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「利己的な遺伝子 40周年記念版」(リチャード・ドーキンス著、日高敏隆、岸由二、羽田節子、垂水雄二訳、紀伊国屋書店)

読了日: 2024/1/27

 本書を知るきっかけは「理不尽な進化」(吉川浩満著、朝日出版社)でした。それから随分時間が経ちましたがようやく読了しました。
 初版は1976年(英国、邦訳は1980年「生物=生存機械論」として発刊)、第2版が1989年(英国、邦訳は1991年)、30年記念版は2006年(英国、邦訳共)に発刊されています。
 第2版では”第12章 気のいい奴が一番になる”、”第13章 遺伝子の長い腕”が追加され、30周年記念版では序文「30周年記念版に寄せて」(ドーキンス)、第2版で削除されていた序文(ロバート・L・トリヴァース)の再掲、書評の収録がなされています。本書では「40周年記念版へのあとがき」(ドーキンス)、および「40周年版への訳者あとがき」(岸由二)が追加されています。なんと永く版を重ねていることか、本書の有意義性が感じられます。
 ゆえに本文は410頁ですが、全体では581頁にふくらんでいます。ボリューミーですが紙の選択が良いのでしょう、さほど重くなく手に持って読めます(けれども、やはり手と頭は疲れますが…)。

 チャールズ・ダーウィンの「種の起源」からの生物学(生態学?)のなかで、著者自身も認めるダーウィニズムとして、生物は遺伝子を子孫に残す(継承させる)ための”生存機械”であるとのキーセンテンスを軸に、遺伝子を主人公に(遺伝子からの目線で)描かれるスキームです。そしてこの論考の評価と正しさへ投票が本書の存続となっているのでしょう。

 遺伝子は自身のコピーを後世につなげてゆくことのみを目的としており、生体内にて保護され生殖子を経由してその目的を果たそうとする。この唯一の目的を達成するためには、さまざまな環境の中でまずは”生物機械”としてある程度生き続けなかればならない。有性生殖の場合(例外あり)、雌雄間で選ぶ/選ばれる競争もくぐらなければならない。

 人間の場合、自身が完全に利己的であると自覚するのは困難なことでしょう。個人差はあるとしても他者とのつながりのなかで生きていることを自覚しているし、つまり他者を思いやるなどの利他性もあることを知っています。
 本書の興味深いところは、利他性も”利己的な遺伝子”をもって説明可能であるとするところだと思います。他生物においても、科学的な観察をもって(人間主観の擬人化による”意識”のような存在を丁寧に排除していると思われます)利他的行動も同様に説明されています。
 有性生殖の場合、子は親から正確に50%ずつの遺伝子を受け継ぎ、兄弟、従弟も一定の割合(計算による)の遺伝子共通性を有します。
 グループ、社会など遺伝子の共通性を持たない関係下でも、自身の遺伝子を継承させていくためには、どのような行動がもっとも成功率が高まるのかが検証されています。(数値的な説明は小生にとっては理解に苦労しました…ちゃんと理解できていないかもしれません)(本書は計算式をあらわさずにすべて文章にて説明されています。よって”訳者補注”にて計算式が付されています)
 ”第13章 遺伝子の長い腕”では体内に留まらず生物の活動、表現も進化の因子となるという考察はさらに感慨深いものでした。
 ちゃんと理解しようとしながら(一部叶わず)読み進めたため思いのほか時間がかかりましたが、有意義な経験でした。


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