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「図説 金枝篇(上)(下)」(J・G・フレーザー著、M・ダグラス監修、S・マコーマック編集、吉岡晶子訳、講談社学術文庫)

読了日: 上; 2023/9/5、下; 2023/10/11

 “ネミの森に祀られる女神ディアナを護る司祭はオークのヤドリギによって殺され、交代してきた”風習が何を意味するのか?をキリスト教儀以前の世界各地の習慣、祭り事を調べ、その意義と理由を明らかにしていこうとします。
 初版は1890年と古く、初版後も著書フレーザーはキリスト教儀以前世界各地の祭り、風習を詳しく調べ続け1936年に全13巻としてまとめたものです。本書は要約版の邦訳です。

 自然的な集団生活の中で培われてきた習慣・風習は各地各様ではあるものの、どこかしらに共通性が見いだせ、その源は自然への畏怖・恐怖があるようです。
 共通的に恐れられる事象とは、農作物に影響をおよぼす気候です。雨乞いをおこなう(つまりその効験が認められるとする)シャーマン(または類するもの)がその士族の長となり、王となりあがめられるという集団生活での自然的な社会の発生となっていくと推察されるものです。
 各地の自然信仰を基にする神や王などにまつわる神話は、その自然への畏怖・恐怖や農耕の季節的習慣の伝達とともに継承されてきたものです。

 フレーザーはイタリアのネミの森の風習をもとに、当面の目的はこの風習の意味・意義を明らかにしようとするものですが、総合的に提示されるのは原始的な宗教(自然崇拝)は、有史以前からの人間の営みがいまも継承されてきていることであり、その人間性(のようなもの)がいまも社会の根底にあると思わせるところは、社会人類学の基礎となったことに肯ける点です。

(その他所感)

  • 一部に、本書に掲載の図は本文にその説明がなくおかしいのでは、という記載をみましたが、上巻序文にあるとおり本書は全13巻をかなり要約した構成であり、そのためかなりの部分を削除しているものです。それをいくらかでも補足するために本文に関連するその他事例を図によって明示しているものです。オリジナルの13巻には各々図に関連する記載があるのでしょう(確認はしておりませんが)。

  • フレーザーの「未開人」という呼称、また未開人に対しての無知、野蛮などの表現は時代背景によるところが大きく、フレーザー自身は差別主義者ではないと序文で断られてはいるが、その点を考慮してもフレーザーが差別的視感は幾分あると思います。第2部、第4章にて未開人への配慮を記しますが、19世紀後半~20世紀前半には非差別的な思想も十分芽生えてきていた時代と思います。その点への配慮が十分でない点は著者自身の思想根底に起因するものと感じます。

  • 「ヤドリギ」とは聞いたことがあるものの、どのような植物かはよく知りませんでした。本書下巻中盤ではヤドリギがどのようなものかに触れるのですが、そこまでの道は長くwebで調べてみました。”樹木の上の方に丸く鳥の巣のような形状で寄生する植物”でまさに宿り木とのことでした。オークとヤドリギの関係が最初は分からなかったのですが、なるほど、”オークに寄生したヤドリギ”ということだったのですね。


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