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母の職場の文字環境が、私の一言で変わった話

ある日母がしょぼくれた顔で、「大きなミスをして残業になっちゃったんだよね」と言った。

どうやら数字を読み違えてしまっていたせいで、記録と実値に齟齬が出てしまい、大幅な再検査になってしまったという。

母は化学工場の安全検査の仕事をしており、ちょっとした数値の違いが大きな問題になり得てしまう。
それゆえどうやら職場の人間総出で再検査になってしまったらしく、人の良い母はとても悲しそうだった。


「そっか〜、そういうの申し訳なくなるよね。ちなみに何を読み間違えたの?」

「3と9を間違えちゃったんだよね。疲れていたとはいえ、読み違えるぐらい目が衰えちゃったのかな…アラフィフとはこういうことなのか…」

老眼にもなっていない母が自分の目を責めるのを聞きながら、私は「ん?」となった。

3と9を見間違えるって、よくユニバーサルデザインフォントの話であるやつだよな。一箇所繋がってるか否かの違いだけで、確かに丸っこさとか同じだもんな…🤔

https://font.designers-garage.jp/media/ud

「これはもしかして私のフォントオタク知識が活用されるときかもしれなのでは!?」

急にワクワクしてきた私は、母に「どんなフォントを使ってるのか?」「もしかしてこういった3と9が似たような形をしているフォントなんじゃないか?」「文字のサイズを大きくしてはダメなのか?」と問い詰めた。


その結果、

  • Arialのようなフォントを利用していること(母のうろ覚えなので…)

  • 自社システムで文字サイズをユーザーが変更できないこと

  • にも関わらず7-8ptぐらいの文字表示が標準使用されており、視認性が低いこと

が判明した。システムが悪くない?


その場で私は母にプレゼンをした。(出先でパスタを啜りながら)

  • 母が悪いわけではないこと(重要!)

  • 50過ぎ+not老眼+基本裸眼の母で見えにくいものなら、正直他の人の多くも「そういうもの」として諦めてるだけでおそらく見えにくさを感じているであろうこと

  • 前提、7-8ptの設定が標準になっている業務システムは「見づらい」こと

  • その上で、母が使用しているであろうArialは、よく使われるけど数字の判別がしやすいフォントではないこと

  • 世の中にはUDフォントというものがあり、巻き込み具合を変えたり形をちょっと変えたりすることで数字や文字の判別性を高めているものがあるということ

  • UDフォントが使えずとも、何かしら「フォントを変える」ことが解決策になるかもしれないこと


そうして「フォントを変える」という気づきを得た母親は、同僚と改善策を相談し、文字サイズを大きくするよう上に掛け合い、フォントを変えたらしい。

「見えにくい」ってちょっとおばさんみたいで恥ずかしくていえない。という母の乙女心もわかる。
でも、もしかしてその乙女心が職場中に蔓延していたことでシステムが改善されず、しばしば起こるエラーになっていたのかもしれない。(妄想だけど)


この出来事で私が思ったことはふたつ。

  1. 「読みやすさに特化したフォントがある」って知らなかったら、「フォントを変えて読みやすくしよう」ってならないんだな、ということ

  2. 「加齢によるものだ」と諦めてしまうことも、実はシステム側の改善によって大きく変わることが、身近に溢れているということ


ユニバーサルデザインは、多くの企業が開発を進め、どんどん簡単に使えるようになっていると思う。
でも、それを必要な人が知ってなかったら、本当に使うべき場面で使うことができない。

ちょっとしたユニバーサルデザインの知識を、みんなが知っていたら「誰でも使いにくいを使いやすくできる」という状態になる。

そうやって、世の中の当たり前をちょっとでもアップデートできたらなあ。そして、デザインを学んだ人間として得た知識を少しでも多く世の中に還元していかなきゃな。と思った一件でした。

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