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その空間にふさわしい思考がある

GWの初日。
その日は、六本木にある「文喫」という本屋さんに向かった。

文喫は、祝日入場料2530円。
落ち着いた雰囲気で、無料のドリンクを嗜みながらゆっくり読書を嗜むのに居心地の良い空間である。

初めて訪れたこの場所で、空間が生み出す「自分の思考や居心地」について、不思議な感覚に陥った。皆さんも一度は味わったことがあるであろうこの感覚について、まさにそれに気付いたこの場所から発信をしたい。

文喫にて

「GWはゆっくり読書でもしたいなぁ」という話をしていると、彼女が文喫について教えてくれた。

休日は倍近くの値段がするため若干の抵抗を感じたものの、折角の5連休を充実したものにしたいと思い、まるまる予定が空いていたGW初日に行ってみることにした。

入場料を払い、中に入ってみると、そこは非常にゆっくりとした空気感が漂っていた。6~7割くらいが若者で、残り3割くらいがマダム。半数以上が女性で、カップルも何組かいた。

机でPCを叩いて仕事をしていそうな人も何人かいたものの、多くの人が雑誌や本を嗜んでおり、話し声もほとんどない静かな空間だった。

観葉植物が至る所に置いてあり、照明は暗め。ゆったりしたピアノっぽい音楽が、この空間を作り出すのに大きな役割を果たしているように感じた。


最初は、初めて訪れた空間に少しばかり居心地の悪さを感じながら、空いている席に腰を据え、持参していた「時間効率化」の本を開いた。

静かな雰囲気が程よい緊張感を生み出してくれているのか、そこそこ集中して本を読み進めることはできた。途中まで読んだところで、何となく「折角こんなところに来ているんだから、普段読まないような本を読みたい」と思い立ち、席を立って本コーナーへと向かった。

ビジネス。科学。歴史。文学。
さまざまなジャンルがあったものの、本の数自体はそれほど多くなく、比較的分厚めの本が多いように思えた。

15分ほどふらついていると、15時の「フィーカタイム」というのが始まった。

スウェーデン発祥のフィーカタイムは、どうやらコーヒーブレイクのようなもので、フィーカは「コーヒー(coffee)」を逆読みしたもの(寿司のシースー的なこと)らしい。
「シガール」と呼ばれるお菓子をいただき、一緒に添えられていた本を言われるままに1冊手にとり、席へと戻った。

手にとったのは、法橋ひらく作の「それはとても早くて永い」という本。開いてみると、1ページに2~3行しか書いていない、詩に近いような内容だった。

最初の数ページを読んだところで、全く何が書いてあるのか理解ができず、最後のページに書いてある「あとがき」へと進んだ。そこで初めて、この本が「歌集」であることがわかった。

あとがきを見ていると、少しずつ、その本が自分の中に浸透していくのを感じた。短歌は、5・7・5・7・7という短い文章の中に、言葉以上のメッセージが含まれている。流れ作業のように文字だけ追っていたって、理解などできるはずもない。

ビジネス書を速読しながら必要部分だけピックアップする、という読み方に慣れていた自分にとって、その本は思考を変えるきっかけとなった。

そのとき、なんとなく、この空間に自分自身が馴染んでいくような感覚も覚えた。それまで感じていた居心地の悪さも、気づけばなくなっていた。

それは、時間が解決してくれたものなのだろうか。
身体が慣れていっただけなのだろうか。

それはどちらでもなく、この空間にふさわしい思考になったんだということを、その本が気付かせてくれたような気がした。

空間と思考

どっぷりとビジネスの世界に浸かっていた自分の思考は、「生産性」や「スピード」といったものを追い求める思考になっていたように思える。

どうすればもっと仕事の質を上げられるか。
効率的に仕事をこなすにはどうすればいいか。

そしてその思考は仕事の時間だけでなく、プライベートの時間までもその考えから抜けられずにいたのだろう。
もちろん、それが悪いというわけではない。ただ、気付かぬうちに自分が何かの思考に縛られている、ということは往々にしてある。そしてその思考が、この空間に相応しくなかったのだ。

この空間で「時間効率化」の本を読みながら自分が感じていた違和感は、それだった。PCを叩きながら眉間に皺を寄せている、忙しい風の男性に場違い感を覚えていたのも、それだった。

空間が創り出す空気感。
空間に合った時間の過ごし方。

この空間でどのような時間を過ごしてほしいか。
どのような時間を過ごしたい人向けに作られているか。

そして、どんな思考を楽しみたい人が訪れる場所なのか。

空間にはコンセプトがある。仕事モードの思考を切り替えたいと思った時、ここはそれにふさわしい空間であるとともに、空間によって自分自身も切り替えることができるのだということに気付いた。

空間が人の思考を創る。
そんなことを体感した、文喫での出来事。

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