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「検事失格」(市川寛著、毎日新聞社)、「いつか春が—父が逮捕された「佐賀市農協背任事件」(副島健一郎著、不知火書房)

読了日: 「検事失格」; 2023/4/4、「いつか春が」; 2023/6/19

平成13年(2001年)に佐賀市農協職員が逮捕、起訴された事案を「佐賀市農協背任事件」という(ことらしい。事件名の規定方法は不明だが)。
この2冊はこの事件を主題とする、起訴、逮捕した側の佐賀地方検察庁主任検事(当時)による「検事失格」と起訴、逮捕された冤罪被害者となる佐賀市農協組合長の息子による「いつか春が」です。
事件概要は、同農協が融資した案件に不正(担保を過大評価し、貸し倒れリスクを発生させた)があると目され、担当責任者3名が逮捕、起訴されたというもので、警察捜査による刑事事件ではなく検察庁独自捜査により立件された。判決結果は、検察庁による調書捏造などが明らかになり2名が無罪となった冤罪事件である(より詳細は割愛)。

「検事失格」では、市川寛氏(「いつか春が」内ではI検事と表記)が、冤罪事件を前後含めて告白する内容です。
「いつか春が」では、逮捕された組合長の息子が、父親の無罪を信じ冤罪を晴らすべく奮闘する内容です。
事件の契機と、判決(平成17年、福岡高裁)内容は公表されている事実として確認できるものです。相違があるのは、おもに取り調べ中の言動などで、冤罪被害としては、社会的信頼を失墜させられた被害者当人とその家族、そしてPTSDとして認定されような心身の障害を被ったことです。
加害者側の件時の被害は、県辞職を失職したことであろうが、その起因は当人によるところが大きいと思う。

2冊を比較しながら事実解明をそらんじてみるわけではないですが、双方に過剰な、または弁明的な様相があらわれていて、当事者それぞれの心情を綴ったものだったとの感想です。
冤罪事件ですから、「いつか春が」に記される冤罪のおよぼす被害に注目されるべきだと思います。2冊の大きな相違は取り調べ中に検事が「ぶち殺す」と何度怒鳴りつけたかという点に収斂されると思います。市川氏は1回、副島氏は(息子の代弁として)何度も何度も。回数が実際何回であったかが明らかにされる必要はないかもしれないけれども、ここに両書の(両者の)スタンスの違いがあらわれてくる。検事は弁明(弁解)として、冤罪被害者は検察の卑劣行為の暴露として。

検察による冤罪被害が日本特有のものなのかは、よく存じ上げませんが、再審請求が実現しにくい理由は検察資料(証拠)が開示されない(開示義務がない)ことにあることは、最近の報道でも知りました。つまり制度上解決すべき課題もあるということでしょう。その他の点において、市川氏が暴露しようとするのは、検察内部の体制上の(つまり権威主義的集団)の課題です。
それぞれの本は、具体的に冤罪をなくすための具体的方策を提示・提案するものではありません(これらを主題とする要旨ではない)。けれども、これら告発が、体制改善につながる要素となりえる可能性はあり得る思います(思うだけですが)。その点において価値のある2冊であったと思います。


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