーカルも交えてもなおシームレスで見通しがよくなっている印象も受ける。メロディを大切にしていることを随所に感じ、そのおかげか色彩豊かでドラマチックに仕上がっている。ここにはシンガーソングライターはもちろんのこと、コンポーザーやアレンジャーとしてのカミラの才能が同時に生きているようにも思える。

デビュー作にしてすでにルーツをはっきりと提示し、シンガーやコンポーザーとしての才能を遺憾無く発揮した今作は、多国籍になったジャズシーンにとって待望の作品になり受け入れ、まさにファーストコールなヴォーカリストとして各所に引っ張りだこになるわけだが、キューバ出身のピアニストであるファビアン・アルマザンの「Alcanza」で大々的にフィーチャーされ更なる注目を浴びる。ヒスパニックである彼が後の世代にもメッセージを伝えるために歌詞を書き、カミラを招いた理由をこう語っている。

カミラの音楽を聴くまでは歌詞を書こうなんて思ったことなかったからね。カミラの歌が僕に歌詞を書かせてくれたんだ。
(『Jazz The New Chapter 5』Fabian Almazanのインタビューより引用)

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