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ドラマ『ハヤブサ消防団』~池井戸潤が描く一味違ったミステリー~


テレビ朝日系列で7月クールに放送されていた『ハヤブサ消防団』。
遅ればせながらNetflixでイッキ見させていただきました。

いや~、これはおもしろすぎましたね。。
下手したら『VIVANT』を越えるんちゃうか、ぐらいのおもしろさでした。
『最高の教師』といい、2023年の夏ドラマは当たりでしたね。

全話を観て思った、僕なりの感想、ドラマの魅力をまとめたいと思います!



※以下ネタバレあり※


一味違った角度のミステリー

『ハヤブサ消防団』は言わずもがな、原作が池井戸潤の作品。
というか、CM前後に出るタイトルの所に「原作 池井戸潤」ってこれ見よがしに出ていましたもんね。笑
すでに日本のドラマ界で確立されている「池井戸ブランド」を前面に押し出す潔さがありました。

亡き父の生家に住むべく、山奥の集落「ハヤブサ地区」に移住してきたミステリー作家が、地元の消防団とともに、謎の連続放火事件を解決するべく奔走するという物語でしたが、一口に言うなら、ただのミステリードラマではなかったですよね。

言うなれば、社会派ミステリーとかなんですかね。

『半沢直樹』で知られる原作者の池井戸潤ですが、もともとは銀行員で、本格的に小説家に転向する前はビジネス書を執筆していた金融畑の人。
なので、ただのSFを見せられてる感じじゃないんですよね。
殺人や放火という犯罪の向こう側にあるのが、怨恨などといった精神論だけで描かれていませんでした。

第4話で、放火にあった家は隋明寺に多額の寄進をしていたという共通点と、そこは太陽光発電のための土地としてルミナスソーラーに購入されていたという事実を、太郎(中村倫也)が突き止めるシーンがありました。
村の地図を広げて、マーカーでチェックする描写に、どこか“半沢み”を感じた視聴者は多かったのではないかと思います。

池井戸作品って(偉そうに語っているけど、『半沢直樹』と『陸王』しか観ていないです)、理解するのにある程度の知識を要するんですけど、それを理解した時に得られる一定の気持ちよさがありますよね。

経済に精通している、金融の知識が深いというのが根底にあるので、物語に重厚感が生まれるというか、やけに説得力があるんですよね。


物語の核である、新興宗教の実態もリアルに描かれていましたね。
彩(川口春奈)がアビゲイルに入信した時期の回想シーンで、めっちゃええ人達に助けられる感じがすごく生々しかったです。
最初に教団の施設に来た時、おばさん信者たちに気さくに話しかけられ、「実はいい所なんちゃう、、?」と感じさせるあの感じ絶妙でしたね。一瞬で善悪の判断を付きにくくさせるというか。
鳥みたいな顔した代表(弁護士)の演技もちょうどいい気味悪さでしたね。

芝生で白装束の感じが、映画『ミッドサマー』の雰囲気もありましたが、設定がリアルでぶっ飛びすぎてなく、身近な感じもする、“人怖”系でゾッとする仕上がりになっていました。


不動産、太陽光発電、新興宗教。さすが社会派・池井戸潤が描くミステリーって感じでした。

あと、不倫をしていた町長の弱みを握るために、町長室に忍び込むシーンとかも若干の“半沢み”がありましたね。
あのミッションインポッシブル感も池井戸作品って感じでした。


てか、池井戸潤ってもともとミステリーの人なんですね。
小説デビュー作の『果つる底なき(1998)』で、いきなり江戸川乱歩賞を受賞しています。
ものすごい才能ですね。そら、このドラマも伏線とかしっかりしてますわ。
いや、誰が言うてんねん。

でも最初伏線を張るだけ張ってましたよね?
3話くらいまでは山場ほぼなかったですもん。なんかその辺も地上波で終わらせるだけじゃなく、最初から配信サービスに持っていくという魂胆があってのことだったんですかね(正直イッキ見しやすかった)。


田舎が作り上げる特有のコミュニティ

『ハヤブサ消防団』は、その名の通り消防団をテーマにしたドラマでしたが、消防団というフィルターを通して、田舎の“陰”と“陽”が鮮やかに描かれていました。

“個人主義”を象徴する、東京からやってきた作家・太郎ですが、「作家」がそもそも“個人主義”の代表のような職業なので、集団を形成する消防団と上手く対比されていましたね。

「共に生活する」ということは、連帯感や仲間意識が生まれ、助け合えるというプラスの側面がありますが、それと引き換えに「煩わしさ」という負の側面も付きまといます。

村全体の煩わしい雰囲気に辟易する序盤の太郎の様子が、プラスの側面を受入れる後半のフリになっていてよかったです。


消防団やその周りの村人との噂話によって引き起こされる様々な事件が、田舎のコミュニティの狭さを表現していましたし、檀家の存在も田舎ならではでしたね。

日本の村、集落には必ず一つはある菩提寺。
その周りの檀家という存在が形成するコミュニティは、まさに田舎ならではのもの。
檀家を通じて事件が起きていくなど、村社会が持つ特性や、価値観を上手く利用した作品でしたね。

比べるのも変ですが、『VIVANT』がグローバルな面白さなら、『ハヤブサ消防団』は、日本の村社会だからこそ表現できるローカルな面白さが存分に出ていたと思いました。



ちなみに池井戸潤って、ハヤブサの舞台のモチーフと同じ岐阜県(本人は美濃加茂市)出身だったんですね。
だからこそ、田舎が生み出す小さな世界を巧みに描けたんでしょうね。


作品を彩る名バイプレイヤーたち

このドラマの、実は最大と言っていい魅力は、百戦錬磨の名脇役たちによる演技です。
消防団を構成するメンバーは、言わば全員「何かしらのドラマで見たことある人」でした(若干失礼)。

生瀬勝久、橋本じゅん、梶原善、岡部たかし、満島真之介と、脇を固めるベテラン役者たちが強すぎました。
満島真之介を除く4人はもともと劇団出身の俳優。
「さんかく」の座敷で織りなされる会話劇はテンポ感抜群でしたもんね。
「最初はうざったらしいけど、実は人情味がある田舎のいいおじさん」という空気感を、熟練のおじさん俳優が上手く作り上げていたと思います。

生瀬勝久と橋本じゅんの「昔からの同級生」という設定も、「この土地にずっと住んでいる人々」を自然に表現していましたし、梶原善の役所勤めというキャラ配置もリアルでよかったですよね。

個人的に橋本じゅんと岡部たかしは、最近観たドラマですごく印象的だったので、テンションが上がりました(橋本じゅんは『MIU404』の粋な上司役、岡部たかしは『エルピス‐希望、あるいは災い‐』の意地悪なチーフプロデューサー役)。
特に岡部たかしは、『エルピス』では東京のテレビマン役だったので、そのギャップに最初はついていけませんでした。笑


満島真之介演じる勘介の存在も大きかったと思います。
「あんなやつおらんやろ笑」と言いたくなるほどのデフォルメ激しめの演技でしたが、あの勘介を通じて、「都会に行かず、ずっと田舎に住む若者」を視聴者それぞれが投影できたと思います。
本質的には正しくて、情熱的なのはわかるんだけど、どことなく都会の人間の価値観から見るとずっとズレているというか。
私服の感じとかも絶妙でしたね。東京観光の時のノースリーブとかやりすぎてましたもんね。笑
そのあたりの演出も完璧でした。

消防団以外で言うと、山本耕史演じる編集者・中山田もよかったです。
張り詰めた展開の中で唯一のクッション的役割でしたね。
中山田が出てきたら安心するというか、ちょっと癒されましたもんね。笑
Netflixドラマ『離婚しようよ』の政治家役と言い、最近の彼は饒舌な三枚目ポジションなんですかね。


もちろん主演・中村倫也の、役を感じさせない自然体な演技もすごかったですし、川口春奈の常に何かを抱えているであろうという、憂いを帯びた表情もさすがでした。

しかしこのドラマは、名バイプレイヤーたちの素晴らしい演技によって支えられ、最高の仕上がりになったと強く思いました。


おわりに

それにしても、最後の最後まで目の離せないめちゃくちゃ面白いドラマでした。
ていうか調べて分かったんですが、池井戸潤原作の小説ってドラマ化率高すぎますよね。特に『半沢』以降はほぼ映像化されてますもんね。
偉そうなこと言って全然観てないので、他の作品をもっと観なくてはなと思いました。

10月期も個人的に刺さったドラマがあれば、また感想記事を書きたいと思います!

それでは、また!



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